馬の文献:管骨骨折(Zekas et al. 1999b)
文献 - 2016年04月06日 (水)

「135頭の馬の第三中手骨または第三中足骨の顆状突起骨折における治療効果」
Zekas LJ, Bramlage LR, Embertson RM, Hance SR. Results of treatment of 145 fractures of the third metacarpal/metatarsal condyles in 135 horses (1986-1994). Equine Vet J. 1999; 31(4): 309-313.
この研究論文では、サラブレッド競走馬の第三中手骨または第三中足骨(Third meta-carpal/tarsal bone)の顆状突起骨折(Condylar fracture)における予後を評価するため、1986~1994年にかけて管骨顆状突起骨折を呈した135頭の患馬(145箇所の骨折)の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。この研究では、86%(124/145骨折)に対して螺子固定術(Lag screw fixation)による外科的療法(Surgical treatment)、残りの14%に対しては馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)が選択されました。
結果としては、単一骨折の症例を見ると、手術後にレース復帰を果たした馬は65%(91/141骨折)、外科的療法および保存性療法が選択された馬におけるレース復帰率は、それぞれ63%および75%で、また、レース復帰までの平均休養期間は9.7ヶ月であったことが示されました。さらに、不完全非変位性骨折(Incomplete non-displaced fracture)に対して保存性療法が応用された場合でも、レース復帰率は87%にのぼったことが報告されています。このため、競走馬における管骨の顆状突起骨折では、適切な治療方針を選択することで、中程度~良好な予後が期待され、早期にレース復帰する馬の割合も、比較的に高いことが示唆されました。一方で、不完全骨折(Incomplete fracture)のレース復帰率は74%であったのに対して、完全骨折(Complete fracture)のレース復帰率は58%(非変位性骨折)または60%(変位性骨折)というように、やや低い傾向にありました。
この研究では、骨折前に比べて治療後の競走レベルが上がった馬は34%、競走レベルを維持した33%で、約半分の二の症例において、骨折の治療後も競走能力の維持または向上が見られたことが示されました。一方、骨折前に比べて治療後の獲得賞金(一レース当たり)が上がった馬は34%にとどまりましたが、これは、加齢に伴って賞金の低いレースに出走したり、勝率が下がることにも起因すると考えられ、骨折治療による競走能力の低下を、直接的に示唆すると結論付けるのは難しい、という考察がなされています。
この研究では、牡馬(Stallions)における骨折治療後のレース復帰率は72%であったのに対して、牝馬(Mares)における骨折治療後のレース復帰率は53%にとどまりました。また、前肢の骨折におけるレース復帰率は62%であったのに対して、後肢の骨折におけるレース復帰率は74%にのぼったことが報告されています。さらに、治療後に競走レベルが維持または向上した馬の割合は、前肢の骨折では62%であったのに対して、後肢の骨折では76%にのぼりました。このため、競走馬における管骨の顆状突起骨折では、牝馬よりも牡馬、前肢よりも後肢のほうが、予後は良い傾向にあることが示唆されました。
この研究では、外側顆状突起の骨折(Lateral condylar fracture)におけるレース復帰率は63%であったのに対して、内側顆状突起の骨折(Medial condylar fracture)におけるレース復帰率は75%にのぼりました。また、レース復帰までの平均休養期間は、外側顆状突起の骨折では九ヶ月であったのに対して、内側顆状突起の骨折では十一ヶ月にのぼりました。このため、競走馬における管骨の顆状突起骨折では、外側骨折よりも内側骨折のほうが、予後は良いものの、要する休養期間はやや長い傾向にあることが示唆されました。
この研究では、球節関節面の破片化(Fetlock articular fragmentation)を併発していた馬におけるレース復帰率は52%で、破片化していなかった馬(=完全骨折の症例)におけるレース復帰率である68%よりも、やや低い傾向にありました。また、球節関節面の破片化を併発していた場合では、治療後に競走レベルが維持または向上した馬の割合は33%に過ぎませんでした。このため、競走馬の管骨顆状突起骨折において、関節面の破片化が併発していた症例では、予後が悪化することが示唆されました。
この研究では、手術から二~四ヶ月後に経過追跡のレントゲン検査(Follow-up radiography)が行われ、この際の骨折治癒の質(Quality of fracture healing)を、“非常に良好”(Excellent)、“良好”(Good)、“中程度”(Fair)、“不良”(Poor)の四段階で評価しています。そして、それぞれの骨折治癒状態におけるその後のレース復帰率を見ると、“非常に良好”では76%、“良好” では59%、“中程度”では58%、“不良”では0%となっていました。このため、競走馬における管骨の顆状突起骨折では、初診時の病態の重篤度に合わせて、術後の数ヶ月目のレントゲン所見を評価することで、より信頼性の高い予後判定(Prognostication)が実施できることが示唆されました。
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