馬の文献:管骨骨折(Smith et al. 2009)
文献 - 2016年04月14日 (木)
「馬の第三中手骨および第三中足骨の螺旋状内側顆状突起骨折に対する外側アプローチによる螺子固定術」
Smith LC, Greet TR, Bathe AP. A lateral approach for screw repair in lag fashion of spiral third metacarpal and metatarsal medial condylar fractures in horses. Vet Surg. 2009; 38(6): 681-688.
この研究論文では、馬の第三中手骨および第三中足骨(Third meta-carpal/tarsal bone)の内側顆状突起骨折(Medial condylar fracture)に対する有効な外科的療法を評価するため、1992~2005年にかけて、管骨内側顆状突起骨折を呈した九頭の患馬に対して、外側アプローチ(Lateral approach)による螺子固定術(Lag screw repair)が行われました。
結果としては、経過追跡(Follow-up)ができた八頭のうち、運動復帰を果たしたのは75%(6/8頭)、レース復帰を果たしたのは63%(5/8頭)であったことが報告されています。このため、馬の管骨の内側顆状突起骨折に対しては、外側アプローチを介しての螺子固定術によって、中程度~良好な予後が期待されることが示唆されました。同筆者の類似論文では、骨折線がより長い内側顆状突起骨折に対しても、同様の外側アプローチを介しての螺子固定術によって、良好な骨折整復が達成できることが報告されています(Wright and Smith. EVJ. 2009;38:689)。
この研究では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での手術が行われましたが、同様の外側アプローチによる術式は、起立位手術(Standing surgery)においても応用が可能であると考えられています。一般的に、馬の管骨内側顆状突起の骨折では、骨折線が骨幹部(Mid-diaphyseal region)へと亀裂上に走行して、非変位性の不完全骨折(Incomplete fracture)を呈しますが、この病態では、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)の際に致死性の完全骨折(Catastrophic complete fracture)に移行してしまう危険が高いため、全身麻酔を要しない起立位手術による内固定が試みられています(Russell and Maclean. EVJ. 2006;38:423)。この場合に対側肢側からアプローチ(内側アプローチ)すると、術者は馬の胸前やお腹の下にもぐりこむ姿勢で施術しなくてはなりません。しかし、管骨内側顆状突起の骨折では、骨折線が正軸隆起(Sagittal groove)のすぐ脇に起始するため、骨折部位に近い方の骨折片における皮質骨の厚さ(Cis cortex thickness)が20-mmに達し、堅固な骨折片間圧迫(Inter-fragmentary compression)に十分な数のスレッドを骨折片内に刻むことができるため(Yovich et al. Vet Surg. 1985;14:230)、骨折部位から遠い方の骨折片(Trans cortex)から螺子挿入する術式(外側アプローチ)を選択することで、術者の安全を確保することができると考察されています。
一般的に、馬の管骨内側顆状突起の骨折では、背側骨折線(Dorsal fracture line)は内側にねじれて、掌側&底側骨折線(Palmar/Plantar fracture line)は外側にねじれる傾向にあるため、従来の内側アプローチでは、螺子挿入箇所が繋靭帯(Suspensory ligament)や内側副管骨(Medial splint bone)(=第二中手&中足骨:Second meta-carpal/tarsal bone)のすぐ近くに位置してしまうことになり、ドリル穿孔の際や、設置された螺子頭によって、これらの組織が損傷されてしまう危険があります。一方、この研究で試みられた外側アプローチでは、螺子挿入箇所は管骨の外側~外背側皮質骨面(Lateral to dorso-lateral cortex)になり、ドリル穿孔の進路や螺子頭に接触する箇所には、重要な組織はほとんど無いことになり、この意味でも、外側アプローチを介しての螺子固定術には利点があると考察されています。
一般的に、馬の管骨顆状突起骨折に対する螺子固定術では、穿刺切開創(Stab incision)を介して螺子が挿入されるため、外科的侵襲はそれほど大きくありません。しかし、馬の管骨顆状突起骨折に対しては、骨折箇所から離れた位置に設けた切開創を介して、皮下にプレートを通して螺子挿入を行うという、最小侵襲性プレート固定術(Minimally invasive plate fixation)も試みられています(James and Richardson. EVJ. 2006;38:246)。この手法に比べれば、今回の研究で応用された螺子固定術は、外科的侵襲は同程度でありながら、整復強度はプレート固定には及ばないと考えられました。
