馬の文献:球節破片骨折(Yovich et al. 1986)
文献 - 2016年02月29日 (月)
「馬の球節の基節骨における骨軟骨骨折に対する関節鏡手術」
Yovich JV, McIlwraith CW. Arthroscopic surgery for osteochondral fractures of the proximal phalanx of the metacarpophalangeal and metatarsophalangeal (fetlock) joints in horses. J Am Vet Med Assoc. 1986; 188(3): 273-279.
この症例論文では、馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の基節骨(Proximal phalanx)における、骨軟骨骨折(Osteochondral fracture)に対する関節鏡手術(Arthroscopic surgery)の治療効果を評価するため、1982~1984年にかけて、球節破片骨折(Fetlock chip fracture)の関節鏡手術が実施された、63頭の患馬(74関節、87骨折片)の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました(全頭が競争馬)。
結果としては、経過追跡(Follow-up)ができなかったり休養中であった17頭を除くと、83%(38/46頭)の患馬が、骨折前と同レベルもしくはより高いレベルでの競争に復帰し、骨折前と同等かより高い順位の競争成績を収めたことが報告されています。また、手術から調教復帰までの休養期間は平均11週間半で、手術を受けた球節の持続性関節肥大(Persistent joint enlargement)や可動範囲の減少(Decreased range of motion)を示した馬は一頭もありませんでした。このため、球節破片骨折の罹患馬では、関節鏡手術によって良好な患部の治癒と予後が期待され、早期に競争への復帰を果たす馬の割合が多いことが示唆されました。
この研究では、13頭の患馬において、球節破片骨折の関節鏡手術にあわせて、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡手術も同時に行われ、このうち、85%(11/13頭)の馬が、骨折前と同レベルもしくはより高いレベルでの競争に復帰したことが報告されています。このため、一回の全身麻酔で実施される関節鏡手術の回数(=手術を受ける関節の数)は、その予後には顕著には影響せず、複数の関節に骨折が認められた症例では、全ての骨片を一度に除去しても構わないことが示唆されました。
この研究では、レントゲン像での骨折片の見え方と、関節鏡下での骨片の外観は、必ずしも一致しない傾向が認められ、特に慢性骨折(Chronic fracture)を呈した症例では、骨折片が治癒し始めていて、元の位置である軟骨下骨(Subchondral bone)に付着している場合もありました。しかし、このような病態においても、骨折片が完全な治癒を完了するとは限らず、数ヵ月後に間欠性跛行(Intermittent lameness)や、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を続発する危険もあることから、運動復帰時期の遅延などを防ぐ意味でも、レントゲン上で発見された骨折片は、その全てをできる限り早期に外科的に除去することが推奨されています。
この研究では、87箇所の骨折片のうち、98%(85/87骨片)が前肢の球節に見られ、競争馬の球節破片骨折の発症率は、後肢よりも前肢のほうが圧倒的に高いことが示唆されましたが、左前肢(45骨片)と右前肢(40骨片)とのあいだには大きな差異は認められませんでした。一方、球節内の骨折片の位置を見ると、関節内側(61骨片)のほうが関節外側(26骨片)よりも顕著に骨折を起こしやすい傾向が認められ、また、54%(14/26骨片)の関節外側の骨折では、関節内側の骨折も併発していました。一般的に、馬の球節では、関節内側部位のほうが外側部位に比べて、関節面(Joint surface)の幅が広く、踏着時の荷重も大きいことが知られており、このことが、球節内側における破片骨折の発症率が高いことにつながった、という考察がなされています。
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この症例論文では、馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の基節骨(Proximal phalanx)における、骨軟骨骨折(Osteochondral fracture)に対する関節鏡手術(Arthroscopic surgery)の治療効果を評価するため、1982~1984年にかけて、球節破片骨折(Fetlock chip fracture)の関節鏡手術が実施された、63頭の患馬(74関節、87骨折片)の医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました(全頭が競争馬)。
結果としては、経過追跡(Follow-up)ができなかったり休養中であった17頭を除くと、83%(38/46頭)の患馬が、骨折前と同レベルもしくはより高いレベルでの競争に復帰し、骨折前と同等かより高い順位の競争成績を収めたことが報告されています。また、手術から調教復帰までの休養期間は平均11週間半で、手術を受けた球節の持続性関節肥大(Persistent joint enlargement)や可動範囲の減少(Decreased range of motion)を示した馬は一頭もありませんでした。このため、球節破片骨折の罹患馬では、関節鏡手術によって良好な患部の治癒と予後が期待され、早期に競争への復帰を果たす馬の割合が多いことが示唆されました。
この研究では、13頭の患馬において、球節破片骨折の関節鏡手術にあわせて、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡手術も同時に行われ、このうち、85%(11/13頭)の馬が、骨折前と同レベルもしくはより高いレベルでの競争に復帰したことが報告されています。このため、一回の全身麻酔で実施される関節鏡手術の回数(=手術を受ける関節の数)は、その予後には顕著には影響せず、複数の関節に骨折が認められた症例では、全ての骨片を一度に除去しても構わないことが示唆されました。
この研究では、レントゲン像での骨折片の見え方と、関節鏡下での骨片の外観は、必ずしも一致しない傾向が認められ、特に慢性骨折(Chronic fracture)を呈した症例では、骨折片が治癒し始めていて、元の位置である軟骨下骨(Subchondral bone)に付着している場合もありました。しかし、このような病態においても、骨折片が完全な治癒を完了するとは限らず、数ヵ月後に間欠性跛行(Intermittent lameness)や、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を続発する危険もあることから、運動復帰時期の遅延などを防ぐ意味でも、レントゲン上で発見された骨折片は、その全てをできる限り早期に外科的に除去することが推奨されています。
この研究では、87箇所の骨折片のうち、98%(85/87骨片)が前肢の球節に見られ、競争馬の球節破片骨折の発症率は、後肢よりも前肢のほうが圧倒的に高いことが示唆されましたが、左前肢(45骨片)と右前肢(40骨片)とのあいだには大きな差異は認められませんでした。一方、球節内の骨折片の位置を見ると、関節内側(61骨片)のほうが関節外側(26骨片)よりも顕著に骨折を起こしやすい傾向が認められ、また、54%(14/26骨片)の関節外側の骨折では、関節内側の骨折も併発していました。一般的に、馬の球節では、関節内側部位のほうが外側部位に比べて、関節面(Joint surface)の幅が広く、踏着時の荷重も大きいことが知られており、このことが、球節内側における破片骨折の発症率が高いことにつながった、という考察がなされています。
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