馬の文献:管骨骨折(Bassage et al. 1998)
文献 - 2016年03月25日 (金)

「競走馬の第三中手骨および第三中足骨における顆状突起長軸性骨折:1986~1995年の224症例」
Bassage LH 2nd, Richardson DW. Longitudinal fractures of the condyles of the third metacarpal and metatarsal bones in racehorses: 224 cases (1986-1995). J Am Vet Med Assoc. 1998; 212(11): 1757-1764.
この症例論文では、競走馬の第三中手骨および第三中足骨(Third meta-carpal/tarsal bone)における顆状突起長軸性骨折(Longitudinal condylar fracture)の病態把握、および螺子固定術(Lag screw fixation)による外科的療法の治療効果を評価するため、1986~1995年にかけて第三中手骨および第三中足骨の顆状突起骨折を呈した224頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
この研究では、第三中足骨の外側顆状突起骨折を呈したサラブレッド競走馬における、螺子固定術後の経過を見ると、不完全骨折(Incomplete fracture)であった場合のレース復帰率は93%で、完全骨折(Complete fracture)の場合には76%であったことが示されました。一方、第三中手骨の外側顆状突起骨折では、不完全骨折であった場合のレース復帰率は77%で、完全骨折の場合には33%であったことが示されました。このため、競走馬の管骨顆状突起の長軸性骨折では、完全骨折よりも不完全骨折のほうが、そして前肢(第三中手骨)よりも後肢(第三中足骨)のほうが、有意に予後が良いことが示唆されました。
この研究では、第三中手骨および第三中足骨の外側顆状突起骨折に対して、螺子固定術が応用されたサラブレッド競走馬における、外科治療前後の平均獲得賞金(レース当たり)を見ると、骨折前(3400ドル)に比べて治療後(1900ドル)のほうが有意に減少しており、また、着順が1~3着であった割合も、骨折前(49%)に比べて治療後(34%)のほうが有意に低下していました。このため、螺子固定術後にレース復帰を果たした馬においても、ある程度の競走能力の低下は避けられないことが示唆されました。一方、不完全骨折であった馬における術後の平均獲得賞金のほうが、完全骨折であった馬における術後の平均獲得賞金よりも、有意に多いことも示されました。
この研究では、関節面の破片形成(Articular fragmentation)が認められたのは、第三中手骨の不完全骨折では2%、第三中足骨の不完全骨折では0%であったのに対して、第三中手骨の完全骨折では40%、第三中足骨の完全骨折では19%にのぼっていました。管骨の顆状突起骨折では、関節面の破片形成は術後に変性関節疾患(Degenerative joint disease)を続発しやすく、予後が悪い場合が多いことが知られています。また、この研究では、外側顆状突起の骨折では、内側顆状突起の骨折に比べて、術前レントゲン検査で変性関節疾患が認められる可能性が有意に高いことが示されました。このため、第三中手骨および第三中足骨の顆状突起長軸性骨折を呈した症例では、病態が完全骨折であった場合や、外側顆状突起の骨折であった場合には、慎重なレントゲン検査によって、関節面の破片形成および変性関節疾患の有無を確かめ、的確な予後判定(Prognostication)に努めることが重要であると考察されています。
この研究では、第三中足骨の顆状突起骨折では、その7%において種子骨骨折(Sesamoid bone fracture)の併発が認められたのに対して、第三中手骨の顆状突起骨折では、その12%において種子骨骨折の併発が認められました。そして、種子骨骨折を併発した馬におけるレース復帰率は、種子骨骨折を併発していなかった馬におけるレース復帰率よりも、有意に低いことが示されました。この場合に併発していた種子骨骨折では、軸性骨折(Axial fracture)が最も多く見られる病態で、これは他の文献の知見とも合致していました(Barclay et al. JAVMA. 1985;186:278)。
この研究では、第三中手骨の完全骨折を呈したサラブレッド競走馬では、最も遠位側の螺子から関節面までの平均距離を見ると、レース復帰を果たした馬では14mmであったのに対して、レース復帰できなかった馬では11mmと、有意に少なかったことが報告されています。この理由としては、螺子の挿入位置が関節面に近過ぎた場合には、軟骨下骨拘縮(Subchondral bone stiffening)に起因する疼痛発現から、予後不良に至る可能性があると考察されています。
この研究では、螺子固定術が応用された馬のうち12頭において、螺子固定術における外科手技のミスが認められ、これには、関節面の不均衡(Articular surface incongruity)、螺子の破損(Broken screw)、螺子先端が対側面や球節関節面に突出していた、などが含まれました。そして、このうちレース復帰を果たしたのは17%(2/12頭)に過ぎませんでした。これは、術中レントゲン検査(Intra-operative radiography)や蛍光透視装置(Fluoroscopy)、および球節の関節鏡手術(Fetlock arthroscopy)を併用することによって、螺子挿入の不具合を精査することの重要性が再確認されたデータであると言えます。
この研究では、20頭の患馬において、手術から4~20ヵ月後に螺子が除去(Screw removal)されましたが、これらの螺子除去が行われた馬におけるレース復帰率と、螺子除去されなかった他の馬におけるレース復帰率のあいだには、有意差は認められませんでした。このため、この論文の考察では、骨折線が長く螺子が骨幹部(Mid-diaphyseal region)に設置された場合を除いて、螺子除去の有無は必ずしも予後には影響しないと提唱されています。
この研究では、骨折発症から48時間以内に手術を受けた馬のほうが、骨折発症から48時間以上経って手術を受けた馬に比べて、レース復帰率が有意に低いことが示されました。これは、骨折病態が重篤で、粉砕骨折(Comminuted fracture)や関節面破片化を呈した馬のほうが、速やかに大病院に搬送されて螺子固定術を受ける傾向にあった(=そして予後は悪い傾向にあった)ことを反映しているデータであると考察されており、いたずらに手術のタイミングを遅らせることが、予後の改善につながるわけではないと考えられています。
この研究では、224頭の患馬のうち、サラブレッドが83%を占めており、その他はスタンダードブレッドが14%、アラビアンが3%となっており、このサラブレッド症例の割合は、この病院の来院症例全体に占めるサラブレッドの割合よりも有意に高かったことが示されました。一方、233箇所の骨折のうち、外側顆状突起の骨折が84%であったのに対して、内側顆状突起の骨折が16%のみで、また、前肢の骨折は61%であったのに対して、後肢の骨折は39%であったことが報告されています。このため、第三中手骨および第三中足骨における顆状突起骨折は、サラブレッド競走馬に好発し、後肢よりも前肢、内側よりも外側顆状突起に多く見られることが示唆されました。
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