馬の文献:管骨骨折(Galuppo et al. 2006)
文献 - 2016年04月12日 (火)
「サラブレッド競走馬の管骨外側顆状突起の非変位性骨折に対するチタン無頭漸減不定ピッチ螺子の臨床応用」
Galuppo LD, Simpson EL, Greenman SL, Dowd JP, Ferraro GL, Meagher DM. A clinical evaluation of a headless, titanium, variable-pitched, tapered, compression screw for repair of nondisplaced lateral condylar fractures in thoroughbred racehorses. Vet Surg. 2006; 35(5): 423-430.
この症例論文では、馬の第三中手骨および第三中足骨(Third meta-carpal/tarsal bone)の外側顆状突起骨折(Lateral condylar fracture)に対する有効な外科的療法を評価するため、1999~2004年にかけて、16頭のサラブレッド競走馬の管骨外側顆状突起の非変位性骨折(Non-displaced fracture)に対して、チタン無頭漸減不定ピッチ螺子(Headless, titanium, variable-pitched, tapered, compression screw, Acutrak Equine screw:AE螺子)による内固定法(Internal fixation)が応用されました。
結果としては、16頭の患馬のうち、運動復帰を果たした馬は94%(15/16頭)、レース復帰を果たした馬は69%(11/16頭)で、術後合併症(Post-operative complication)を呈した馬は一頭もありませんでした。また、一レース当たりの獲得賞金(Earning per race)を見ると、骨折前の平均獲得賞金($4971/race)よりも、治療後の平均獲得賞金($5290/race)のほうが増加していました。このため、馬の管骨外側顆状突起骨折に対しては、AE螺子を用いての外科的療法によって、十分な骨折治癒が達成され、良好な予後と、競走能力の維持&向上を示す馬が多いことが示唆されました。また、AE螺子の外科的除去(Surgical screw removal)を要した患馬は、一頭もありませんでした。
一般的に、AE螺子による内固定法の利点としては、(1)無頭のため側副靭帯損傷(Collateral ligament damage)を生じにくいこと、(2)螺子頭が折れて骨折片間圧迫(Inter-fragmentary compression)が損失する危険が無いこと、(3)骨と螺子の境界(Bone-screw-interface)がより密着しているため螺子が破損する可能性が低いこと、などが挙げられています。そして、生体外実験(In vitro experiment)による他の文献では、AE螺子による管骨顆状突起骨折モデルの内固定によって、通常のAO規格の皮質骨螺子(Cortical lag screw)と同程度の整復強度が達成されることが報告されており(Galuppo et al. Vet Surg. 2001;30:332)、今回の研究では、実際の臨床症例に対する良好な治療成績が示されたことになります。一方で、AE螺子の潜在的欠点(Potential disadvantage)としては、(1)作用させられる骨折片間圧迫はAO螺子よりも少ないこと、(2)AO螺子よりも螺子除去の難易度が高いこと(もし螺子の除去を要する場合には)、(3)管骨などの硬い骨にAE螺子を挿入するには手技的な熟練を要すること、などが挙げられています。
この研究では、遠位側の螺子挿入時における手技的問題は生じませんでしたが、この箇所へのAE螺子挿入では、螺子が適切な深さ(=螺子端が皮質骨面から1-2mmの深さ)に達する前に、最大限の骨折片間圧迫が生じてしまい、それ以上の深さまで螺子が挿入できなくなってしまう危険があるため、ドリル穿孔の際には、推奨されている深さ(=螺子全長プラス5mm)よりも3-5mmだけ余分な深さまでドリル孔を到達させることで、このような手技上のミスを予防できることが示唆されています。また、タッピングを二回行って、骨組織内に正確なスレッドを刻むことで、より堅固な骨折片間圧迫を作用させる術式が推奨されています。一方で、より近位側の螺子挿入時には、骨折片の厚みが少ないため、螺子端が骨折線よりも深い位置に達してしまう危険を避けるため、推奨されている深さまでのドリル穿孔にとどめるべきである、という考察がなされています。
馬の管骨外側顆状突起骨折に関する他の文献では、術前に球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を併発していた場合にはレース復帰する可能性が低いという報告や(Rick et al. JAVMA. 1983;183:287)、変性関節疾患の有無はその予後に有意には影響しないという報告があります(Bassage et al. JAVMA. 1998;212:1757)。今回の研究では、二頭の患馬が、術前に球節の変性関節疾患を併発しており、この二頭はいずれもレース復帰を果たしていませんでした。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:第三中手骨骨折


Galuppo LD, Simpson EL, Greenman SL, Dowd JP, Ferraro GL, Meagher DM. A clinical evaluation of a headless, titanium, variable-pitched, tapered, compression screw for repair of nondisplaced lateral condylar fractures in thoroughbred racehorses. Vet Surg. 2006; 35(5): 423-430.
