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馬の文献:基節骨骨折(Ramzan et al. 2010)

「基節骨の前駆骨折が疑われた三頭のサラブレッド競走馬における臨床的および画像的特徴」
Ramzan PH, Powell SE. Clinical and imaging features of suspected prodromal fracture of the proximal phalanx in three Thoroughbred racehorses. Equine Vet J. 2010; 42(2): 164-169.

この症例論文では、競走馬における基節骨(Proximal phalanx: First phalanx: Pastern bone)の正軸性骨折(Sagittal fracture)における病因論を検証するため、2006~2008年にかけて基節骨の前駆骨折(Prodromal fracture)が疑われた三頭のサラブレッド競走馬における、臨床的および画像的特徴(Clinical/Imaging feature)の解析が行われました。

この三頭の症例は、いずれも平地競走の調教(Flat race training)を受けていたサラブレッドのオスの子馬(Colt)で、前肢の軽度跛行(Mild lameness:グレード1~2)の病歴を示しました。跛行検査においては、球節屈曲時の疼痛(Pain on fetlock flexion)や関節膨満(Joint distension)は認められず、遠位肢屈曲試験(Distal limb flexion test)にも陰性を示しましたが、基節骨の近位背側関節縁(Proximodorsal articular margin of the proximal phalanx)における僅かな圧痛が触知されました。レントゲン検査では、いずれの患馬にも異常は見られませんでしたが、核シンティグラフィー(Nuclear scintigraphy)において近位基節骨の放射医薬性取込の増加(Increased radiopharmaceutical uptake)が認められたことから、MRIによる精密検査が実施され、近位基節骨の海綿骨(Trabecular bone of proximal aspect of the proximal phalanx)における骨髄浮腫様パターン(Bone marrow edema-type signal pattern)や、軟骨下骨板の肥厚(Thickening of the subchondral bone plate)などが発見されました。この三頭に対する治療としては、馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)が選択され、いずれの患馬も良好な跛行改善を示し、レントゲン検査によって罹患部位の骨再構築(Bone remodeling)が確認されました。

この研究の症例に見られたような骨髄浮腫様パターンは、“骨髄病変”(Bone marrow lesion)というMRI画像診断用語として表現されており、馬の遠位肢におけるMRI所見として報告されています(Dyson et al. EVJ. 2003;35:18. & Olive et al. EVE. 2009;21:116)。MRI画像上での骨髄病変の所見が示す病態としては、骨軟骨病巣(Osteochondral defect)、無血管性壊死(Avascular necrosis)、腫瘍(Neoplasia)、関節炎(Arthritis)などが挙げられていますが、この研究の症例に見られた近位基節骨の場合には、レントゲンで探知できないレベルの僅かな骨折の発症を示唆する所見であると予測されています。一般的に、馬の基節骨の正軸性骨折は、正常範囲以上に及ぶ一回の荷重(Single supraphysiological loading event)によって引き起こされるという、外傷性の病因論(Traumatic etiology)が提唱されてきましたが、この研究の結果から、重篤な骨折が起こる前に前駆骨折が生じているという、疲労骨折(Stress fracture)に順ずる病因論が仮説されています。

この研究では、核シンティグラフィーとMRI検査の両方によって、前駆骨折と考えられる病変が探知されていますが、他の文献を見ると、疲労骨折の発見に際しては、核シンティグラフィーよりもMRIのほうが感度(Sensitivity)および特異度(Specificity)ともに有意に高いことが示されています(Boden et al. JAAOS. 2000;8:344. & Gaeta et al. Radiol. 2005;235:553)。しかし、馬においては、MRI検査は高価かつ大病院へと輸送を要し、しかも、全身麻酔(General anesthesia)を必要とするため、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)の際に不完全骨折(Incomplete fracture)が完全骨折(Complete fracture)へと悪化する危険があります。このため、核シンティグラフィーの異常所見によって基節骨の疲労骨折が疑われる症例に対しては、MRIによる精密検査を行うと言うよりも、十分な休養期間を取ることでその後の正軸性骨折の続発予防に努める、という管理指針が理論的かつ経済的であると考えられました。

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