馬の文献:管骨骨折(Boyde et al. 1999)
文献 - 2016年04月03日 (日)
「馬の第三中手骨の遠位顆状突起における三次元構造」
Boyde A, Haroon Y, Jones SJ, Riggs CM. Three dimensional structure of the distal condyles of the third metacarpal bone of the horse. Equine Vet J. 1999; 31(2): 122-129.
この症例論文では、馬の第三中手骨(Third metacarpal bone)の顆状突起骨折(Condylar fracture)の発症機序を解明するため、第三中手骨の骨折によって安楽死(Euthanasia)となった馬から採取した骨組織において、光学顕微鏡検査(Optical microscopy)、電子顕微鏡検査(Electron microscopy)、およびレントゲン検査を用いての、三次元構造(Three dimensional structure)の解析が行われました。
結果としては、検体管骨の軟骨下骨(Subchondral bone)の近位部では、骨梁(Trabecular bone)が矢状面(Sagittal plane)に沿って走行して、この小柱間には脈管増生(Vascular ingrowth)が認められましたが、内外側方向(Latero-medial direction)に対しては有意な骨梁連結(Trabecular connection)を成していませんでした。このような構造は、遠位顆状突起(Distal condyle)における捻転力(Torsional force)に対しては抵抗(Resistance)を示すものの、関節面から亀裂を生じた際の骨折伝播(Fracture propagation)に対する抵抗はあまり無いと考えられています。このため、この研究で発見された第三中手骨の遠位顆状突起における「異等方性」の構造的特徴(Anisotropic structural features)が、この部位における長軸性骨折(Longitudinal fracture)の発症に関与していることが示唆されました。
この研究で認められたような異等方的構造は、活発な骨モデリングおよび骨再構築(Active bone modeling/remodeling)による骨組織の再器質化(Re-organization)の過程で生み出されると考えられます。このため、今後の研究では、どのような運動強度(Exercise intensity)、運動頻度(Exercise frequency)、および休養期間(Resting period)が、管骨顆状突起の異等方的構造に関与するかを調査することで、骨折予防につながるような調教プログラムの確立に努めることが重要である、という考察がなされています。
一般的に、物体を運かす場合の慣性モーメント(Moment of inertia)は、回転中心(Center of rotation)からの距離の二乗に比例(Proportional to the square of distance)することが知られており、競走馬の襲歩(Gallop)を例に上げれば、運動時に消費される総エネルギーの約50%が、遠位肢(Distal limb)を加速および減速(Acceleration and deceleration)させるために使われていることが報告されています。つまり、体幹から遠い位置にある骨を軽くするほど、走行時に必要なエネルギーを効率良く節約できることになり、馬の遠位肢の骨質量(Bone mass)が10%減少すると、運動時に要するエネルギーは5%減になることが報告されています。このため、この研究で見られたような管骨顆状突起における骨再器質化の所見は、高速での運動を要する競走馬の体が、エネルギー効率を上げるために管骨を軽くしようとした結果である、という考察がなされています。
この研究では、光学顕微鏡および電子顕微鏡で確認された異等方的構造は、顆状突起の厚さ(Condylar thickness)の六分の一の領域に過ぎませんでした。つまり、通常のレントゲン像では、正常な骨組織の領域や、軟骨下骨よりも骨密度(Bone density)の高い皮質骨(Cortical bone)の組織も重複(Super-impose)して投影されてしまうため、わずかな骨再器質化の所見を発見するのは困難であることが示されました。このため、臨床症例においては、管骨の顆状突起骨折を起こす危険性のある馬を、定期的レントゲン検査でモニタリングするのは難しいと推測されています。
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Boyde A, Haroon Y, Jones SJ, Riggs CM. Three dimensional structure of the distal condyles of the third metacarpal bone of the horse. Equine Vet J. 1999; 31(2): 122-129.
この症例論文では、馬の第三中手骨(Third metacarpal bone)の顆状突起骨折(Condylar fracture)の発症機序を解明するため、第三中手骨の骨折によって安楽死(Euthanasia)となった馬から採取した骨組織において、光学顕微鏡検査(Optical microscopy)、電子顕微鏡検査(Electron microscopy)、およびレントゲン検査を用いての、三次元構造(Three dimensional structure)の解析が行われました。
結果としては、検体管骨の軟骨下骨(Subchondral bone)の近位部では、骨梁(Trabecular bone)が矢状面(Sagittal plane)に沿って走行して、この小柱間には脈管増生(Vascular ingrowth)が認められましたが、内外側方向(Latero-medial direction)に対しては有意な骨梁連結(Trabecular connection)を成していませんでした。このような構造は、遠位顆状突起(Distal condyle)における捻転力(Torsional force)に対しては抵抗(Resistance)を示すものの、関節面から亀裂を生じた際の骨折伝播(Fracture propagation)に対する抵抗はあまり無いと考えられています。このため、この研究で発見された第三中手骨の遠位顆状突起における「異等方性」の構造的特徴(Anisotropic structural features)が、この部位における長軸性骨折(Longitudinal fracture)の発症に関与していることが示唆されました。
この研究で認められたような異等方的構造は、活発な骨モデリングおよび骨再構築(Active bone modeling/remodeling)による骨組織の再器質化(Re-organization)の過程で生み出されると考えられます。このため、今後の研究では、どのような運動強度(Exercise intensity)、運動頻度(Exercise frequency)、および休養期間(Resting period)が、管骨顆状突起の異等方的構造に関与するかを調査することで、骨折予防につながるような調教プログラムの確立に努めることが重要である、という考察がなされています。
一般的に、物体を運かす場合の慣性モーメント(Moment of inertia)は、回転中心(Center of rotation)からの距離の二乗に比例(Proportional to the square of distance)することが知られており、競走馬の襲歩(Gallop)を例に上げれば、運動時に消費される総エネルギーの約50%が、遠位肢(Distal limb)を加速および減速(Acceleration and deceleration)させるために使われていることが報告されています。つまり、体幹から遠い位置にある骨を軽くするほど、走行時に必要なエネルギーを効率良く節約できることになり、馬の遠位肢の骨質量(Bone mass)が10%減少すると、運動時に要するエネルギーは5%減になることが報告されています。このため、この研究で見られたような管骨顆状突起における骨再器質化の所見は、高速での運動を要する競走馬の体が、エネルギー効率を上げるために管骨を軽くしようとした結果である、という考察がなされています。
この研究では、光学顕微鏡および電子顕微鏡で確認された異等方的構造は、顆状突起の厚さ(Condylar thickness)の六分の一の領域に過ぎませんでした。つまり、通常のレントゲン像では、正常な骨組織の領域や、軟骨下骨よりも骨密度(Bone density)の高い皮質骨(Cortical bone)の組織も重複(Super-impose)して投影されてしまうため、わずかな骨再器質化の所見を発見するのは困難であることが示されました。このため、臨床症例においては、管骨の顆状突起骨折を起こす危険性のある馬を、定期的レントゲン検査でモニタリングするのは難しいと推測されています。
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