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この研究論文では、馬の第三中手骨および第三中足骨(Third meta-carpal/tarsal bone)の内側顆状突起骨折(Medial condylar fracture)に対する有効な外科的療法を評価するため、1992~2005年にかけて、管骨内側顆状突起骨折を呈した九頭の患馬に対して、外側アプローチ(Lateral approach)による螺子固定術(Lag screw repair)が行われました。
結果としては、経過追跡(Follow-up)ができた八頭のうち、運動復帰を果たしたのは75%(6/8頭)、レース復帰を果たしたのは63%(5/8頭)であったことが報告されています。このため、馬の管骨の内側顆状突起骨折に対しては、外側アプローチを介しての螺子固定術によって、中程度~良好な予後が期待されることが示唆されました。同筆者の類似論文では、骨折線がより長い内側顆状突起骨折に対しても、同様の外側アプローチを介しての螺子固定術によって、良好な骨折整復が達成できることが報告されています(Wright and Smith. EVJ. 2009;38:689)。
この研究では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での手術が行われましたが、同様の外側アプローチによる術式は、起立位手術(Standing surgery)においても応用が可能であると考えられています。一般的に、馬の管骨内側顆状突起の骨折では、骨折線が骨幹部(Mid-diaphyseal region)へと亀裂上に走行して、非変位性の不完全骨折(Incomplete fracture)を呈しますが、この病態では、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)の際に致死性の完全骨折(Catastrophic complete fracture)に移行してしまう危険が高いため、全身麻酔を要しない起立位手術による内固定が試みられています(Russell and Maclean. EVJ. 2006;38:423)。この場合に対側肢側からアプローチ(内側アプローチ)すると、術者は馬の胸前やお腹の下にもぐりこむ姿勢で施術しなくてはなりません。しかし、管骨内側顆状突起の骨折では、骨折線が正軸隆起(Sagittal groove)のすぐ脇に起始するため、骨折部位に近い方の骨折片における皮質骨の厚さ(Cis cortex thickness)が20-mmに達し、堅固な骨折片間圧迫(Inter-fragmentary compression)に十分な数のスレッドを骨折片内に刻むことができるため(Yovich et al. Vet Surg. 1985;14:230)、骨折部位から遠い方の骨折片(Trans cortex)から螺子挿入する術式(外側アプローチ)を選択することで、術者の安全を確保することができると考察されています。
一般的に、馬の管骨内側顆状突起の骨折では、背側骨折線(Dorsal fracture line)は内側にねじれて、掌側&底側骨折線(Palmar/Plantar fracture line)は外側にねじれる傾向にあるため、従来の内側アプローチでは、螺子挿入箇所が繋靭帯(Suspensory ligament)や内側副管骨(Medial splint bone)(=第二中手&中足骨:Second meta-carpal/tarsal bone)のすぐ近くに位置してしまうことになり、ドリル穿孔の際や、設置された螺子頭によって、これらの組織が損傷されてしまう危険があります。一方、この研究で試みられた外側アプローチでは、螺子挿入箇所は管骨の外側~外背側皮質骨面(Lateral to dorso-lateral cortex)になり、ドリル穿孔の進路や螺子頭に接触する箇所には、重要な組織はほとんど無いことになり、この意味でも、外側アプローチを介しての螺子固定術には利点があると考察されています。
一般的に、馬の管骨顆状突起骨折に対する螺子固定術では、穿刺切開創(Stab incision)を介して螺子が挿入されるため、外科的侵襲はそれほど大きくありません。しかし、馬の管骨顆状突起骨折に対しては、骨折箇所から離れた位置に設けた切開創を介して、皮下にプレートを通して螺子挿入を行うという、最小侵襲性プレート固定術(Minimally invasive plate fixation)も試みられています(James and Richardson. EVJ. 2006;38:246)。この手法に比べれば、今回の研究で応用された螺子固定術は、外科的侵襲は同程度でありながら、整復強度はプレート固定には及ばないと考えられました。
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