馬の文献:管骨骨折(Galuppo et al. 2002)
文献 - 2016年04月10日 (日)
「馬の第三中手骨の顆状突起骨折片圧迫および押し出し強度における無頭漸減不定ピッチ螺子とAO皮質骨螺子の生体力学的比較」
Galuppo LD, Stover SM, Jensen DG. A biomechanical comparison of equine third metacarpal condylar bone fragment compression and screw pushout strength between headless tapered variable pitch and AO cortical bone screws. Vet Surg. 2002; 31(3): 201-210.
この研究論文では、馬の第三中手骨(Third metacarpal bone)の外側顆状突起骨折(Lateral condylar fracture)に対する有用な外科的療法の術式を検討するため、12本の屍体前肢(Cadaver forelimbs)から採取した第三中手骨に縦軸骨切術(Longitudinal osteotomy)を施し、それを直径6.5mmの無頭漸減不定ピッチ螺子(ACUTRAK PLUS® Headless tapered variable pitch screw:AP螺子)、または、直径4.5mmのAO規格の皮質骨螺子(AO cortical bone screw:AO螺子)を用いての螺子固定術(Lag screw fixation)によって整復し、この二種類の整復法における骨折片間圧迫(Interfragmentary compression)の測定、および、押し出し試験(Push-out test)を介しての物理的強度の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。
結果としては、降伏荷重(Yield load)や降伏変位度(Yield displacement)では、AP螺子よりもAO螺子のほうが有意に優れていましたが、破損変位度(Failure displacement)や破損エネルギー(Failure energy)では、AO螺子よりもAP螺子のほうが有意に優れていました。また、AO螺子では螺子境界部の骨組織が破損することでインプラント損失に至っていましたが、AP螺子では螺子そのものが破損することでインプラント損失に至っていました。つまり、螺子インプラント損失が試験法に基づく人為的結果(Artifact)であるか否かを特定できない以上、AP螺子のほうがAO螺子よりも、有意に優れた押し出し強度を持つ可能性があると言えます。このため、馬の管骨の外側顆状突起骨折においては、無頭のAP螺子による内固定法(Internal fixation)を用いることで、側副靭帯損傷(Collateral ligament damage)の危険を抑えながら、通常のAO螺子と同程度の物理的強度(Physical strength)を維持できることが示唆されました。
しかし、抄録(Abstract)の中にある、“AP螺子のほうが総合的に高い押し出し強度を有する傾向にあった”(AP screws tended to have higher overall pushout strength)という記述は、少し誇張されていて、誤解を招きやすい文であると言えるかもしれません。一般的に、インプラントに降伏点(Failure point)を越える負荷が掛かると、塑性変形(Plastic deformation)による不可逆性の損傷(Irreversible damage)が生じるので、耐えられる降伏荷重がAO螺子よりも低いAP螺子では、馬が長期間にわたって歩行する際の周期性負荷(Cyclic loading)の状況下(この研究中の試験では単一負荷試験のみ)では、内固定の強度低下による骨折治癒遅延(Delayed-union)が起こる可能性も考えられます。
一般的に、馬の管骨顆状突起骨折に対して螺子固定術が応用される場合には、顆状突起上窩(Epicondylar fossa)での螺子挿入時には(=最も遠位側の螺子)、カウンターシンキングができません(顆状突起上窩には側副靭帯が付着しているため)。このため、AO螺子の螺子頭(Screw head)が折れて、骨折片間圧迫が失われてしまう危険を避けるため、無頭のAP螺子を用いる内固定法が検討されています。一方で、直径6.5mmのAP螺子によって作用させられる圧迫力は、直径4.5mmのAO螺子の三分の二以下(65%)に過ぎず、また、圧迫される骨折片の表面積は、AO螺子では54%、AP螺子では42%であったことが報告されています。このため、螺子頭が折れなかった場合には、AP螺子よりもAO螺子のほうが、より高い骨折片間圧迫を、より広い範囲に作用させられると考えられました。
