馬の文献:基節骨骨折(Markel et al. 1985)
文献 - 2016年03月13日 (日)
「69頭の馬における基節骨の非粉砕性骨折」
Markel MD, Richardson DW. Noncomminuted fractures of the proximal phalanx in 69 horses. J Am Vet Med Assoc. 1985; 186(6): 573-579.
この症例論文では、馬の基節骨(Proximal phalanx: First phalanx: Pastern bone)の非粉砕性骨折(Noncomminuted fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、基節骨の非粉砕性骨折を呈した69頭の患馬における、医療記録(Medical record)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、69頭の患馬うち外科的療法が応用された65頭を見ると、退院前もしくは退院直後に安楽死(Euthanasia)となったのは六頭で、生存率(Survival rate)は91%(59/65頭)であったことが報告されています。また、外科的または非外科的療法が応用された65頭のうち、経過追跡(Follow-up)が出来なかった10頭を除くと、レースへの復帰を果たしたのは69%(34/49頭)で、その他の馬は、乗用馬としての使役(7/49頭)、もしくは繁殖馬として使役(8/49頭)されたことが報告されています。このため、馬の基節骨の非粉砕性骨折においては、外科的治療によって良好な予後が期待され、競走や乗用へと復帰する馬の割合も、比較的に高いことが示唆されました。
この研究では、経過追跡のできたスタンダードブレッド競走馬(30頭)に限っていえば、そのうち77%(23/30頭)がレース復帰を果たしたのに対して、経過追跡のできたサラブレッド競走馬(21頭)では、52%(11/21頭)のみがレース復帰を果たしたことが報告されており、スタンダードブレッドのほうがサラブレッドに比べて、競走に復帰できる可能性が有意に高いことが示されました。この要因としては、スタンダードブレッドは前肢と後肢に掛かる過重の差が小さく、骨折の罹患肢への負担がサラブレッドよりも少なかったこと、また、サラブレッドは競走馬を引退しても、乗用馬などのレース以外の用途へと転売できる確率がスタンダードブレッドよりも高かったこと、などが挙げられています。
この研究では、69頭の患馬うち11頭が、短い正軸性不完全骨折(Short incomplete midsagittal fracture)を呈し、この全頭に対して馬房休養(Stall rest)と圧迫バンテージ装着による保存性療法(Conservative treatment)が選択されました。そして、この11頭のうち経過追跡が出来なかった3頭を除くと、生存率は100%(8/8頭)で、競走復帰率は50%(4/8頭)であったことが報告されています。
この研究では、69頭の患馬うち7頭が、長い正軸性不完全骨折(Long incomplete midsagittal fracture)を呈し、このうち5頭に対しては螺子固定術(Lag screw fixation)を介しての外科的療法、残りの二頭に対しては保存性療法が選択されました。そして、この7頭の生存率は100%(7/7頭)で、競走復帰率は86%(6/7頭)であったことが報告されています。
上述のように、正軸性不完全骨折の症例に限っていえば、骨折線が短い患馬(競走復帰率:50%)のほうが、骨折線が長い患馬(競走復帰率:86%)に比べて、レースに復帰できる確率が有意に低いことが示されました。これは、短い正軸性不完全骨折の罹患馬においては、全頭に対して保存性療法が実施されたため、関節面の連続性(Articular continuity)が保たれていなかった場合には、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)などの術後合併症(Post-operative)を続発して、予後が悪化したためと推測されています。このため、正軸性不完全骨折の症例においては、例え骨折線の長さが短い場合においても、螺子固定術による外科的治療を積極的に応用することが重要である、という提唱がなされています。
この研究では、69頭の患馬うち33頭が、正軸性完全骨折(Complete midsagittal fracture)を呈し、このうち30頭に対しては螺子固定術またはプレート固定術を介しての外科的療法、残りの一頭に対しては保存性療法が選択されました。そして、外科的または非外科的療法が応用された31頭のうち、経過追跡が出来なかった5頭を除くと、生存率は85%(22/26頭)で、競走復帰率は54%(14/26頭)であったことが報告されています。馬の基節骨における正軸性完全骨折では、球節(Fetlock joint)と冠関節(Pastern joint)の二つの関節を巻き込んでいることから、螺子固定術の実施に際しては、必ず関節鏡手術(Arthroscopy)を併用することで、両関節面の連続性が維持されているのを、関節鏡下で確認することが重要であると考えられました。
