馬の病気:舟嚢炎
馬の蹄病 - 2013年06月08日 (土)

舟嚢炎(Navicular bursitis)について。
遠位種子骨の滑液嚢(Synovial bursa of the distal sesamoid bone)(=舟嚢:Navicular bursa)に炎症を生じる疾患で、蹄叉部の穿孔性外傷(Penetrating wound through the frog:いわゆるType-2 deep wound)または蹄底膿瘍(Subsolar abscess)の波及によって引き起こされます。
舟嚢炎の症状としては、重度~負重不能な跛行(Severe to non-weight-bearing lameness)、蹄壁の熱感(Heat on hoof wall)、肢動脈拍動の亢進(Increased digital pulse)などが見られます。一般的に、発見された穿孔性異物(Penetrating foreign body)は、抜き取る前にレントゲン検査を行って、舟嚢への感染を確認することが推奨されています。しかし、深部への更なる侵入の危険が考慮された場合は、速やかに異物の除去を行います。穿孔性異物が除去されたときや、侵入孔のみが発見された場合には、探索子(Probe)または造影剤を用いてのレントゲン検査(Fistulogram)が実施される事もありますが、侵入孔内の汚染物質が舟嚢腔へと押し込まれて、感染を助長または悪化させる危険性も考えられます。舟嚢炎が疑われる症例においては、レントゲン撮影を用いながら蹄球部から脊髄針(Spinal needle)を穿刺して、舟嚢の滑液検査(Synovial fluid analysis)を行って、白血球数の増加(>3,000WBC/µL)、pHの減少(<6.9)、蛋白濃度の上昇(>4.0g/dL)などによって細菌感染の診断が下されます。滑液性状の異常所見を呈する前の急性期の病態では、舟嚢内へ注入した生理食塩水が侵入孔から漏れて来るかを観察する漏出試験も有効です。
舟嚢炎の治療としては、穿孔性異物の侵入孔を洗浄したり、舟嚢鏡手術(Navicular bursoscopy)によって、舟嚢洗浄と抗生物質注入を行う手法が有効です。この際には、舟嚢から吸引した滑液を使用しての細菌培養(Bacterial culture)と抗生物質感受性試験(Antibiotic susceptibility test)によって、有効な使用薬物を選択することが推奨されています。しかし、初診時にすでに重度の跛行や滑液異常を呈した症例においては、蹄叉角質の削切と深屈腱の開窓術を介して、外科的に舟嚢へ達する排液孔を形成して(いわゆるStreet nail procedure)、継続的に蹄底部からの舟嚢洗浄と抗生物質の注入が実施されます。その後、蹄底部はバンテージまたは治療プレート蹄鉄(Treatment plate shoe)によって保護され、術創が健常な肉芽組織(Healthy granulation tissue)で塞がれるまで病巣洗浄を継続します。
舟嚢炎は予後不良(Poor prognosis)を示す場合も多く、発症前と同レベルの競走および競技に復帰できるのは約半数の症例にとどまっています。しかし、穿孔性外傷から1~2日中に外科的治療が行われた場合には、有意に予後が良いことが報告されているため、穿孔性異物や蹄叉部での穿孔孔が発見された全ての馬において、レントゲン検査で速やかに滑液嚢組織への感染を除外診断(Rule-out)することが重要です。
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