馬の文献:球節破片骨折(Whitton et al. 1994)
文献 - 2016年03月02日 (水)
「競走馬の掌側または底側の近位基節骨における骨軟骨片形成」
Whitton RC, Kannegieter NJ. Osteochondral fragmentation of the plantar/palmar proximal aspect of the proximal phalanx in racing horses. Aust Vet J. 1994; 71(10): 318-321.
この症例論文では、競走馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の掌側または底側部位(Palmar/plantar aspect)における、骨軟骨片(Osteochondral fragmentation)に対する関節鏡手術(Arthroscopic surgery)の治療効果を評価するため、掌側&底側球節の骨軟骨片を呈した26頭の患馬(29箇所の球節)の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、関節鏡手術による治療が行われた21頭の患馬のうち、76%(16/21頭)の馬が競走に復帰し、57%(12/21頭)の馬は来院前よりも高い競走成績を示しました。一方、馬房休養(Stall rest)と関節注射(Joint injection)による保存性療法(Conservative treatment)が応用された四頭の患馬では、競走に復帰したのは一頭のみであったことが報告されています。このため、掌側&底側球節の骨軟骨片を呈した罹患馬では、関節鏡手術によって中程度~良好な予後が期待され、競走復帰する馬の割合が比較的高く、保存性療法よりも治療効果が高いことが示唆されました。
この研究では、26頭の患馬のうち八頭において、関節鏡下で関節軟骨の糜爛(Articular cartilage erosion)などの、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)の兆候が認められました。そして、これらの馬のうち、術後に来院前よりも高い競走成績を示したのは50%(4/8頭)でした。一方、手術時に変性関節疾患が認められなかった13頭の患馬においては、来院前よりも高い競走成績を示したのは61%(8/13頭)であったことが報告されています。このため、入院時の関節疾患の有無が、予後に大きく影響するというデータは認められませんでしたが、術後に継続的な関節注射を要するなどのコスト面を考慮しても、レントゲン上で骨軟骨片が発見された症例に対しては、変性関節疾患を起こす前に出来るだけ早く骨片摘出を行うべきであると推奨されています。
この研究では、26頭の掌側または底側球節骨軟骨片の患馬のうち、入院理由となった病歴としては、高速時に真っ直ぐ走行できない(Inability to run straight at high speed)(9/26頭)、跛行(Lameness)(8/26頭)、プアパフォーマンス(6/26頭)などが挙げられています。また、入院時に跛行を呈した馬は73%(19/26頭)でしたが、このうち13頭は極めて軽度の跛行(グレード1)にとどまり、この結果、無跛行またはグレード1のみの跛行を示した馬は77%(20/26頭)にのぼりました。一方で、29頭の罹患肢のうち、球節屈曲試験(Fetlock flexion test)に陽性を示したのは90%(26/29関節)、関節膨満(Joint effusion)を示したのは48%(14/29関節)、屈曲時の疼痛(Pain on flexion)を示したのは34%(10/29関節)でした。このため、掌側または底側球節における骨軟骨片は、顕著な跛行の原因にならない場合も多いことから、上述のような僅かな臨床症状を示した馬においても、精密な跛行検査(Lameness examination)やレントゲン検査によって、球節骨軟骨片の除外診断に努めることが重要であると考えられました。
一般的に、掌側または底側の近位基節骨における骨軟骨片形成は、破片骨折(Chip fracture)によって生じるという見解もあれば、骨軟骨症(Osteochondrosis)によって生じるという見解もあり、その病因については論議(Controversy)があります。しかし、掌側&底側球節に骨軟骨片が見つかった症例においては、骨軟骨症が原因である可能性を考えて、足根関節(Tarsal joint)や膝関節(Stifle joint)など、骨軟骨症の発症率が高い他の関節における骨軟骨片の形成を、慎重にモニタリングすることが重要である、という考察がなされています。
馬の掌側または底側球節の骨軟骨片に関する他の文献では、サラブレッド競走馬における症例報告において91%の競走復帰率が報告されています(Houttu et al. EVJ. 1991; 23: 163)。今回の研究に含まれた症例は、スタンダードブレッド競走馬の比率が高く(26頭中の23頭)、患馬の平均年齢も3.9歳とやや高めであったことから、手術後の競走復帰率が比較的に低い傾向(76%)を示したものと考えられました。
