馬の文献:球節破片骨折(Declercq et al. 2009)
文献 - 2016年03月12日 (土)
「117頭のウォームブラッドにおける近位背側基節骨の骨軟骨片形成」
Declercq J, Martens A, Maes D, Boussauw B, Forsyth R, Boening KJ. Dorsoproximal proximal phalanx osteochondral fragmentation in 117 Warmblood horses. Vet Comp Orthop Traumatol. 2009; 22(1): 1-6.
この症例論文では、馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の近位背側基節骨(Dorso-proximal aspect of proximal phalanx)における骨軟骨片形成(Osteochondral fragmentation)の病態を評価するため、近位背側基節骨の骨軟骨片形成を呈した117頭のウォームブラッド(150関節、168骨片)における、医療記録(Medical record)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
この研究では、117頭の患馬のうち、跛行(Lameness)を呈したのは7%(8/117頭)の馬のみで、また、150箇所の球節のうち、関節膨満(Joint distension)を呈したのは16%(24/150関節)のみであったことが報告されています。しかし、患馬の年齢を考慮してみると、七歳以上の馬では、七歳以下の馬に比べて、跛行を呈する確率が13倍以上も高くなることが示されました(オッズ比:13.3)。また、骨片の数が二個以上であった球節においては、骨片の数が一個のみであった球節に比べて、跛行を呈する確率が11倍以上も高くなることが示されました(オッズ比:11.1)。このため、たとえ初診時に跛行が見られなかった症例においても、レントゲン検査によって見つかった全ての骨軟骨片を、速やかに関節鏡手術で除去(Arthroscopic removal)することで、将来的な跛行の発現を抑えるという治療指針が重要であると考えられました。
この研究では、150箇所の球節のうち、半数以上の51%(76/150関節)の関節では、関節鏡下において、一次性病変である骨軟骨片以外にも、滑膜炎(Synovitis)、顆状突起背側面の磨耗線(Wear lines at dorsal surface of the condyle)、浅部関節軟骨の細線維化(Superficial cartilage fibrillation)、軟骨下骨(Subchondral bone)まで達する関節軟骨糜爛(Articular cartilage erosion)などの、二次性の関節病巣(Secondary articular lesions)が認められました。そして、七歳以上の馬では、七歳以下の馬に比べて、骨片以外の関節病巣を呈する確率が12倍近くも高くなることが示されました(オッズ比:11.8)。これは、近位背側基節骨の骨軟骨片形成では、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を続発する危険が高いことを再確認させるデータであると言えます。
一般的に、馬の球節における破片骨折(Chip fracture)では、骨片が発見された時点では、跛行や関節膨満などの臨床上の異常所見は認められない症例が多く、その時点で外科的に骨片を摘出(Surgical fragment removal)するべきか否かについて論議(Controversy)があります。この研究では、前向き解析(Prospective analysis)(=見つかった骨片を意図的に摘出せずその予後を評価する臨床試験)は行われていないので、無症候性の破片骨折(Asymptomatic chip fracture)が、将来的にどの程度の悪影響を及ぼすかについては、統計的に評価することは出来ません。しかし、上述の回顧的な解析結果が示すように、高齢馬(七歳以上)になるほど跛行や関節病巣が起こりやすいことが示唆されていることから、球節の骨軟骨片を呈したウォームブラッドでは、たとえ初期病態では重篤な跛行を呈していなかったとしても、そのまま運動を続けていると変性関節疾患につながるような続発性の関節病巣を起こし、競技能力の低下につながる可能性があることが示唆されました。
この研究では、150箇所の球節のうち、前肢の球節が45%(67/150関節)、後肢の球節は55%(83/150関節)で、前肢と後肢の発症率には顕著な差は認められませんでした。一方、関節内の骨片の位置を見ると、168個の骨片のうち、内側部位(Medial aspect)に生じた骨片は95%(160/168骨片)であったのに対して、外側部位(Lateral aspect)に生じた骨片は5%(8/168骨片)にとどまりました。このため、サラブレッド競走馬ほど前肢に掛かる過重が大きくないウォームブラッドにおいては、骨軟骨片形成の発症率は前肢と後肢の球節で大差がない反面、骨片の位置に関してはサラブレッド競走馬と同様に、体重負荷の大きい関節内側部位のほうが外側部位よりも、骨軟骨片を発症しやすいという傾向が見られました。
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この研究では、150箇所の球節のうち、半数以上の51%(76/150関節)の関節では、関節鏡下において、一次性病変である骨軟骨片以外にも、滑膜炎(Synovitis)、顆状突起背側面の磨耗線(Wear lines at dorsal surface of the condyle)、浅部関節軟骨の細線維化(Superficial cartilage fibrillation)、軟骨下骨(Subchondral bone)まで達する関節軟骨糜爛(Articular cartilage erosion)などの、二次性の関節病巣(Secondary articular lesions)が認められました。そして、七歳以上の馬では、七歳以下の馬に比べて、骨片以外の関節病巣を呈する確率が12倍近くも高くなることが示されました(オッズ比:11.8)。これは、近位背側基節骨の骨軟骨片形成では、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を続発する危険が高いことを再確認させるデータであると言えます。
一般的に、馬の球節における破片骨折(Chip fracture)では、骨片が発見された時点では、跛行や関節膨満などの臨床上の異常所見は認められない症例が多く、その時点で外科的に骨片を摘出(Surgical fragment removal)するべきか否かについて論議(Controversy)があります。この研究では、前向き解析(Prospective analysis)(=見つかった骨片を意図的に摘出せずその予後を評価する臨床試験)は行われていないので、無症候性の破片骨折(Asymptomatic chip fracture)が、将来的にどの程度の悪影響を及ぼすかについては、統計的に評価することは出来ません。しかし、上述の回顧的な解析結果が示すように、高齢馬(七歳以上)になるほど跛行や関節病巣が起こりやすいことが示唆されていることから、球節の骨軟骨片を呈したウォームブラッドでは、たとえ初期病態では重篤な跛行を呈していなかったとしても、そのまま運動を続けていると変性関節疾患につながるような続発性の関節病巣を起こし、競技能力の低下につながる可能性があることが示唆されました。
この研究では、150箇所の球節のうち、前肢の球節が45%(67/150関節)、後肢の球節は55%(83/150関節)で、前肢と後肢の発症率には顕著な差は認められませんでした。一方、関節内の骨片の位置を見ると、168個の骨片のうち、内側部位(Medial aspect)に生じた骨片は95%(160/168骨片)であったのに対して、外側部位(Lateral aspect)に生じた骨片は5%(8/168骨片)にとどまりました。このため、サラブレッド競走馬ほど前肢に掛かる過重が大きくないウォームブラッドにおいては、骨軟骨片形成の発症率は前肢と後肢の球節で大差がない反面、骨片の位置に関してはサラブレッド競走馬と同様に、体重負荷の大きい関節内側部位のほうが外側部位よりも、骨軟骨片を発症しやすいという傾向が見られました。
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