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馬の文献:基節骨骨折(Kuemmerle et al. 2008)

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「十頭の非競走馬における基節骨の短正軸性不完全骨折」
Kuemmerle JM, Auer JA, Rademacher N, Lischer CJ, Bettschart-Wolfensberger R, Fürst AE. Short incomplete sagittal fractures of the proximal phalanx in ten horses not used for racing. Vet Surg. 2008; 37(2): 193-200.

この症例論文では、非競走馬における基節骨(Proximal phalanx: First phalanx: Pastern bone)の短正軸性不完全骨折(Short incomplete sagittal fracture)に対する、外科的療法の治療効果を評価するため、1989~2006年にかけて基節骨粉砕骨折を呈した10頭の患馬の、医療記録(Medical records)の解析が行われました。

結果としては、10頭の患馬のうち4頭に対しては、馬房休養(Stall rest)、バンテージ装着、全身性の抗炎症剤(Systemic anti-inflammatory drug)、ヒアルロン酸の関節注射(Joint injection)などによる保存性療法(Conservative management)が実施されましたが、跛行(Lameness)の消失が見られたのは一頭のみで(治癒率:25%)で、残りの三頭のうち一頭では、初診から二年半後に同じ基節骨の完全骨折(Complete fracture)を続発したことが報告されています。一方、10頭の患馬のうち5頭に対しては、螺子固定術(Lag screw fixation)による外科的療法が実施され、この全頭が跛行消失を示し(治癒率:100%)、骨折前と同レベルの競技復帰を果たしたことが報告されています。このため、非競走馬における基節骨の短正軸性不完全骨折に対しては、外科的療法によって良好な骨折治癒が期待され、競技能力の減退を起こすことなく、乗用使役に復帰できることが示唆されました。

この研究では、10頭の患馬の全頭において、近位基節骨の軟骨下硬化症(Subchondral sclerosis)が認められ、また、10頭のうち5頭において、骨折線の周囲に嚢胞病変(Cystic lesion)が形成されている所見が確認されました。そして、嚢胞形成を示した5頭のうち、三頭に対しては螺子固定術が実施され良好な予後を示しましたが、一頭に対しては経皮質骨穿孔(Trans-cortical drilling)を介して嚢胞腔を骨セメントで充填する処置が施されたものの、一年半後に同じ基節骨の完全骨折を続発したことが報告されています。一般的に、基節骨の短正軸性不完全骨折においては、骨折後の一定期間で跛行が減退することから、これら5頭の症例は、骨折→休養→運動再開という病歴を示して、慢性骨折(Chronic fracture)に移行して、骨折周囲の硬化症や嚢胞形成に至ったと推測されています。

この研究では、10頭の患馬のうち6頭に対して診断麻酔(Diagnostic anesthesia)が実施され、このうち3頭では近位掌側指神経麻酔(Proximal palmar digital nerve block)によって跛行消失が見られましたが、残りの3頭では遠軸性神経麻酔(Abaxial nerve block)もしくは低四点神経麻酔(Low four-point nerve block)を要しました。また、4頭では球節の関節麻酔(Fetlock joint block)も併用され、顕著な跛行改善(“50~90%”の改善)が認められました。一般に競走馬において、基節骨骨折が疑われる症例に対しては、診断の過程で不完全骨折が完全骨折へと悪化してしまう危険を考慮して、診断麻酔による患部の無痛化(Analgesia)は推奨されていません。非競走馬においては、基節骨骨折に限らず骨折そのものの発症率が低いので、通常の跛行検査のステップのひとつとして診断麻酔が実施されますが、診断麻酔後のレントゲン検査で不完全骨折が発見された場合などには、患部の無痛化が消失するまでは、鎮静を続けたり枠場につなぐなどして、骨折悪化(Fracture propagation)を予防する処置が重要であると考察されています。

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