馬の文献:管骨骨折(Dallap et al. 1999)
文献 - 2016年04月04日 (月)
「56頭のサラブレッド競走馬における第三中手骨の背側皮質骨疲労骨折に対する螺子固定術と皮質骨ドリル穿孔の治療効果」
Dallap BL, Bramlage LR, Embertson RM. Results of screw fixation combined with cortical drilling for treatment of dorsal cortical stress fractures of the third metacarpal bone in 56 Thoroughbred racehorses. Equine Vet J. 1999; 31(3): 252-257.
この症例論文では、サラブレッド競走馬の第三中手骨(Third metacarpal bone)の背側皮質骨疲労骨折(Dorsal cortical stress fracture)に対する、螺子固定術(Screw fixation)と皮質骨ドリル穿孔(Cortical drilling)を介しての外科的療法の治療効果を評価するため、1989~1993年にかけて第三中手骨の背側皮質骨疲労骨折を呈した56頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、管骨背側疲労骨折に対する螺子固定術が応用された56頭の患馬のうち、術後のレントゲン検査で骨折治癒が確認されたのは95%(53/56頭)で、このうち、左前肢の単一骨折を呈した馬を見ると、運動復帰までに要した期間は2.8ヶ月(中央値)、レース復帰までに要した期間は7.6ヶ月であったことが報告されています。また、骨折前の獲得賞金(一レース当たり)は$2250/raceであったのに対して、治療後の獲得賞金は$1829/raceで、骨折前と治療後における競走成績には有意差は認められませんでした。このため、馬の第三中手骨における背側皮質骨疲労骨折では、螺子固定術と皮質骨ドリル穿孔による外科的療法によって、十分な骨折治癒効果と極めて良好な予後が期待され、競走能力の低下を招くことなく、早期にレース復帰を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。
この研究では、56頭の患馬のうち、左前肢の骨折が91%(51/56頭)を占め、また、61箇所の骨折のうち、骨折発生部位は背外側皮質骨面(Dorso-lateral cortex)が90%(55/61骨折)を占めていました。このうち、右前肢の骨折では、レース復帰までの休養期間が9.0ヶ月に及び、左前肢の骨折(一箇所の骨折)におけるレース復帰までの休養期間(7.6ヶ月)よりも顕著に長い傾向が認められました。
この研究では、すべての患馬において、術後の1~4ヶ月目に、起立位手術(Standing surgery)での螺子除去(Screw removal)が行われました。また、経過追跡ができた52頭の患馬のうち、4%(2/52頭)において骨折再発(Fracture recurrence)が見られ、この二頭はいずれも一回目の骨折と同じ肢の類似の箇所に、二回目の骨折を生じていました。この二頭の二回目の骨折に対しては、同じ螺子固定術と皮質骨ドリル穿孔による外科的療法が応用され、いずれもレース復帰を果たしたことが報告されています。
一般的に、馬の管骨背側疲労骨折に対しては、骨穿刺術(Osteostixis)のみによる治療法も試みられています。骨穿刺術のみが応用された文献を見ると、術後に管骨骨折(ドリル穿刺部位におけるストレス集中が原因)の合併症(Complication)を呈した馬が6%、疲労骨折を再発した馬は4%であったことが報告されています(Cervantes et al. JAVMA. 1992;200:1997)。また、骨穿刺術のみが行われた他の文献では、術後合併症を示したのは11%、疲労骨折を再発したのは14%であったことが報告されています(Hanie et al. EVJ. 1992;11:24)。
この研究では、管骨背側疲労骨折が一箇所のみであった馬では、運動復帰までの休養期間は3.0ヶ月、レース復帰までの休養期間は7.6ヶ月であったのに対して、管骨背側疲労骨折が複数個所に生じた馬では、運動復帰までの休養期間は3.8ヶ月、レース復帰までの休養期間は8.5ヶ月と顕著に長かったことが報告されています。しかし、骨折箇所の数の違いは、治療後の競走成績(一レース当たりの獲得賞金)に有意には影響していませんでした。このため、例え複数個所の管骨背側疲労骨折を起こした症例においても、螺子固定術による外科的療法によって、良好な予後が期待できることが示唆されました。
