馬の文献:球節破片骨折(Jansson. 2005)
文献 - 2016年03月08日 (火)
「馬の掌側または底側球節における骨軟骨片のガス関節鏡による摘出」
Jansson N. Gas arthroscopy for removal of osteochondral fragments of the palmar/plantar aspect of the metacarpo/metatarsophalangeal joint in horses. Vet Surg. 2005; 34(2): 128-132.
この症例論文では、馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の掌側または底側部位(Palmar/Plantar aspect)における骨軟骨片(Osteochondral fragment)に対する、ガス関節鏡(Electrocautery probe)による摘出術の治療効果を評価するため、掌側または底側球節の骨軟骨片を呈した26頭の患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究の術式では、骨片の反対側の種子骨側副靭帯(Collateral sesamoid ligament)を穿刺した針からの生食注入によって関節包を膨満(Joint capsule distension)させ、適切な位置に器具ポータル用の穿刺切開創(Stab incision)を設けた後、生食注入をガス注入へと変更して、関節包膨満の維持が行われました。そして、ガス関節鏡下で、骨片の摘出、および周囲軟部組織の切除などが実施され、電動切開子(Motorized resector)が使用される場合には、冷却のため一時的に生食での関節包膨満に切り替えられました。
結果としては、ガス関節鏡の使用時には、滑膜絨毛(Synovial villi)によって視野が妨げられる事が無いため、骨片の観察および扱いが容易で、全ての患馬において、術中合併症(Intra-operative complication)を起こすことなく、良好な骨軟骨片の摘出が達成されました。また、五頭の馬において、出血によって関節鏡下の視野が妨げられましたが、カメラ先端を生食で洗浄することで、速やかに視野の確保が可能となりました。さらに、ガス関節鏡を用いた場合の手術時間は、生食を使用する従来の関節鏡による手術時間と同程度であったことが報告されています。このため、馬の掌側または底側球節における骨軟骨片の治療に際しては、ガス関節鏡を用いることで、細かい骨の破片を関節包内に飛散させることなく、骨軟骨片の摘出が容易に達成できることが示唆されました。
この研究では、ガス関節鏡手術が応用された26頭の患馬のうち一頭において、1x3mm大の骨軟骨片ひとつが残存していることが術後レントゲン検査(Post-operative radiography)で確認されました。掌側または底側球節における骨軟骨片は、馬の関節鏡手術においては、骨片の付着部の鋭利な切開(Sharp dissection)を要する病変のひとつであることが知られており、この切開作業の際に小さな破片が残存してしまう危険があると考えられます。このため、生食の乱流によって骨軟骨片の破片が飛散しにくいガス関節鏡という手法においても、必ず術中レントゲン検査を実施して、小さな骨片が関節内に残っていないのを確認することが重要である、という考察がなされています。
一般的に、人間の医学分野でのガス関節鏡手術では、関節腔から漏れたガスによって関節周囲気腫(Peri-articular emphysema)や静脈ガス塞栓(Venous air embolism)などを生じる危険が指摘されています。しかし、球節などの馬の遠位肢の関節では、皮下組織、筋肉、脂肪などの、関節周囲を覆う組織が殆ど無いことから、これらのガス漏出に起因する合併症の可能性は低いと考えられます。また、この研究の術式では、二酸化炭素を用いてのガス関節鏡が選択され、この場合、他のガスに比べて二酸化炭素は血漿に溶けにくいという特徴があるため、ガス塞栓の危険を抑えられることが知られています。
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この症例論文では、馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の掌側または底側部位(Palmar/Plantar aspect)における骨軟骨片(Osteochondral fragment)に対する、ガス関節鏡(Electrocautery probe)による摘出術の治療効果を評価するため、掌側または底側球節の骨軟骨片を呈した26頭の患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究の術式では、骨片の反対側の種子骨側副靭帯(Collateral sesamoid ligament)を穿刺した針からの生食注入によって関節包を膨満(Joint capsule distension)させ、適切な位置に器具ポータル用の穿刺切開創(Stab incision)を設けた後、生食注入をガス注入へと変更して、関節包膨満の維持が行われました。そして、ガス関節鏡下で、骨片の摘出、および周囲軟部組織の切除などが実施され、電動切開子(Motorized resector)が使用される場合には、冷却のため一時的に生食での関節包膨満に切り替えられました。
結果としては、ガス関節鏡の使用時には、滑膜絨毛(Synovial villi)によって視野が妨げられる事が無いため、骨片の観察および扱いが容易で、全ての患馬において、術中合併症(Intra-operative complication)を起こすことなく、良好な骨軟骨片の摘出が達成されました。また、五頭の馬において、出血によって関節鏡下の視野が妨げられましたが、カメラ先端を生食で洗浄することで、速やかに視野の確保が可能となりました。さらに、ガス関節鏡を用いた場合の手術時間は、生食を使用する従来の関節鏡による手術時間と同程度であったことが報告されています。このため、馬の掌側または底側球節における骨軟骨片の治療に際しては、ガス関節鏡を用いることで、細かい骨の破片を関節包内に飛散させることなく、骨軟骨片の摘出が容易に達成できることが示唆されました。
この研究では、ガス関節鏡手術が応用された26頭の患馬のうち一頭において、1x3mm大の骨軟骨片ひとつが残存していることが術後レントゲン検査(Post-operative radiography)で確認されました。掌側または底側球節における骨軟骨片は、馬の関節鏡手術においては、骨片の付着部の鋭利な切開(Sharp dissection)を要する病変のひとつであることが知られており、この切開作業の際に小さな破片が残存してしまう危険があると考えられます。このため、生食の乱流によって骨軟骨片の破片が飛散しにくいガス関節鏡という手法においても、必ず術中レントゲン検査を実施して、小さな骨片が関節内に残っていないのを確認することが重要である、という考察がなされています。
一般的に、人間の医学分野でのガス関節鏡手術では、関節腔から漏れたガスによって関節周囲気腫(Peri-articular emphysema)や静脈ガス塞栓(Venous air embolism)などを生じる危険が指摘されています。しかし、球節などの馬の遠位肢の関節では、皮下組織、筋肉、脂肪などの、関節周囲を覆う組織が殆ど無いことから、これらのガス漏出に起因する合併症の可能性は低いと考えられます。また、この研究の術式では、二酸化炭素を用いてのガス関節鏡が選択され、この場合、他のガスに比べて二酸化炭素は血漿に溶けにくいという特徴があるため、ガス塞栓の危険を抑えられることが知られています。
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