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馬の文献:基節骨骨折(Kraus et al. 2004)

「馬の基節骨粉砕骨折の治療:1983~2001年の64症例」
Kraus BM, Richardson DW, Nunamaker DM, Ross MW. Management of comminuted fractures of the proximal phalanx in horses: 64 cases (1983-2001). J Am Vet Med Assoc. 2004; 224(2): 254-263.

この症例論文では、馬の基節骨(Proximal phalanx: First phalanx: Pastern bone)の粉砕骨折(Comminuted fracture)に対する、外科的療法の治療効果を評価するため、1983~2001年にかけて基節骨粉砕骨折を呈した64頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

この研究では、38頭の患馬において、球節(Fetlock joint)と冠関節(Pastern joint)の両方の関節面に達する支柱骨折片(Intact strut)が存在し、これを“中程度の粉砕骨折”(Moderately comminuted fracture)と定義しました。そして、これらの患馬に対しては、螺子固定術(Lag screw fixation)およびプレート固定術によって、他の骨折片を支柱骨折片へと固定することで、骨折部位の整復が行われ、遠位肢ギプス(Distal limb cast)の装着も併用されました。手術時間は平均二時間(範囲:1~5時間)、使用された螺子は平均七本(範囲:3~13本)で、また、ギプス装着期間は平均45日(範囲:21~168日)であったことが報告されています。

結果としては、基節骨における中程度の粉砕骨折を呈した38頭の患馬のうち、経済的な理由から安楽死(Euthanasia)が選択された二頭を除くと、長期生存率(Long-term survival rate)は92%(33/36頭)であったことが示されました。そして、33頭の生存した患馬のうち、四頭は調教に復帰しましたが、レースに復帰した馬はありませんでした。このため、馬の基節骨における中程度の粉砕骨折では、螺子固定術およびプレート固定術による外科的療法によって、比較的に良好な予後が期待され、繁殖馬として使役できるようになる可能性も高いことが示唆されました。

この研究では、三頭の馬が、中程度の粉砕骨折の外科的治療後に安楽死となっており、その理由としては、二頭が骨折部位の治癒遅延(Delayed union)、他の一頭が対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis on contralateral limb)であったことが報告されています。このため、骨折病態や患馬の気質によっては、螺子固定やプレート固定による内固定法に、下記のようなピンを用いての外固定法を併用して、整復部位の安定化(Stabilization)を促進したり、罹患肢への十分な体重負荷(Sufficient weight-bearing)ができるようにすることで、治癒遅延や負重性蹄葉炎などの術後合併症(Post-operative complication)の危険を減少できる可能性がある、という考察がなされています。

この研究では、中程度の粉砕骨折の内固定の際に、球節の側副靭帯の切断(Resection of fetlock collateral ligament)を必要としなかった場合には、術後の関節の安定性(Joint stability)が維持されることから、遠位肢ギプスの装着は平均37日(範囲:21~42日)で済むことが示されました。しかし、側副靭帯の切断を要した症例でも、術後のギプス装着によって靭帯部位の治癒が起きていることから、施術に際して適切な骨折片の整復を達成するためには、側副靭帯切断によって十分な術野を確保することを躊躇するべきではない、という提唱がなされています。一方で、関節鏡手術(Arthroscopy)や蛍光透視装置(Fluoroscopy)を用いることで、関節の安定性を損なうことなく、骨折片の整復度合いを術中モニタリングする手法も検証に値すると考えられました。

この研究では、内固定法の実施に際しては、球節の近位掌側関節嚢(Proximal palmar joint pouch)から、遠位側に向かって種子骨側副靭帯(Collateral sesamoidean ligament)および背側繋部へと達するカーブ状の皮膚切開創を介して、基節骨の骨折部位を明瞭に露出させるアプローチが取られており、これは、他の文献で示されているような穿刺切開創(Stab incision)を介しての螺子挿入(Screw insertion)に比べて、骨折片同士の整復度合いを目視下で確認できるという利点が指摘されています。また、カーブ状の切開創では、他の文献の手法で用いられているH字形やY字形の皮膚切開創に比べて、血流阻害を起こす危険が少なく、術後に創傷部位の感染や治癒遅延を起こしにくい、という考察がなされています。

この研究では、26頭の患馬において、支柱骨折片が存在しなかったため、これを“重度の粉砕骨折”(Severely comminuted fracture)と定義しました。そして、これらの患馬のうち、13頭に対しては外骨格固定装置(External skeletal fixation device)を用いての外固定法(External fixation)、6頭に対しては経固定具ピンギプス(Transfixation-pin cast)を用いての外固定法(External fixation)による治療が選択されました。この手法では、管骨(Cannon bone)に2~3本のピンを挿入し、その両端を金属製の外枠、もしくはギプス素材の内部に固定することで、大部分の荷重をピン、外枠、ギプスを経て、地面に伝達させることで、粉砕骨折の二次性骨治癒(Secondary bone healing)を促す方針が取られました。

結果としては、基節骨における重度の粉砕骨折を呈した患馬のうち、外骨格固定装置が使用された13頭では、長期生存率は62%(8/13頭)で、この七頭の生存馬のうち一頭は乗用馬として運動に復帰し、残りの6頭は繁殖馬として使役されました。また、経固定具ピンギプスが使用された6頭では、長期生存率は67%(4/6頭)で、その全頭が繁殖馬として使役されました。このため、馬の基節骨における重度の粉砕骨折では、外骨格固定装置および経固定具ピンギプスによる外科的療法によって、中程度の予後が期待され、繁殖馬として使役できるようになる可能性もあることが示唆されました。

この研究では、外骨格固定装置が使用された13頭を見ると、五頭の非生存馬では、その全頭において、管骨骨折(Cannon bone fracture)が安楽死の原因となっています。また、経固定具ピンギプスが使用された6頭を見ても、二頭の非生存馬のうち一頭が、管骨骨折によって安楽死となっています。このため、基節骨における重度の粉砕骨折に対して、外固定法が実施された症例において、管骨に通されたピンの箇所、もしくはピンを抜いた後の穴の箇所において、骨折を生じる危険が高いことが示唆されており、この際には、罹患肢の不使用性骨減少症(Disuse osteopenia)による管骨そのものの強度減退が関与していると考察されています。

この研究では、64頭の基節骨粉砕骨折のうち、その72%(46/64頭)がレースの調教またはレース中に起きており、また、前肢(38/64頭)のほうが後肢(26/64頭)よりも発症率が高い傾向が見られました。このため、馬の基節骨における粉砕骨折は、高速度運動を強いられる競走馬において、後肢よりも荷重の大きい前肢において発症しやすいことが示唆されました。

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