馬の文献:基節骨骨折(Dechant et al. 1998)
文献 - 2016年03月16日 (水)
「二頭の馬における基節骨背側完全骨折の整復」
Dechant JE, MacDonald DG, Crawford WH. Repair of complete dorsal fracture of the proximal phalanx in two horses. Vet Surg. 1998; 27(5): 445-449.
この症例論文では、基節骨(Proximal phalanx: First phalanx: Pastern bone)における背側完全骨折(Complete dorsal fracture)に対して、外科的療法が応用された二頭の症例が報告されています。
一頭目の症例は、12歳齢のサラブレッドとモルガンの混血種の牝馬(Mare)で、四日間にわたる左前肢の中程度~重度跛行(グレード3~5)の病歴を示し、レントゲン検査によって球節(Fetlock joint)と冠関節(Pastern joint)の両方の関節面に達する基節骨の背側完全骨折、および球節の骨関節炎(Osteoarthritis)の発症が確認されたことから、治療としては、螺子固定術(Lag screw fixation)による骨折片の不動化(Stabilization of fracture fragment)が選択されました。手術では、背臥位(Dorsal recumbency)での全身麻酔下(Under general anesthesia)において、穿刺切開創(Stab incision)を介して、三本の5.5mm皮質骨螺子(Cortical screw)を用いての骨折部の整復が実施され、遠位肢ギプス(Distal limb cast)による外固定法(External fixation)も併用されました。術後の九週間目のレントゲンでは、良好な骨治癒が確認されたものの、球節の骨関節炎の悪化が認められ、患馬は“多少の跛行”(“Some lameness”)を呈したことから、術後の13ヶ月目から野外騎乗(Trail riding)での運動使役に復帰したことが報告されています。
二頭目の症例は、20歳齢のクォーターホースの去勢馬(Gelding)で、二日間にわたる右後肢の中程度跛行(グレード3)の病歴を示し、レントゲン検査によって球節と冠関節の両方の関節面に達する基節骨の背側完全骨折と、球節の骨関節炎の発症が確認されたことから、一頭目と同様に、螺子固定術による外科的治療が選択されました。手術では、一頭目と同じ術式によって、三本の5.5mm皮質骨螺子を用いての骨折部の整復、および遠位肢ギプスの装着が実施されました。術後の12週間目のレントゲンでは、良好な骨治癒が確認されたものの、球節の骨関節炎の悪化も認められ、患馬は“僅かな跛行” (“Slight lameness”)を呈したことから、術後の9ヶ月目から乗用馬としての運動使役に復帰したことが報告されています。
この研究では、基節骨の背側完全骨折に対する螺子固定術によって、二頭とも比較的に良好な予後を示し、運動復帰を果たしたことから、このタイプの骨折における外科的療法の有用性が示唆されました。しかし、二頭とも、球節の骨関節炎に起因すると思われる軽度の持続性跛行(Persistent lameness)を示したことから、螺子固定術の実施に際して関節鏡手術(Arthroscopy)を併用することで、関節面の連続性(Artiuclar surface continuity)が保たれているのを確かめたり、異常な関節軟骨を掻爬(Cartilage curretage)することで、予後を改善できる可能性もあると考えられました。
馬の基節骨における背側骨折(他の文献の分類では“外側骨折”:Lateral fracture)は、基節骨骨折のうち数%を占めるのみの、稀な骨折病態であることが知られており、その病因論としては、馬が急停止した場合などに、球節がまっすぐな状態で管部(Metatarsus)が減速(Deceleration)することで、基節骨の背側半分が上方に持ち上げられるようにして割れることで、骨折に至ると推測されています。しかし、この論文の症例における初診レントゲン検査では、二頭とも先行疾患(Pre-existing disease)としての球節の骨関節炎が認められことから、骨関節炎によって関節包(Joint capsule)や関節周囲組織(Peri-articular tissue)の柔軟性が失われ、球節の可動範囲(Range of motion)が減退し、十分な球節の伸展ができなくなることで、踏着時に基節骨の背側部に異常な荷重が生じて骨折を起こす、という新しい病因論も仮説されています。
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Dechant JE, MacDonald DG, Crawford WH. Repair of complete dorsal fracture of the proximal phalanx in two horses. Vet Surg. 1998; 27(5): 445-449.
