馬の文献:球節破片骨折(Colon et al. 2000)
文献 - 2016年03月06日 (日)
「近位背側基節骨の骨軟骨骨折に対して関節鏡的摘出が応用された461頭のサラブレッド競走馬における競争成績の定性定量的考証」
Colon JL, Bramlage LR, Hance SR, Embertson RM. Qualitative and quantitative documentation of the racing performance of 461 Thoroughbred racehorses after arthroscopic removal of dorsoproximal first phalanx osteochondral fractures (1986-1995). Equine Vet J. 2000; 32(6): 475-481.
この症例論文では、馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の近位背側基節骨(Dorso-proximal aspect of the proximal phalanx)における、骨軟骨破片骨折(Osteochondral chip fracture)に対する関節鏡手術(Arthroscopic surgery)の治療効果を評価するため、近位背側基節骨の破片骨折を呈した461頭の患馬(574関節、659骨折片)の医療記録(Medical records)の定性定量的考証(Qualitative and quantitative documentation)が行われました。
結果としては、関節鏡手術を介しての骨折片の摘出によって、89%(411/461頭)の馬がレース復帰を果たし、82%(377/461頭)の馬が手術前と同等かより高い競走成績を残したことが示されました。また、手術前に既にレース参加していた289頭を見ると、90%(258/289頭)の馬がレース復帰を果たしたことが報告されています。このため、近位背側基節骨の破片骨折を呈したサラブレッド競走馬では、関節鏡手術によって良好な予後が期待され、レースへの復帰を果たす確率が高いことが示唆されました。
この研究では、関節鏡手術の前後にレースへ出走した258頭の成馬を見ると、平均出走数は術前8.4回に対して術後13.3回で、平均獲得賞金は術前48,000ドルに対して術後52,000ドルというように、競走成績の定性定量的な解析値には、手術の前後で有意差は認められませんでした。このため、レース出走をしているサラブレッド競走馬においては、近位背側基節骨の破片骨折に対する関節鏡手術によって、競走成績の低下を招くことなく、良好なレース実績を継続できることが示唆されました。
この研究では、手術前にレースへ出走していなかった174頭の成馬を見ると、88%(153/174頭)の馬がレースデビューを果たしたことが示されており、また、デビュー後の平均出走数は13.8回、デビュー後の平均獲得賞金は48,000ドルでした。このため、初出走する前に、近位背側基節骨の破片骨折を起こしたサラブレッド競走馬においても、関節鏡手術によって無事にデビューを果たし、良好なレース実績を挙げるようになれる事が示唆されました。
この研究では、関節手術後にレース復帰を果たした患馬のうち、15頭において破片骨折の再発(Recurrence)が見られましたが、この全頭が二度目の関節鏡手術の後にレース復帰を果たしており、このうち67%(10/15頭)の馬は、二度目の手術の後においても、術前より高い競走成績を示したことが報告されています。このため、馬の近位背側基節骨の破片骨折では、関節鏡手術による治療が複数回にわたって行われた症例においても、良好な競走成績を維持できることが示唆されました。
この研究では、レントゲン像上または関節鏡下での骨折片のサイズの測定と、その予後との関係が評価されており、例えばサイズの大きい骨折片(>5mm)を持った馬の割合は、術後に競走復帰を果たした馬郡では57%、術後に競走復帰できなかった馬郡では35%、術前&術後ともに出走できなかった馬郡では43%というように、骨折片のサイズと、術後の競走成績のあいだには有意な相関(Correlation)は認められませんでした。また、一つの関節当たりの骨折片の数も、その予後とは有意には相関していませんでした。このため、馬の近位背側基節骨の破片骨折では、関節鏡手術のあとの予後は、骨折片そのものの大きさや数ではなく、変性関節疾患(Degenerative joint disease)の有無など、罹患した球節の病態によって左右されることが示唆されました。
この研究では、患馬の全頭をサラブレッド競争馬が占めており、659個の骨片のうち、前肢の球節が88%(583/659骨片)であったのに対して、後肢の球節は12%(76/659骨片)にとどまり、また、右前肢(245骨片)よりも左前肢(338骨片)のほうが、右後肢(32骨片)よりも左後肢(44骨片)のほうが、破片骨折の発症率が高い傾向が示されました。一方、関節内の骨片の位置を見ると、内側部位(Medial aspect)に生じた骨片は78%(517/659骨片)、外側部位(Lateral aspect)に生じた骨片は22%(142/659骨片)であったことが報告されています。このため、サラブレッド競走馬においては、後肢よりも前肢に掛かる荷重が大きく、左回りでの運動をすることが多いため、後肢よりも前肢、右肢よりも左肢の球節ほうが破片骨折を起こしやすく、また、同一関節内では、体重負荷の大きい関節内側部位のほうが外側部位よりも、骨軟骨片を生じやすいことが示唆されました。
この研究では、調教開始前の当歳馬における近位背側基節骨の破片骨折では、その56%(44/76骨片)が後肢の球節に発症しており、前肢の球節のほうが破片骨折を起こしやすい成馬とは明らかに異なった発症傾向を示しました。この理由は明瞭には結論付けられていませんが、当歳馬は騎乗されることなく、不規則な速度で、かつ不規則な回転運動をすることが多く、後肢の球節を過剰伸展(Over-extension)させる可能性が高いことに起因している、と考察されています。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:球節破片骨折


Colon JL, Bramlage LR, Hance SR, Embertson RM. Qualitative and quantitative documentation of the racing performance of 461 Thoroughbred racehorses after arthroscopic removal of dorsoproximal first phalanx osteochondral fractures (1986-1995). Equine Vet J. 2000; 32(6): 475-481.