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この症例論文では、競走馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の掌側または底側部位(Palmar/plantar aspect)における、骨軟骨片(Osteochondral fragmentation)に対する関節鏡手術(Arthroscopic surgery)の治療効果を評価するため、掌側&底側球節の骨軟骨片を呈した26頭の患馬(29箇所の球節)の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、関節鏡手術による治療が行われた21頭の患馬のうち、76%(16/21頭)の馬が競走に復帰し、57%(12/21頭)の馬は来院前よりも高い競走成績を示しました。一方、馬房休養(Stall rest)と関節注射(Joint injection)による保存性療法(Conservative treatment)が応用された四頭の患馬では、競走に復帰したのは一頭のみであったことが報告されています。このため、掌側&底側球節の骨軟骨片を呈した罹患馬では、関節鏡手術によって中程度~良好な予後が期待され、競走復帰する馬の割合が比較的高く、保存性療法よりも治療効果が高いことが示唆されました。
この研究では、26頭の患馬のうち八頭において、関節鏡下で関節軟骨の糜爛(Articular cartilage erosion)などの、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)の兆候が認められました。そして、これらの馬のうち、術後に来院前よりも高い競走成績を示したのは50%(4/8頭)でした。一方、手術時に変性関節疾患が認められなかった13頭の患馬においては、来院前よりも高い競走成績を示したのは61%(8/13頭)であったことが報告されています。このため、入院時の関節疾患の有無が、予後に大きく影響するというデータは認められませんでしたが、術後に継続的な関節注射を要するなどのコスト面を考慮しても、レントゲン上で骨軟骨片が発見された症例に対しては、変性関節疾患を起こす前に出来るだけ早く骨片摘出を行うべきであると推奨されています。
この研究では、26頭の掌側または底側球節骨軟骨片の患馬のうち、入院理由となった病歴としては、高速時に真っ直ぐ走行できない(Inability to run straight at high speed)(9/26頭)、跛行(Lameness)(8/26頭)、プアパフォーマンス(6/26頭)などが挙げられています。また、入院時に跛行を呈した馬は73%(19/26頭)でしたが、このうち13頭は極めて軽度の跛行(グレード1)にとどまり、この結果、無跛行またはグレード1のみの跛行を示した馬は77%(20/26頭)にのぼりました。一方で、29頭の罹患肢のうち、球節屈曲試験(Fetlock flexion test)に陽性を示したのは90%(26/29関節)、関節膨満(Joint effusion)を示したのは48%(14/29関節)、屈曲時の疼痛(Pain on flexion)を示したのは34%(10/29関節)でした。このため、掌側または底側球節における骨軟骨片は、顕著な跛行の原因にならない場合も多いことから、上述のような僅かな臨床症状を示した馬においても、精密な跛行検査(Lameness examination)やレントゲン検査によって、球節骨軟骨片の除外診断に努めることが重要であると考えられました。
一般的に、掌側または底側の近位基節骨における骨軟骨片形成は、破片骨折(Chip fracture)によって生じるという見解もあれば、骨軟骨症(Osteochondrosis)によって生じるという見解もあり、その病因については論議(Controversy)があります。しかし、掌側&底側球節に骨軟骨片が見つかった症例においては、骨軟骨症が原因である可能性を考えて、足根関節(Tarsal joint)や膝関節(Stifle joint)など、骨軟骨症の発症率が高い他の関節における骨軟骨片の形成を、慎重にモニタリングすることが重要である、という考察がなされています。
馬の掌側または底側球節の骨軟骨片に関する他の文献では、サラブレッド競走馬における症例報告において91%の競走復帰率が報告されています(Houttu et al. EVJ. 1991; 23: 163)。今回の研究に含まれた症例は、スタンダードブレッド競走馬の比率が高く(26頭中の23頭)、患馬の平均年齢も3.9歳とやや高めであったことから、手術後の競走復帰率が比較的に低い傾向(76%)を示したものと考えられました。
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