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馬の文献:中節骨骨折(Radcliffe et al. 2008)

Blog_Litr0302_Pict02_#08

「関節鏡手術による馬の冠関節の掌側および底側骨軟骨片の除去」
Radcliffe RM, Cheetham J, Bezuidenhout AJ, Ducharme NG, Nixon AJ. Arthroscopic removal of palmar/plantar osteochondral fragments from the proximal interphalangeal joint in four horses. Vet Surg. 2008; 37(8): 733-740.

この症例論文では、馬の中節骨の破片骨折(Chip fracture of middle phalanx)における外科的療法の治療効果を評価するため、2002~2007年にかけて、冠関節(Pastern joint: Proximal interphalangeal joint)の掌側および底側の骨軟骨片(Palmar/Plantar osteochondral fragments)に対する、関節鏡的な除去(Arthroscopic removal)が実施された四頭の患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。

結果としては、中節骨の破片骨折を発症した四頭すべてにおいて、基節骨(Proximal phalanx)の遠位顆状突起(Distal condyles)より2~3cmの位置に設けられたポータルを介しての関節鏡アプローチによって、掌側および底側の骨軟骨片の除去が達成されました。そして、この四頭のうち三頭は、術前と同じレベルの騎乗使役に復帰し、残りの一頭は野外騎乗馬(Trail riding horse)として運動復帰したことが報告されています。このため、馬の中節骨の破片骨折に対する外科的療法においては、関節鏡手術を介しての掌側および底側骨軟骨片の除去が有効であることが示唆されました。また、この研究で用いられた術式では、背側関節嚢(Dorsal joint pouch)に穿刺した針を介して、掌側および底側関節嚢(Palmar/Plantar joint pouch)を膨張させて、掌側および底側における関節周囲組織への生食漏出(Peri-articular saline leakage)を予防する方式が推奨されています。

一般的に、馬の冠関節の掌側および底側骨軟骨片は、正軸性の骨片(Axial fragment)と遠軸性の骨片(Abaxial fragment)のいずれにおいても、疼痛を示したり跛行(Lameness)の原因となること無く、購入前検査(Pre-purchase examination)などの際に偶発的に発見(Incidental finding)されることも多いことが知られています。このため、レントゲン検査でこれらの破片骨折片が見つかった症例においては、必ず冠関節麻酔(Pastern joint block)によって跛行改善が起こる所見を確認して、骨片の有意性(Significance)および外科的摘出の必要性を見極めることが重要である、という警鐘が鳴らされています。

この研究では、掌側冠関節嚢(前肢の冠関節)のほうが、底側冠関節嚢(後肢の冠関節)よりも、関節鏡カメラによる術野を確保しにくい傾向が見られました。この研究における、屍体肢(Cadaveric limbs)の冠関節腔内への充填剤の注入試験では、掌側および底側冠関節嚢のサイズには顕著な違いは認められなかったため、前肢と後肢における関節鏡術野の違いは、前肢よりも後肢のほうが冠関節の屈曲角度(Flexion angle)が大きく取れたことに起因する、という考察がなされています。

この研究では、正軸性の骨片と遠軸性の骨片のいずれにおいても、関節鏡手術を介して良好に摘出できたことが報告されていますが、遠軸性の骨片の摘出時のほうが正軸性の骨片の摘出時に比べて、より広範囲にわたる軟部組織の切除(滑膜および関節周囲靭帯など)を要したという傾向が示されています。このため、遠軸性の骨折片が確認された症例においては、電動性切除器(Motorized resector)などを準備したり、術中レントゲン検査(Intra-operative radiography)によって骨片の位置を再確認する、などの指針が推奨されています。

一般的に中節骨の破片骨折では、正軸性の骨片は直鎖種子骨遠位靭帯(Straight distal sesamoidean ligament)および斜位種子骨遠位靭帯(Oblique distal sesamoidean ligaments)の内部に埋没していることが多く、また、遠軸性の骨片は浅屈腱の付着部(Insertion of the superficial digital flexor tendon)の内部に埋没していることが多いことが知られています。このため、馬の冠関節の掌側および底側骨軟骨片は、関節鏡手術ではなく、関節切開術(Arthrotomy)を介して除去する治療指針が提唱されてきました。しかし、この研究で用いられたアプローチ法および軟部組織の切除を併用することで、関節鏡手術によっても良好な掌側および底側の骨折片除去が達成されたことが報告されており、関節鏡手術という関節切開術よりも外科的侵襲の少ない術式を用いることで、より短期間での運動復帰が期待され、細菌感染や滑膜ガングリオン(Synovial ganglion)などの術後合併症(Post-operative complication)の危険も減少できると考えられました。

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