馬の文献:球節破片骨折(Fortier et al. 1995)
文献 - 2016年03月06日 (日)
「馬の掌側または底側近位基節骨における骨軟骨片の関節鏡的摘出:1988~1992年の119症例」
Fortier LA, Foerner JJ, Nixon AJ. Arthroscopic removal of axial osteochondral fragments of the plantar/palmar proximal aspect of the proximal phalanx in horses: 119 cases (1988-1992). J Am Vet Med Assoc. 1995; 206(1): 71-74.
この症例論文では、馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の掌側または底側近位基節骨(plantar/palmar proximal aspect of the proximal phalanx)における、軸性の骨軟骨片(Axial osteochondral fragmentat)に対する関節鏡手術(Arthroscopic surgery)の治療効果を評価するため、掌側または底側近位基節骨の骨軟骨片を呈した119頭の患馬(146関節、164骨片)の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、関節鏡手術を介しての骨軟骨片の摘出によって、良好な競走&競技復帰を果たした馬(=入院前と同じかより高いレベルの成績を残した馬)は、スタンダードブレッド競走馬では63%(55/87頭)、非競走馬では100%(9/9頭)であったことが報告されています。このため、掌側または底側近位基節骨の骨軟骨片を呈した罹患馬では、関節鏡手術によって中程度~良好な予後が期待されますが、特に高速運動を要求される競走馬においては、復帰後に競走成績の低下に至る馬も比較的に多いことが示唆されました。また、手術前にレース参加していなかった22頭の患馬のうち、術後にレース出走を果たした馬は27%(6/22頭)のみであったことが報告されています。
この研究では、87頭のスタンダードブレッド競走馬のうち11頭では、関節鏡下において関節軟骨の消失(Articular cartilage loss)や滑膜増生(Synovial proliferation)などの異常所見が認められました。そして、このような関節異常所見を示した馬の割合は、良好な競走&競技復帰を果たした馬(=入院前と同じかより高いレベルの成績を残した馬)では2%(1/55頭)に過ぎなかったのに対して、良好な競走&競技復帰を果たせなかった馬では31%(10/32頭)に達していました。このため、関節手術後の予後の良し悪しは、骨軟骨片そのものではなく、関節鏡下での関節異常の有無に有意に相関しているというデータが示されたことから、掌側または底側近位基節骨の骨軟骨片の関節鏡手術に際しては、骨軟骨片以外にも、関節軟骨や滑膜の病態を慎重に観察して、慎重な予後判定(Prognostication)に努めることが重要であると考えられました。
この研究では、患馬の92%(109/119頭)をスタンダードブレッドが占めており、また、164個の骨片のうち、後肢の球節が95%(155/164骨片)であったのに対して、前肢の球節は5%(9/164骨片)にとどまりました。これは、ハーネスレースに使役されるスタンダードブレッドでは、前肢よりも後肢に掛かる荷重が大きく、球節の過剰伸展(Over-extension)を生じる割合が多く、前肢よりも後肢の球節に骨軟骨片を発症しやすかったためと推測されています。一方、関節内の骨片の位置を見ると、内側部位(Medial aspect)に生じた骨片は73%(120/164骨片)、外側部位(Lateral aspect)に生じた骨片は27%(44/164骨片)であり、体重負荷の大きい関節内側部位のほうが外側部位よりも、骨軟骨片を発症しやすいという傾向が見られました。
馬の球節破片骨折に関する他の文献(Fortier et al. Proc AAEP. 1987)によれば、掌側または底側近位基節骨における骨軟骨片は、タイプ1:近位部基節骨の正軸溝の外内側に生じた骨軟骨片(Osteochondral fragments originating from proximal palmar/plantar aspect of proximal phalanx just medial/lateral to sagittal groove)、タイプ2:近位部基節骨の掌側&底側突起に生じた骨軟骨片(Osteochondral fragments originating from proximal palmar/plantar aspect of the wing of proximal phalanx)タイプ3:種子骨の底部に生じた骨軟骨片(Osteochondral fragments originating from the base of sesamoid bone)の三種類に分類されています。今回の研究に含まれている「軸性の骨軟骨片」の病態は、すべてタイプ1に該当しており、今後の研究では、タイプ2もしくはタイプ3の骨軟骨片に対する、関節鏡手術の治療効果を評価する必要があるという考察がなされています。
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この症例論文では、馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の掌側または底側近位基節骨(plantar/palmar proximal aspect of the proximal phalanx)における、軸性の骨軟骨片(Axial osteochondral fragmentat)に対する関節鏡手術(Arthroscopic surgery)の治療効果を評価するため、掌側または底側近位基節骨の骨軟骨片を呈した119頭の患馬(146関節、164骨片)の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、関節鏡手術を介しての骨軟骨片の摘出によって、良好な競走&競技復帰を果たした馬(=入院前と同じかより高いレベルの成績を残した馬)は、スタンダードブレッド競走馬では63%(55/87頭)、非競走馬では100%(9/9頭)であったことが報告されています。このため、掌側または底側近位基節骨の骨軟骨片を呈した罹患馬では、関節鏡手術によって中程度~良好な予後が期待されますが、特に高速運動を要求される競走馬においては、復帰後に競走成績の低下に至る馬も比較的に多いことが示唆されました。また、手術前にレース参加していなかった22頭の患馬のうち、術後にレース出走を果たした馬は27%(6/22頭)のみであったことが報告されています。
この研究では、87頭のスタンダードブレッド競走馬のうち11頭では、関節鏡下において関節軟骨の消失(Articular cartilage loss)や滑膜増生(Synovial proliferation)などの異常所見が認められました。そして、このような関節異常所見を示した馬の割合は、良好な競走&競技復帰を果たした馬(=入院前と同じかより高いレベルの成績を残した馬)では2%(1/55頭)に過ぎなかったのに対して、良好な競走&競技復帰を果たせなかった馬では31%(10/32頭)に達していました。このため、関節手術後の予後の良し悪しは、骨軟骨片そのものではなく、関節鏡下での関節異常の有無に有意に相関しているというデータが示されたことから、掌側または底側近位基節骨の骨軟骨片の関節鏡手術に際しては、骨軟骨片以外にも、関節軟骨や滑膜の病態を慎重に観察して、慎重な予後判定(Prognostication)に努めることが重要であると考えられました。
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