馬の文献:基節骨骨折(Ellis et al. 1987)
文献 - 2016年03月13日 (日)
「若齢サラブレッドにおける基節骨骨折の知見と治療」
Ellis DR, Simpson DJ, Greenwood RE, Crowhurst JS. Observations and management of fractures of the proximal phalanx in young Thoroughbreds. Equine Vet J. 1987; 19(1): 43-49.
この症例論文では、馬の基節骨骨折(Proximal phalanx fracture)の病態調査と外科的療法の治療効果を評価するため、基節骨骨折を呈した119頭のサラブレッドにおける、医療記録(Medical record)の解析が行われました。
この研究では、119頭の患馬うち61頭(51%)が、短い正軸性不完全骨折(Short incomplete midsagittal fracture)を呈し、このうち60頭に対しては馬房休養(Stall rest)と圧迫バンテージ装着による保存性療法(Conservative treatment)、残りの一頭に対しては螺子固定術(Lag screw fixation)を介しての外科的療法が選択されました。そして、この61頭のうち経過追跡が出来なかった9頭を除くと、生存率は100%(52/52頭)で、競走復帰率は71%(37/52頭)であったことが報告されています。
この研究では、119頭の患馬うち24頭(20%)が、長い正軸性不完全骨折(Long incomplete midsagittal fracture)を呈し、このうち17頭に対しては保存性療法、6頭に対しては外科的療法が選択されました。そして、この24頭の生存率は96%(23/24頭)でしたが、保存性療法における競走復帰率は65%(11/17頭)、外科的療法における競走復帰率は50%(3/6頭)であったことが報告されています。
一般的に、馬の基節骨の正軸性不完全骨折では、殆どの症例において、治療後の二ヶ月前後で跛行(Lameness)の消失が見られ、比較的に良好な予後を示すことが報告されています。しかし、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を予防するため、骨折線が極めて短い場合を除き、積極的に内固定法(Internal fixation)を実施して、関節面の連続性(Articular continuity)を保つ治療指針が推奨されています。
この研究では、119頭の患馬うち12頭(10%)が、正軸性完全骨折(Complete midsagittal fracture)を呈し、このうち5頭に対しては保存性療法、残りの6頭に対しては外科的療法が選択されました。そして、この12頭の生存率は83%(10/12頭)でしたが、保存性療法における競走復帰率は0%(0/5頭)、外科的療法における競走復帰率は33%(2/6頭)であったことが報告されています。このため、馬の基節骨の完全骨折では、外固定法(External fixation)による充分な骨折片の安定化(Sufficient fragment stabilization)は困難であることから、保存性療法のみでは良好な予後は期待できないと考察されています。
この研究では、119頭の患馬うち一頭(1%)が、遠位正軸性骨折(Distal sagittal fracture)、二頭(2%)が側方骨折(Lateral fracture)を呈し、この全頭に対して保存性療法が選択されました。そして、この三頭の生存率は100%(3/3頭)でしたが、競走復帰率は0%(0/3頭)であったことが報告されています。この研究では検証されていませんが、この二つのタイプの基節骨骨折に対しては、プレート固定を介しての冠関節固定術(Pastern arthrodesis)も、外科的療法の選択肢の一つになりうると考えられました。
この研究では、119頭の患馬うち19頭(16%)が、粉砕骨折(Comminuted fracture)を呈し、このうち3頭に対しては保存性療法、8頭に対しては外科的療法が選択されました。そして、この19頭のうち経過追跡が出来なかった3頭を除くと、生存率は38%(6/16頭)で、競走復帰率は0%(0/16頭)であったことが報告されています。
一般的に、馬の基節骨の粉砕骨折では、内固定法のみでは十分な骨癒合(Bony union)が達成されず、対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis on contralateral limb)のため、予後不良を呈する場合が多いことが報告されています。このため、今後の研究では、経固定具ピンギプス(Transfixation-pin cast)や外骨格固定装置(External skeletal fixation device)などの、外固定法を併用しての治療を評価する必要があると考えられました。
この研究では、119頭の患馬のうち医療記録が不完全であった8頭を除くと、二歳馬が70%(78/111頭)、三歳馬が22%(24/111頭)、四歳馬が3%(3/111頭)、五歳馬が5%(6/111頭)を占めており、サラブレッド競走馬における基節骨骨折は、二歳~三歳の若齢馬に好発することが示唆されました。また、性別分布では、雄馬(種牡馬または去勢馬)が55%(61/111頭)、牝馬が45%(50/111頭)を占めており、雄馬のほうが牝馬よりも発症率が高い傾向が認められました。一方、医療記録が示された118箇所の骨折部位のうち、前肢が76%(90/118骨折)、後肢が24%(28/118骨折)で、前肢のほうが後肢よりも基節骨骨折を起こしやすいことが示唆されましたが、左右の肢による発症率には顕著な差異は認められませんでした。
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一般的に、馬の基節骨の正軸性不完全骨折では、殆どの症例において、治療後の二ヶ月前後で跛行(Lameness)の消失が見られ、比較的に良好な予後を示すことが報告されています。しかし、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を予防するため、骨折線が極めて短い場合を除き、積極的に内固定法(Internal fixation)を実施して、関節面の連続性(Articular continuity)を保つ治療指針が推奨されています。
この研究では、119頭の患馬うち12頭(10%)が、正軸性完全骨折(Complete midsagittal fracture)を呈し、このうち5頭に対しては保存性療法、残りの6頭に対しては外科的療法が選択されました。そして、この12頭の生存率は83%(10/12頭)でしたが、保存性療法における競走復帰率は0%(0/5頭)、外科的療法における競走復帰率は33%(2/6頭)であったことが報告されています。このため、馬の基節骨の完全骨折では、外固定法(External fixation)による充分な骨折片の安定化(Sufficient fragment stabilization)は困難であることから、保存性療法のみでは良好な予後は期待できないと考察されています。
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この研究では、119頭の患馬うち19頭(16%)が、粉砕骨折(Comminuted fracture)を呈し、このうち3頭に対しては保存性療法、8頭に対しては外科的療法が選択されました。そして、この19頭のうち経過追跡が出来なかった3頭を除くと、生存率は38%(6/16頭)で、競走復帰率は0%(0/16頭)であったことが報告されています。
一般的に、馬の基節骨の粉砕骨折では、内固定法のみでは十分な骨癒合(Bony union)が達成されず、対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis on contralateral limb)のため、予後不良を呈する場合が多いことが報告されています。このため、今後の研究では、経固定具ピンギプス(Transfixation-pin cast)や外骨格固定装置(External skeletal fixation device)などの、外固定法を併用しての治療を評価する必要があると考えられました。
この研究では、119頭の患馬のうち医療記録が不完全であった8頭を除くと、二歳馬が70%(78/111頭)、三歳馬が22%(24/111頭)、四歳馬が3%(3/111頭)、五歳馬が5%(6/111頭)を占めており、サラブレッド競走馬における基節骨骨折は、二歳~三歳の若齢馬に好発することが示唆されました。また、性別分布では、雄馬(種牡馬または去勢馬)が55%(61/111頭)、牝馬が45%(50/111頭)を占めており、雄馬のほうが牝馬よりも発症率が高い傾向が認められました。一方、医療記録が示された118箇所の骨折部位のうち、前肢が76%(90/118骨折)、後肢が24%(28/118骨折)で、前肢のほうが後肢よりも基節骨骨折を起こしやすいことが示唆されましたが、左右の肢による発症率には顕著な差異は認められませんでした。
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