この症例論文では、基節骨(Proximal phalanx: First phalanx: Pastern bone)における背側完全骨折(Complete dorsal fracture)に対して、外科的療法が応用された二頭の症例が報告されています。
一頭目の症例は、12歳齢のサラブレッドとモルガンの混血種の牝馬(Mare)で、四日間にわたる左前肢の中程度~重度跛行(グレード3~5)の病歴を示し、レントゲン検査によって球節(Fetlock joint)と冠関節(Pastern joint)の両方の関節面に達する基節骨の背側完全骨折、および球節の骨関節炎(Osteoarthritis)の発症が確認されたことから、治療としては、螺子固定術(Lag screw fixation)による骨折片の不動化(Stabilization of fracture fragment)が選択されました。手術では、背臥位(Dorsal recumbency)での全身麻酔下(Under general anesthesia)において、穿刺切開創(Stab incision)を介して、三本の5.5mm皮質骨螺子(Cortical screw)を用いての骨折部の整復が実施され、遠位肢ギプス(Distal limb cast)による外固定法(External fixation)も併用されました。術後の九週間目のレントゲンでは、良好な骨治癒が確認されたものの、球節の骨関節炎の悪化が認められ、患馬は“多少の跛行”(“Some lameness”)を呈したことから、術後の13ヶ月目から野外騎乗(Trail riding)での運動使役に復帰したことが報告されています。
二頭目の症例は、20歳齢のクォーターホースの去勢馬(Gelding)で、二日間にわたる右後肢の中程度跛行(グレード3)の病歴を示し、レントゲン検査によって球節と冠関節の両方の関節面に達する基節骨の背側完全骨折と、球節の骨関節炎の発症が確認されたことから、一頭目と同様に、螺子固定術による外科的治療が選択されました。手術では、一頭目と同じ術式によって、三本の5.5mm皮質骨螺子を用いての骨折部の整復、および遠位肢ギプスの装着が実施されました。術後の12週間目のレントゲンでは、良好な骨治癒が確認されたものの、球節の骨関節炎の悪化も認められ、患馬は“僅かな跛行” (“Slight lameness”)を呈したことから、術後の9ヶ月目から乗用馬としての運動使役に復帰したことが報告されています。
この研究では、基節骨の背側完全骨折に対する螺子固定術によって、二頭とも比較的に良好な予後を示し、運動復帰を果たしたことから、このタイプの骨折における外科的療法の有用性が示唆されました。しかし、二頭とも、球節の骨関節炎に起因すると思われる軽度の持続性跛行(Persistent lameness)を示したことから、螺子固定術の実施に際して関節鏡手術(Arthroscopy)を併用することで、関節面の連続性(Artiuclar surface continuity)が保たれているのを確かめたり、異常な関節軟骨を掻爬(Cartilage curretage)することで、予後を改善できる可能性もあると考えられました。
馬の基節骨における背側骨折(他の文献の分類では“外側骨折”:Lateral fracture)は、基節骨骨折のうち数%を占めるのみの、稀な骨折病態であることが知られており、その病因論としては、馬が急停止した場合などに、球節がまっすぐな状態で管部(Metatarsus)が減速(Deceleration)することで、基節骨の背側半分が上方に持ち上げられるようにして割れることで、骨折に至ると推測されています。しかし、この論文の症例における初診レントゲン検査では、二頭とも先行疾患(Pre-existing disease)としての球節の骨関節炎が認められことから、骨関節炎によって関節包(Joint capsule)や関節周囲組織(Peri-articular tissue)の柔軟性が失われ、球節の可動範囲(Range of motion)が減退し、十分な球節の伸展ができなくなることで、踏着時に基節骨の背側部に異常な荷重が生じて骨折を起こす、という新しい病因論も仮説されています。
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