この症例論文では、馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の近位背側基節骨(Dorso-proximal aspect of the proximal phalanx)における、骨軟骨破片骨折(Osteochondral chip fracture)に対する関節鏡手術(Arthroscopic surgery)の治療効果を評価するため、近位背側基節骨の破片骨折を呈した461頭の患馬(574関節、659骨折片)の医療記録(Medical records)の定性定量的考証(Qualitative and quantitative documentation)が行われました。
結果としては、関節鏡手術を介しての骨折片の摘出によって、89%(411/461頭)の馬がレース復帰を果たし、82%(377/461頭)の馬が手術前と同等かより高い競走成績を残したことが示されました。また、手術前に既にレース参加していた289頭を見ると、90%(258/289頭)の馬がレース復帰を果たしたことが報告されています。このため、近位背側基節骨の破片骨折を呈したサラブレッド競走馬では、関節鏡手術によって良好な予後が期待され、レースへの復帰を果たす確率が高いことが示唆されました。
この研究では、関節鏡手術の前後にレースへ出走した258頭の成馬を見ると、平均出走数は術前8.4回に対して術後13.3回で、平均獲得賞金は術前48,000ドルに対して術後52,000ドルというように、競走成績の定性定量的な解析値には、手術の前後で有意差は認められませんでした。このため、レース出走をしているサラブレッド競走馬においては、近位背側基節骨の破片骨折に対する関節鏡手術によって、競走成績の低下を招くことなく、良好なレース実績を継続できることが示唆されました。
この研究では、手術前にレースへ出走していなかった174頭の成馬を見ると、88%(153/174頭)の馬がレースデビューを果たしたことが示されており、また、デビュー後の平均出走数は13.8回、デビュー後の平均獲得賞金は48,000ドルでした。このため、初出走する前に、近位背側基節骨の破片骨折を起こしたサラブレッド競走馬においても、関節鏡手術によって無事にデビューを果たし、良好なレース実績を挙げるようになれる事が示唆されました。
この研究では、関節手術後にレース復帰を果たした患馬のうち、15頭において破片骨折の再発(Recurrence)が見られましたが、この全頭が二度目の関節鏡手術の後にレース復帰を果たしており、このうち67%(10/15頭)の馬は、二度目の手術の後においても、術前より高い競走成績を示したことが報告されています。このため、馬の近位背側基節骨の破片骨折では、関節鏡手術による治療が複数回にわたって行われた症例においても、良好な競走成績を維持できることが示唆されました。
この研究では、レントゲン像上または関節鏡下での骨折片のサイズの測定と、その予後との関係が評価されており、例えばサイズの大きい骨折片(>5mm)を持った馬の割合は、術後に競走復帰を果たした馬郡では57%、術後に競走復帰できなかった馬郡では35%、術前&術後ともに出走できなかった馬郡では43%というように、骨折片のサイズと、術後の競走成績のあいだには有意な相関(Correlation)は認められませんでした。また、一つの関節当たりの骨折片の数も、その予後とは有意には相関していませんでした。このため、馬の近位背側基節骨の破片骨折では、関節鏡手術のあとの予後は、骨折片そのものの大きさや数ではなく、変性関節疾患(Degenerative joint disease)の有無など、罹患した球節の病態によって左右されることが示唆されました。
この研究では、患馬の全頭をサラブレッド競争馬が占めており、659個の骨片のうち、前肢の球節が88%(583/659骨片)であったのに対して、後肢の球節は12%(76/659骨片)にとどまり、また、右前肢(245骨片)よりも左前肢(338骨片)のほうが、右後肢(32骨片)よりも左後肢(44骨片)のほうが、破片骨折の発症率が高い傾向が示されました。一方、関節内の骨片の位置を見ると、内側部位(Medial aspect)に生じた骨片は78%(517/659骨片)、外側部位(Lateral aspect)に生じた骨片は22%(142/659骨片)であったことが報告されています。このため、サラブレッド競走馬においては、後肢よりも前肢に掛かる荷重が大きく、左回りでの運動をすることが多いため、後肢よりも前肢、右肢よりも左肢の球節ほうが破片骨折を起こしやすく、また、同一関節内では、体重負荷の大きい関節内側部位のほうが外側部位よりも、骨軟骨片を生じやすいことが示唆されました。
この研究では、調教開始前の当歳馬における近位背側基節骨の破片骨折では、その56%(44/76骨片)が後肢の球節に発症しており、前肢の球節のほうが破片骨折を起こしやすい成馬とは明らかに異なった発症傾向を示しました。この理由は明瞭には結論付けられていませんが、当歳馬は騎乗されることなく、不規則な速度で、かつ不規則な回転運動をすることが多く、後肢の球節を過剰伸展(Over-extension)させる可能性が高いことに起因している、と考察されています。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:球節破片骨折