馬の文献:基節骨骨折(Holcombe et al. 1995)
文献 - 2016年03月14日 (月)
「競走馬の基節骨の非粉砕性正軸性骨折に対する螺子固定術:1973~1991年の59症例」
Holcombe SJ, Schneider RK, Bramlage LR, Gabel AA, Bertone AL, Beard WL. Lag screw fixation of noncomminuted sagittal fractures of the proximal phalanx in racehorses: 59 cases (1973-1991). J Am Vet Med Assoc. 1995; 206(8): 1195-1199.
この症例論文では、馬の基節骨(Proximal phalanx: First phalanx: Pastern bone)における非粉砕性の正軸性骨折(Noncomminuted sagittal fracture)に対する、螺子固定術(Lag screw fixation)を介しての外科的療法の治療効果を評価するため、1973~1991年にかけて基節骨の非粉砕性骨折を呈した59頭の競走馬における、医療記録(Medical record)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
この研究では、基節骨における非粉砕性の正軸性骨折を、(1)短い正軸性不完全骨折(Short incomplete midsagittal fracture)、(2)長い正軸性不完全骨折(Long incomplete midsagittal fracture)、(3)冠関節に達する正軸性完全骨折(Complete midsagittal fracture extended to pastern joint)、(4)基節骨の内外側皮質面に達する正軸性完全骨折(Complete midsagittal fracture extended to lateral/medial cortex)、という四種類のタイプに分類しています。
結果としては、59頭の患馬の全体を見ると、競走に復帰したのは63%(37/59頭)でしたが、骨折のタイプ別に見ると、冠関節に達する正軸性完全骨折における競走復帰率(46%)は、他の三種類のタイプにおける競走復帰率よりも有意に低いことが示されました(短い正軸性不完全骨折:71%、長い正軸性不完全骨折:66%、基節骨の内外側皮質面に達する正軸性完全骨折:71%)。つまり、競走馬の基節骨における非粉砕性の正軸性骨折では、その予後は完全骨折(Complete fracture)の有無や骨片変位(Fragment displacement)の度合いではなく、冠関節を巻き込んでいるか否かに大きく左右されることが示唆されました。このため、骨折線が冠関節面に達している症例においては、螺子固定術による骨折片の不動化(Immobilization)に加えて、冠関節固定術(Pastern arthrodesis)を併用することで、冠関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を予防する治療指針が有効である症例もありうると考えられました。
この研究では、骨折発生から外科整復までに置かれた期間を見ると、競走復帰を果たした馬郡では平均15日、競走復帰できなかった馬郡では平均6日で、両郡のあいだに有意差は認められませんでした。このため、馬の基節骨骨折においては、外科手術そのものは緊急を要するわけではなく、また、骨折直後の応急処置(Fracture first aid)によって、骨折罹患肢の十分な安定化(Sufficient stabilization of fractured limb)ができていれば、骨折発生から二週間以上経った時点で螺子固定術が実施された場合でも、比較的に良好な予後が期待されるという考察がなされています。しかし、このデータの背景には、重篤な骨折と跛行を呈した症例では、骨折直後に手術が応用される(=その殆どが予後不良で競走復帰できず)という偏向(Bias)が生じたためと推測されており、螺子固定術の実施をいたずらに遅らせることは、必ずしも適当ではない、という警鐘も鳴らされています。
この研究では、外科整復から競走復帰までに要した期間を見ると、短い正軸性不完全骨折では平均222日で、他の三種類のタイプよりも有意に短いことが示されました(長い正軸性不完全骨折:平均303日、冠関節に達する正軸性完全骨折:平均352日、基節骨の内外側皮質面に達する正軸性完全骨折:平均238日)。しかし、競走復帰後の出走数や最速レースタイムを見ると、四種類の骨折タイプのあいだに有意差は認められませんでした。このため、馬の基節骨における非粉砕性の正軸性骨折では、骨折線が短いほど手術後の休養期間も短くなることが示唆されましたが、レース復帰を果たした後の競走能力そのものには有意には影響しないことが示されました。