この研究では、69頭の患馬うち6頭が、背側前面骨折(Dorsal frontal fracture)を呈し、このうち一頭に対しては螺子固定術を介しての外科的療法、残りの5頭に対しては保存性療法が選択されました。そして、この6頭の患馬の生存率は100%(6/6頭)で、競走復帰率は67%(4/6頭)であったことが報告されています。馬の基節骨の背側前面骨折においては、骨折片のサイズや位置によっては、関節鏡手術を介しての骨片除去が可能である場合もありうると考えられました。
この研究では、69頭の患馬うち3頭が、遠位関節部骨折(Distal joint fracture)を呈し、この全頭に対して螺子固定術を介しての外科的療法が選択されました。そして、この3頭の患馬の生存率は100%(3/3頭)で、競走復帰率は67%(2/3頭)であったことが報告されています。馬の基節骨の遠位関節部骨折においては、プレート固定を介しての冠関節固定術(Pastern arthrodesis)も、治療法の選択肢の一つとして検討されるべきであると考えられました。
この研究では、69頭の患馬うち4頭が、底側隆起骨折(Plantar process fracture)を呈し、このうち3頭に対しては骨片摘出(Fragment removal)を介しての外科的療法、残りの一頭に対しては保存性療法が選択されました。そして、この4頭の患馬の生存率は75%(3/4頭)で、競走復帰率は50%(2/4頭)であったことが報告されています。馬の基節骨における底側隆起骨折は、分離骨化中心(Separate center of ossification)との鑑別を慎重に行うことが大切で、また、重度の跛行を呈する症例はそれほど多くないことから、偶発的に発見(Incidental finding)される場合もありうると考えられました。
この研究では、69頭の患馬うち4頭が、骨端軟骨骨折(Physeal fracture)を呈し、この全頭に対して保存性療法が選択されました。そして、この4頭の患馬の生存率は100%(4/4頭)で、競走復帰率は50%(2/4頭)であったことが報告されています。若齢馬の基節骨における骨端軟骨骨折では、外科的整復が手技的に困難な症例も多いと推測されており、保存性療法の適応が推奨される場合が多いという考察がなされています。
この研究では、69頭の患馬うち一頭が、斜骨折(Oblique fracture)を呈し、螺子固定術を介しての外科的療法が選択されましたが、この患馬は持続性跛行(Persistent lameness)のため安楽死となったことが報告されています(生存率:0%、競走復帰率:0%)。
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この症例論文では、馬の基節骨(Proximal phalanx: First phalanx: Pastern bone)の非粉砕性骨折(Noncomminuted fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、基節骨の非粉砕性骨折を呈した69頭の患馬における、医療記録(Medical record)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、69頭の患馬うち外科的療法が応用された65頭を見ると、退院前もしくは退院直後に安楽死(Euthanasia)となったのは六頭で、生存率(Survival rate)は91%(59/65頭)であったことが報告されています。また、外科的または非外科的療法が応用された65頭のうち、経過追跡(Follow-up)が出来なかった10頭を除くと、レースへの復帰を果たしたのは69%(34/49頭)で、その他の馬は、乗用馬としての使役(7/49頭)、もしくは繁殖馬として使役(8/49頭)されたことが報告されています。このため、馬の基節骨の非粉砕性骨折においては、外科的治療によって良好な予後が期待され、競走や乗用へと復帰する馬の割合も、比較的に高いことが示唆されました。
この研究では、経過追跡のできたスタンダードブレッド競走馬(30頭)に限っていえば、そのうち77%(23/30頭)がレース復帰を果たしたのに対して、経過追跡のできたサラブレッド競走馬(21頭)では、52%(11/21頭)のみがレース復帰を果たしたことが報告されており、スタンダードブレッドのほうがサラブレッドに比べて、競走に復帰できる可能性が有意に高いことが示されました。この要因としては、スタンダードブレッドは前肢と後肢に掛かる過重の差が小さく、骨折の罹患肢への負担がサラブレッドよりも少なかったこと、また、サラブレッドは競走馬を引退しても、乗用馬などのレース以外の用途へと転売できる確率がスタンダードブレッドよりも高かったこと、などが挙げられています。
この研究では、69頭の患馬うち11頭が、短い正軸性不完全骨折(Short incomplete midsagittal fracture)を呈し、この全頭に対して馬房休養(Stall rest)と圧迫バンテージ装着による保存性療法(Conservative treatment)が選択されました。そして、この11頭のうち経過追跡が出来なかった3頭を除くと、生存率は100%(8/8頭)で、競走復帰率は50%(4/8頭)であったことが報告されています。