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この症例論文では、サラブレッド競走馬の第三中手骨(Third metacarpal bone)の背側皮質骨疲労骨折(Dorsal cortical stress fracture)に対する、螺子固定術(Screw fixation)と皮質骨ドリル穿孔(Cortical drilling)を介しての外科的療法の治療効果を評価するため、1989~1993年にかけて第三中手骨の背側皮質骨疲労骨折を呈した56頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、管骨背側疲労骨折に対する螺子固定術が応用された56頭の患馬のうち、術後のレントゲン検査で骨折治癒が確認されたのは95%(53/56頭)で、このうち、左前肢の単一骨折を呈した馬を見ると、運動復帰までに要した期間は2.8ヶ月(中央値)、レース復帰までに要した期間は7.6ヶ月であったことが報告されています。また、骨折前の獲得賞金(一レース当たり)は$2250/raceであったのに対して、治療後の獲得賞金は$1829/raceで、骨折前と治療後における競走成績には有意差は認められませんでした。このため、馬の第三中手骨における背側皮質骨疲労骨折では、螺子固定術と皮質骨ドリル穿孔による外科的療法によって、十分な骨折治癒効果と極めて良好な予後が期待され、競走能力の低下を招くことなく、早期にレース復帰を果たす馬の割合が高いことが示唆されました。
この研究では、56頭の患馬のうち、左前肢の骨折が91%(51/56頭)を占め、また、61箇所の骨折のうち、骨折発生部位は背外側皮質骨面(Dorso-lateral cortex)が90%(55/61骨折)を占めていました。このうち、右前肢の骨折では、レース復帰までの休養期間が9.0ヶ月に及び、左前肢の骨折(一箇所の骨折)におけるレース復帰までの休養期間(7.6ヶ月)よりも顕著に長い傾向が認められました。
この研究では、すべての患馬において、術後の1~4ヶ月目に、起立位手術(Standing surgery)での螺子除去(Screw removal)が行われました。また、経過追跡ができた52頭の患馬のうち、4%(2/52頭)において骨折再発(Fracture recurrence)が見られ、この二頭はいずれも一回目の骨折と同じ肢の類似の箇所に、二回目の骨折を生じていました。この二頭の二回目の骨折に対しては、同じ螺子固定術と皮質骨ドリル穿孔による外科的療法が応用され、いずれもレース復帰を果たしたことが報告されています。
一般的に、馬の管骨背側疲労骨折に対しては、骨穿刺術(Osteostixis)のみによる治療法も試みられています。骨穿刺術のみが応用された文献を見ると、術後に管骨骨折(ドリル穿刺部位におけるストレス集中が原因)の合併症(Complication)を呈した馬が6%、疲労骨折を再発した馬は4%であったことが報告されています(Cervantes et al. JAVMA. 1992;200:1997)。また、骨穿刺術のみが行われた他の文献では、術後合併症を示したのは11%、疲労骨折を再発したのは14%であったことが報告されています(Hanie et al. EVJ. 1992;11:24)。
この研究では、管骨背側疲労骨折が一箇所のみであった馬では、運動復帰までの休養期間は3.0ヶ月、レース復帰までの休養期間は7.6ヶ月であったのに対して、管骨背側疲労骨折が複数個所に生じた馬では、運動復帰までの休養期間は3.8ヶ月、レース復帰までの休養期間は8.5ヶ月と顕著に長かったことが報告されています。しかし、骨折箇所の数の違いは、治療後の競走成績(一レース当たりの獲得賞金)に有意には影響していませんでした。このため、例え複数個所の管骨背側疲労骨折を起こした症例においても、螺子固定術による外科的療法によって、良好な予後が期待できることが示唆されました。
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