この研究では、AP螺子のタッピングに要する最大捻転力(Maximum torque)は、AO螺子に比べて、四倍近くも高かったことが示されました(=AP螺子は骨折面の前後両側にタップを刻んでいるため)。しかし、この捻転力と骨折片間圧迫のあいだに有意な相関(Significant regression)は認められず、タッピングの際に起こる圧迫力は、必ずしも螺子設置後の圧迫力には比例していないことが示唆されました。
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この研究論文では、馬の第三中手骨(Third metacarpal bone)の外側顆状突起骨折(Lateral condylar fracture)に対する有用な外科的療法の術式を検討するため、12本の屍体前肢(Cadaver forelimbs)から採取した第三中手骨に縦軸骨切術(Longitudinal osteotomy)を施し、それを直径6.5mmの無頭漸減不定ピッチ螺子(ACUTRAK PLUS® Headless tapered variable pitch screw:AP螺子)、または、直径4.5mmのAO規格の皮質骨螺子(AO cortical bone screw:AO螺子)を用いての螺子固定術(Lag screw fixation)によって整復し、この二種類の整復法における骨折片間圧迫(Interfragmentary compression)の測定、および、押し出し試験(Push-out test)を介しての物理的強度の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。
結果としては、降伏荷重(Yield load)や降伏変位度(Yield displacement)では、AP螺子よりもAO螺子のほうが有意に優れていましたが、破損変位度(Failure displacement)や破損エネルギー(Failure energy)では、AO螺子よりもAP螺子のほうが有意に優れていました。また、AO螺子では螺子境界部の骨組織が破損することでインプラント損失に至っていましたが、AP螺子では螺子そのものが破損することでインプラント損失に至っていました。つまり、螺子インプラント損失が試験法に基づく人為的結果(Artifact)であるか否かを特定できない以上、AP螺子のほうがAO螺子よりも、有意に優れた押し出し強度を持つ可能性があると言えます。このため、馬の管骨の外側顆状突起骨折においては、無頭のAP螺子による内固定法(Internal fixation)を用いることで、側副靭帯損傷(Collateral ligament damage)の危険を抑えながら、通常のAO螺子と同程度の物理的強度(Physical strength)を維持できることが示唆されました。
しかし、抄録(Abstract)の中にある、“AP螺子のほうが総合的に高い押し出し強度を有する傾向にあった”(AP screws tended to have higher overall pushout strength)という記述は、少し誇張されていて、誤解を招きやすい文であると言えるかもしれません。一般的に、インプラントに降伏点(Failure point)を越える負荷が掛かると、塑性変形(Plastic deformation)による不可逆性の損傷(Irreversible damage)が生じるので、耐えられる降伏荷重がAO螺子よりも低いAP螺子では、馬が長期間にわたって歩行する際の周期性負荷(Cyclic loading)の状況下(この研究中の試験では単一負荷試験のみ)では、内固定の強度低下による骨折治癒遅延(Delayed-union)が起こる可能性も考えられます。
一般的に、馬の管骨顆状突起骨折に対して螺子固定術が応用される場合には、顆状突起上窩(Epicondylar fossa)での螺子挿入時には(=最も遠位側の螺子)、カウンターシンキングができません(顆状突起上窩には側副靭帯が付着しているため)。このため、AO螺子の螺子頭(Screw head)が折れて、骨折片間圧迫が失われてしまう危険を避けるため、無頭のAP螺子を用いる内固定法が検討されています。一方で、直径6.5mmのAP螺子によって作用させられる圧迫力は、直径4.5mmのAO螺子の三分の二以下(65%)に過ぎず、また、圧迫される骨折片の表面積は、AO螺子では54%、AP螺子では42%であったことが報告されています。このため、螺子頭が折れなかった場合には、AP螺子よりもAO螺子のほうが、より高い骨折片間圧迫を、より広い範囲に作用させられると考えられました。
この研究では、AP螺子のタッピングに要する最大捻転力(Maximum torque)は、AO螺子に比べて、四倍近くも高かったことが示されました(=AP螺子は骨折面の前後両側にタップを刻んでいるため)。しかし、この捻転力と骨折片間圧迫のあいだに有意な相関(Significant regression)は認められず、タッピングの際に起こる圧迫力は、必ずしも螺子設置後の圧迫力には比例していないことが示唆されました。
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