この研究では、69頭の患馬うち7頭が、長い正軸性不完全骨折(Long incomplete midsagittal fracture)を呈し、このうち5頭に対しては螺子固定術(Lag screw fixation)を介しての外科的療法、残りの二頭に対しては保存性療法が選択されました。そして、この7頭の生存率は100%(7/7頭)で、競走復帰率は86%(6/7頭)であったことが報告されています。
上述のように、正軸性不完全骨折の症例に限っていえば、骨折線が短い患馬(競走復帰率:50%)のほうが、骨折線が長い患馬(競走復帰率:86%)に比べて、レースに復帰できる確率が有意に低いことが示されました。これは、短い正軸性不完全骨折の罹患馬においては、全頭に対して保存性療法が実施されたため、関節面の連続性(Articular continuity)が保たれていなかった場合には、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)などの術後合併症(Post-operative)を続発して、予後が悪化したためと推測されています。このため、正軸性不完全骨折の症例においては、例え骨折線の長さが短い場合においても、螺子固定術による外科的治療を積極的に応用することが重要である、という提唱がなされています。
この研究では、69頭の患馬うち33頭が、正軸性完全骨折(Complete midsagittal fracture)を呈し、このうち30頭に対しては螺子固定術またはプレート固定術を介しての外科的療法、残りの一頭に対しては保存性療法が選択されました。そして、外科的または非外科的療法が応用された31頭のうち、経過追跡が出来なかった5頭を除くと、生存率は85%(22/26頭)で、競走復帰率は54%(14/26頭)であったことが報告されています。馬の基節骨における正軸性完全骨折では、球節(Fetlock joint)と冠関節(Pastern joint)の二つの関節を巻き込んでいることから、螺子固定術の実施に際しては、必ず関節鏡手術(Arthroscopy)を併用することで、両関節面の連続性が維持されているのを、関節鏡下で確認することが重要であると考えられました。
この研究では、69頭の患馬うち6頭が、背側前面骨折(Dorsal frontal fracture)を呈し、このうち一頭に対しては螺子固定術を介しての外科的療法、残りの5頭に対しては保存性療法が選択されました。そして、この6頭の患馬の生存率は100%(6/6頭)で、競走復帰率は67%(4/6頭)であったことが報告されています。馬の基節骨の背側前面骨折においては、骨折片のサイズや位置によっては、関節鏡手術を介しての骨片除去が可能である場合もありうると考えられました。
この研究では、69頭の患馬うち3頭が、遠位関節部骨折(Distal joint fracture)を呈し、この全頭に対して螺子固定術を介しての外科的療法が選択されました。そして、この3頭の患馬の生存率は100%(3/3頭)で、競走復帰率は67%(2/3頭)であったことが報告されています。馬の基節骨の遠位関節部骨折においては、プレート固定を介しての冠関節固定術(Pastern arthrodesis)も、治療法の選択肢の一つとして検討されるべきであると考えられました。
この研究では、69頭の患馬うち4頭が、底側隆起骨折(Plantar process fracture)を呈し、このうち3頭に対しては骨片摘出(Fragment removal)を介しての外科的療法、残りの一頭に対しては保存性療法が選択されました。そして、この4頭の患馬の生存率は75%(3/4頭)で、競走復帰率は50%(2/4頭)であったことが報告されています。馬の基節骨における底側隆起骨折は、分離骨化中心(Separate center of ossification)との鑑別を慎重に行うことが大切で、また、重度の跛行を呈する症例はそれほど多くないことから、偶発的に発見(Incidental finding)される場合もありうると考えられました。
この研究では、69頭の患馬うち4頭が、骨端軟骨骨折(Physeal fracture)を呈し、この全頭に対して保存性療法が選択されました。そして、この4頭の患馬の生存率は100%(4/4頭)で、競走復帰率は50%(2/4頭)であったことが報告されています。若齢馬の基節骨における骨端軟骨骨折では、外科的整復が手技的に困難な症例も多いと推測されており、保存性療法の適応が推奨される場合が多いという考察がなされています。
この研究では、69頭の患馬うち一頭が、斜骨折(Oblique fracture)を呈し、螺子固定術を介しての外科的療法が選択されましたが、この患馬は持続性跛行(Persistent lameness)のため安楽死となったことが報告されています(生存率:0%、競走復帰率:0%)。
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