この症例論文では、馬の第三中手骨および第三中足骨(Third meta-carpal/tarsal bone)の外側顆状突起骨折(Lateral condylar fracture)に対する有効な外科的療法を評価するため、1999~2004年にかけて、16頭のサラブレッド競走馬の管骨外側顆状突起の非変位性骨折(Non-displaced fracture)に対して、チタン無頭漸減不定ピッチ螺子(Headless, titanium, variable-pitched, tapered, compression screw, Acutrak Equine screw:AE螺子)による内固定法(Internal fixation)が応用されました。
結果としては、16頭の患馬のうち、運動復帰を果たした馬は94%(15/16頭)、レース復帰を果たした馬は69%(11/16頭)で、術後合併症(Post-operative complication)を呈した馬は一頭もありませんでした。また、一レース当たりの獲得賞金(Earning per race)を見ると、骨折前の平均獲得賞金($4971/race)よりも、治療後の平均獲得賞金($5290/race)のほうが増加していました。このため、馬の管骨外側顆状突起骨折に対しては、AE螺子を用いての外科的療法によって、十分な骨折治癒が達成され、良好な予後と、競走能力の維持&向上を示す馬が多いことが示唆されました。また、AE螺子の外科的除去(Surgical screw removal)を要した患馬は、一頭もありませんでした。
一般的に、AE螺子による内固定法の利点としては、(1)無頭のため側副靭帯損傷(Collateral ligament damage)を生じにくいこと、(2)螺子頭が折れて骨折片間圧迫(Inter-fragmentary compression)が損失する危険が無いこと、(3)骨と螺子の境界(Bone-screw-interface)がより密着しているため螺子が破損する可能性が低いこと、などが挙げられています。そして、生体外実験(In vitro experiment)による他の文献では、AE螺子による管骨顆状突起骨折モデルの内固定によって、通常のAO規格の皮質骨螺子(Cortical lag screw)と同程度の整復強度が達成されることが報告されており(Galuppo et al. Vet Surg. 2001;30:332)、今回の研究では、実際の臨床症例に対する良好な治療成績が示されたことになります。一方で、AE螺子の潜在的欠点(Potential disadvantage)としては、(1)作用させられる骨折片間圧迫はAO螺子よりも少ないこと、(2)AO螺子よりも螺子除去の難易度が高いこと(もし螺子の除去を要する場合には)、(3)管骨などの硬い骨にAE螺子を挿入するには手技的な熟練を要すること、などが挙げられています。
この研究では、遠位側の螺子挿入時における手技的問題は生じませんでしたが、この箇所へのAE螺子挿入では、螺子が適切な深さ(=螺子端が皮質骨面から1-2mmの深さ)に達する前に、最大限の骨折片間圧迫が生じてしまい、それ以上の深さまで螺子が挿入できなくなってしまう危険があるため、ドリル穿孔の際には、推奨されている深さ(=螺子全長プラス5mm)よりも3-5mmだけ余分な深さまでドリル孔を到達させることで、このような手技上のミスを予防できることが示唆されています。また、タッピングを二回行って、骨組織内に正確なスレッドを刻むことで、より堅固な骨折片間圧迫を作用させる術式が推奨されています。一方で、より近位側の螺子挿入時には、骨折片の厚みが少ないため、螺子端が骨折線よりも深い位置に達してしまう危険を避けるため、推奨されている深さまでのドリル穿孔にとどめるべきである、という考察がなされています。
馬の管骨外側顆状突起骨折に関する他の文献では、術前に球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を併発していた場合にはレース復帰する可能性が低いという報告や(Rick et al. JAVMA. 1983;183:287)、変性関節疾患の有無はその予後に有意には影響しないという報告があります(Bassage et al. JAVMA. 1998;212:1757)。今回の研究では、二頭の患馬が、術前に球節の変性関節疾患を併発しており、この二頭はいずれもレース復帰を果たしていませんでした。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:第三中手骨骨折