馬の文献:管骨骨折(Ross et al. 1992)
文献 - 2016年03月24日 (木)
「スタンダードブレッド競走馬の近位第三中手骨における背内側関節性骨折:1978~1990年の七症例」
Ross MW, Martin BB. Dorsomedial articular fracture of the proximal aspect of the third metacarpal bone in standardbred racehorses: seven cases (1978-1990). J Am Vet Med Assoc. 1992; 201(2): 332-335.
この症例論文では、スタンダードブレッド競走馬の近位第三中手骨(Proximal aspect of the third metacarpal bone)における背内側関節性骨折(Dorsomedial articular fracture)の病態把握、およびその予後を評価するため、1978~1990年にかけて近位第三中手骨の背内側関節性骨折を呈した七頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
この研究では、七頭の患馬のうち六頭(=不完全骨折:Incomplete fracture)では、一ヶ月の馬房休養(Stall rest)と二ヶ月の放牧(Turn-out)による保存性療法(Conservative treatment)が選択され、残りの一頭(=完全骨折:Complete fracture)には骨折片の螺子固定術(Lag screw fixation)が実施されました。結果としては、七頭の症例のうち全頭が競走への復帰を果たし(レース復帰率:100%)、疝痛で安楽死(Euthanasia)となった一頭を除けば、83%(5/6頭)の馬が競走能力の向上を示しました。このため、スタンダードブレッド競走馬の近位第三中手骨における背内側関節性骨折では、保存性療法および外科的療法のいずれにおいても、十分な骨折治癒と良好な予後が期待され、競走能力の維持&向上が認められる馬の割合も、比較的に高いことが示唆されました。
この研究では、近位第三中手骨の背内側関節性骨折を呈したのは、すべてハーネスレースに使用されている側対歩馬(Pacer)で(発症時の平均年齢は2.9歳)、急性発現性(Acute onset)の重度跛行(Severe lameness)を示しました。そして、殆どの症例(6/7頭)において近位管骨背側面の圧痛(Pain on palpation)が見られましたが、中間手根関節(Mid-carpal joint)の膨満(Effusion)が認められたのは一頭のみで、手根関節屈曲試験(Carpal flexion test)で跛行悪化が見られた馬は一頭もありませんでした。診断では、六頭のうち四頭は中間手根関節の診断麻酔(Diagnostic anesthesia)によって跛行改善が確認され、七頭の症例の全頭において、側方レントゲン検査によって背内側関節性骨折の確定診断(Definitive diagnosis)が下されました。
この研究では、骨折箇所のレントゲン像において、骨膜増殖変化(Periosteal proliferative changes)の所見が認められたことから、馬の近位第三中手骨における背内側関節性骨折は、管骨骨幹部(Mid-diaphyseal cannon bone)における亀裂骨折(Fissure fracture)と同様に、管骨背側面の骨モデリングから続発する疲労骨折(Fatigue fracture)である、という考察がなされています。一方で、骨折発症部位は、橈側手根伸筋腱(Extensor carpi radialis tendon)の付着箇所であることから、この腱の過剰緊張(Excessive tension)に起因する剥離骨折(Avulsion fracture)が病態の本質である可能性もあると考察されています。このタイプの骨折は、サラブレッド競走馬には殆ど見られず、この研究の症例は全頭がペイサーでしたが、スタンダードブレッドという品種、ハーネスレースという用途、および側対歩という歩様自体が、骨折発症の主要因であるか否かは、この研究の結果のみから結論付けるのは難しいと考えられました。
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この症例論文では、スタンダードブレッド競走馬の近位第三中手骨(Proximal aspect of the third metacarpal bone)における背内側関節性骨折(Dorsomedial articular fracture)の病態把握、およびその予後を評価するため、1978~1990年にかけて近位第三中手骨の背内側関節性骨折を呈した七頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
この研究では、七頭の患馬のうち六頭(=不完全骨折:Incomplete fracture)では、一ヶ月の馬房休養(Stall rest)と二ヶ月の放牧(Turn-out)による保存性療法(Conservative treatment)が選択され、残りの一頭(=完全骨折:Complete fracture)には骨折片の螺子固定術(Lag screw fixation)が実施されました。結果としては、七頭の症例のうち全頭が競走への復帰を果たし(レース復帰率:100%)、疝痛で安楽死(Euthanasia)となった一頭を除けば、83%(5/6頭)の馬が競走能力の向上を示しました。このため、スタンダードブレッド競走馬の近位第三中手骨における背内側関節性骨折では、保存性療法および外科的療法のいずれにおいても、十分な骨折治癒と良好な予後が期待され、競走能力の維持&向上が認められる馬の割合も、比較的に高いことが示唆されました。
この研究では、近位第三中手骨の背内側関節性骨折を呈したのは、すべてハーネスレースに使用されている側対歩馬(Pacer)で(発症時の平均年齢は2.9歳)、急性発現性(Acute onset)の重度跛行(Severe lameness)を示しました。そして、殆どの症例(6/7頭)において近位管骨背側面の圧痛(Pain on palpation)が見られましたが、中間手根関節(Mid-carpal joint)の膨満(Effusion)が認められたのは一頭のみで、手根関節屈曲試験(Carpal flexion test)で跛行悪化が見られた馬は一頭もありませんでした。診断では、六頭のうち四頭は中間手根関節の診断麻酔(Diagnostic anesthesia)によって跛行改善が確認され、七頭の症例の全頭において、側方レントゲン検査によって背内側関節性骨折の確定診断(Definitive diagnosis)が下されました。
この研究では、骨折箇所のレントゲン像において、骨膜増殖変化(Periosteal proliferative changes)の所見が認められたことから、馬の近位第三中手骨における背内側関節性骨折は、管骨骨幹部(Mid-diaphyseal cannon bone)における亀裂骨折(Fissure fracture)と同様に、管骨背側面の骨モデリングから続発する疲労骨折(Fatigue fracture)である、という考察がなされています。一方で、骨折発症部位は、橈側手根伸筋腱(Extensor carpi radialis tendon)の付着箇所であることから、この腱の過剰緊張(Excessive tension)に起因する剥離骨折(Avulsion fracture)が病態の本質である可能性もあると考察されています。このタイプの骨折は、サラブレッド競走馬には殆ど見られず、この研究の症例は全頭がペイサーでしたが、スタンダードブレッドという品種、ハーネスレースという用途、および側対歩という歩様自体が、骨折発症の主要因であるか否かは、この研究の結果のみから結論付けるのは難しいと考えられました。
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