この研究では、59頭の患馬のうち、前肢が81%(48/59頭)、後肢が24%(11/59頭)で、前肢のほうが後肢よりも基節骨骨折を起こしやすいことが示唆されました。また、左前肢(27/59頭)と右前肢(21/59頭)の発症率には有意差は認められませんでしたが、左後肢(8/59頭)では右後肢(3/59頭)よりも有意に高い発症率を示しました。
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この症例論文では、馬の基節骨(Proximal phalanx: First phalanx: Pastern bone)における非粉砕性の正軸性骨折(Noncomminuted sagittal fracture)に対する、螺子固定術(Lag screw fixation)を介しての外科的療法の治療効果を評価するため、1973~1991年にかけて基節骨の非粉砕性骨折を呈した59頭の競走馬における、医療記録(Medical record)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
この研究では、基節骨における非粉砕性の正軸性骨折を、(1)短い正軸性不完全骨折(Short incomplete midsagittal fracture)、(2)長い正軸性不完全骨折(Long incomplete midsagittal fracture)、(3)冠関節に達する正軸性完全骨折(Complete midsagittal fracture extended to pastern joint)、(4)基節骨の内外側皮質面に達する正軸性完全骨折(Complete midsagittal fracture extended to lateral/medial cortex)、という四種類のタイプに分類しています。
結果としては、59頭の患馬の全体を見ると、競走に復帰したのは63%(37/59頭)でしたが、骨折のタイプ別に見ると、冠関節に達する正軸性完全骨折における競走復帰率(46%)は、他の三種類のタイプにおける競走復帰率よりも有意に低いことが示されました(短い正軸性不完全骨折:71%、長い正軸性不完全骨折:66%、基節骨の内外側皮質面に達する正軸性完全骨折:71%)。つまり、競走馬の基節骨における非粉砕性の正軸性骨折では、その予後は完全骨折(Complete fracture)の有無や骨片変位(Fragment displacement)の度合いではなく、冠関節を巻き込んでいるか否かに大きく左右されることが示唆されました。このため、骨折線が冠関節面に達している症例においては、螺子固定術による骨折片の不動化(Immobilization)に加えて、冠関節固定術(Pastern arthrodesis)を併用することで、冠関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を予防する治療指針が有効である症例もありうると考えられました。
この研究では、骨折発生から外科整復までに置かれた期間を見ると、競走復帰を果たした馬郡では平均15日、競走復帰できなかった馬郡では平均6日で、両郡のあいだに有意差は認められませんでした。このため、馬の基節骨骨折においては、外科手術そのものは緊急を要するわけではなく、また、骨折直後の応急処置(Fracture first aid)によって、骨折罹患肢の十分な安定化(Sufficient stabilization of fractured limb)ができていれば、骨折発生から二週間以上経った時点で螺子固定術が実施された場合でも、比較的に良好な予後が期待されるという考察がなされています。しかし、このデータの背景には、重篤な骨折と跛行を呈した症例では、骨折直後に手術が応用される(=その殆どが予後不良で競走復帰できず)という偏向(Bias)が生じたためと推測されており、螺子固定術の実施をいたずらに遅らせることは、必ずしも適当ではない、という警鐘も鳴らされています。
この研究では、外科整復から競走復帰までに要した期間を見ると、短い正軸性不完全骨折では平均222日で、他の三種類のタイプよりも有意に短いことが示されました(長い正軸性不完全骨折:平均303日、冠関節に達する正軸性完全骨折:平均352日、基節骨の内外側皮質面に達する正軸性完全骨折:平均238日)。しかし、競走復帰後の出走数や最速レースタイムを見ると、四種類の骨折タイプのあいだに有意差は認められませんでした。このため、馬の基節骨における非粉砕性の正軸性骨折では、骨折線が短いほど手術後の休養期間も短くなることが示唆されましたが、レース復帰を果たした後の競走能力そのものには有意には影響しないことが示されました。
この研究では、59頭の患馬のうち、前肢が81%(48/59頭)、後肢が24%(11/59頭)で、前肢のほうが後肢よりも基節骨骨折を起こしやすいことが示唆されました。また、左前肢(27/59頭)と右前肢(21/59頭)の発症率には有意差は認められませんでしたが、左後肢(8/59頭)では右後肢(3/59頭)よりも有意に高い発症率を示しました。
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