馬の文献:管骨骨折(Tull et al. 2011)
文献 - 2016年04月20日 (水)
「サラブレッド競走馬の遠位管骨の疲労蓄積性損傷における予後競走成績:2000~2009年の55症例」
Tull TM, Bramlage LR. Racing prognosis after cumulative stress-induced injury of the distal portion of the third metacarpal and third metatarsal bones in Thoroughbred racehorses: 55 cases (2000-2009). J Am Vet Med Assoc. 2011; 238(10): 1316-1322.
この症例論文では、馬の遠位第三中手骨&第三中足骨(Distal portion of third meta-carpal/tarsal bone)における、疲労蓄積性損傷(Cumulative stress-induced injury)の診断法および予後を評価するため、2000~2009年にかけて、遠位管骨の疲労蓄積性損傷を呈した55頭のサラブレッド競走馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究の症例選択(Case selection)に際しては、跛行(Lameness)またはプアパフォーマンスの病歴を持ち、低四点神経麻酔(Low 4-point nerve block)によって遠位管骨が疼痛箇所であることが突き止められ、かつ、レントゲン検査(Radiography)および核医学検査(Nuclear scintigraphy)の両方において異常所見が認められたものの、診断時点では跛行を示していない場合が組み入れ基準(Inclusion criteria)とされました。そして、その治療としては、保存性療法(Conservative treatment)が選択され、最低60日間の放牧(Turnout)(=自由選択運動:Free-choice exercise)のあと、レントゲン再検査によるモニタリングを介して、さらに休養期間を延長する指針が取られました。
結果としては、55頭の患馬のうち、競走復帰を果たしたのは95%(52/55頭)で、このうち、診断前と治療後に出走していた45頭の症例を見ると、競走成績の維持または向上が認められたのは62%(28/45頭)にのぼり、診断前と治療後の平均獲得賞金(一レース当たり)には有意差は認められませんでした。このため、サラブレッド競走馬の遠位管骨における疲労蓄積性損傷に対しては、保存性療法によって十分な治癒と良好な予後が期待され、レース復帰および競走能力維持を示す馬の割合が高いことが示唆されました。また、診断から競走復帰までに要した休養期間は、194日間(中央値)であったことが報告されています。
この研究では、両側性跛行(Bilateral lameness)の病歴を示した馬は53%、四肢跛行(Quadrilateral lameness)の病歴を示した馬は47%におよび、初診時には全頭が無跛行であったものの、球節屈曲試験(Fetlock flexion test)で陽性を示した馬は60%にのぼりました。また、同病院で症例選択が行われた2000~2009年では、遠位管骨の疲労蓄積性損傷の診断が下された時点で跛行を示していた症例は、合計で447頭にものぼりました。このため、複数肢に間欠性跛行(Intermittent lameness)を呈したサラブレッド競走馬においては、初診時の跛行の有無に関わらず、診断麻酔(Diagnostic anesthesia)や屈曲試験を含む精密な跛行検査(Extensive lameness examination)によって疼痛部位を特定(Pain localization)して、より信頼性の高い予後判定(Prognostication)に努めることが重要であることが再確認されました。
この研究では、55頭の症例の全頭において、核医学検査における放射医薬性取込の増加(Increased radiopharmaceutical uptake)が認められたものの、レントゲン検査で異常を示したのは69%の症例にとどまり、これには、軟骨下骨再構築像(Subchondral bone remodeling)や傍正軸骨折(Parasagittal fracture)などが含まれました。また、レントゲン像上での異常所見は、球節屈曲時における35°の角度での遠背近掌側斜位撮影像(Flexed 35-degree dorsodistal-palmaroproximal oblique view)(前肢の場合)、または、球節屈曲時における30°の角度での遠底近背側斜位撮影像(Flexed 30-degree plantarodistal-dorsoproximal oblique view)(後肢の場合)によって発見されました。このため、サラブレッド競走馬の遠位管骨における疲労蓄積性損傷は、通常のレントゲン撮影のみでは見過ごす危険があり、核医学検査の併用、および、より掌側または底側の関節面(Palmar/Plantar articular surface)を写す特定の撮影法を要する症例も多いことが示唆されました。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:第三中手骨骨折


Tull TM, Bramlage LR. Racing prognosis after cumulative stress-induced injury of the distal portion of the third metacarpal and third metatarsal bones in Thoroughbred racehorses: 55 cases (2000-2009). J Am Vet Med Assoc. 2011; 238(10): 1316-1322.
この症例論文では、馬の遠位第三中手骨&第三中足骨(Distal portion of third meta-carpal/tarsal bone)における、疲労蓄積性損傷(Cumulative stress-induced injury)の診断法および予後を評価するため、2000~2009年にかけて、遠位管骨の疲労蓄積性損傷を呈した55頭のサラブレッド競走馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究の症例選択(Case selection)に際しては、跛行(Lameness)またはプアパフォーマンスの病歴を持ち、低四点神経麻酔(Low 4-point nerve block)によって遠位管骨が疼痛箇所であることが突き止められ、かつ、レントゲン検査(Radiography)および核医学検査(Nuclear scintigraphy)の両方において異常所見が認められたものの、診断時点では跛行を示していない場合が組み入れ基準(Inclusion criteria)とされました。そして、その治療としては、保存性療法(Conservative treatment)が選択され、最低60日間の放牧(Turnout)(=自由選択運動:Free-choice exercise)のあと、レントゲン再検査によるモニタリングを介して、さらに休養期間を延長する指針が取られました。
結果としては、55頭の患馬のうち、競走復帰を果たしたのは95%(52/55頭)で、このうち、診断前と治療後に出走していた45頭の症例を見ると、競走成績の維持または向上が認められたのは62%(28/45頭)にのぼり、診断前と治療後の平均獲得賞金(一レース当たり)には有意差は認められませんでした。このため、サラブレッド競走馬の遠位管骨における疲労蓄積性損傷に対しては、保存性療法によって十分な治癒と良好な予後が期待され、レース復帰および競走能力維持を示す馬の割合が高いことが示唆されました。また、診断から競走復帰までに要した休養期間は、194日間(中央値)であったことが報告されています。
この研究では、両側性跛行(Bilateral lameness)の病歴を示した馬は53%、四肢跛行(Quadrilateral lameness)の病歴を示した馬は47%におよび、初診時には全頭が無跛行であったものの、球節屈曲試験(Fetlock flexion test)で陽性を示した馬は60%にのぼりました。また、同病院で症例選択が行われた2000~2009年では、遠位管骨の疲労蓄積性損傷の診断が下された時点で跛行を示していた症例は、合計で447頭にものぼりました。このため、複数肢に間欠性跛行(Intermittent lameness)を呈したサラブレッド競走馬においては、初診時の跛行の有無に関わらず、診断麻酔(Diagnostic anesthesia)や屈曲試験を含む精密な跛行検査(Extensive lameness examination)によって疼痛部位を特定(Pain localization)して、より信頼性の高い予後判定(Prognostication)に努めることが重要であることが再確認されました。
この研究では、55頭の症例の全頭において、核医学検査における放射医薬性取込の増加(Increased radiopharmaceutical uptake)が認められたものの、レントゲン検査で異常を示したのは69%の症例にとどまり、これには、軟骨下骨再構築像(Subchondral bone remodeling)や傍正軸骨折(Parasagittal fracture)などが含まれました。また、レントゲン像上での異常所見は、球節屈曲時における35°の角度での遠背近掌側斜位撮影像(Flexed 35-degree dorsodistal-palmaroproximal oblique view)(前肢の場合)、または、球節屈曲時における30°の角度での遠底近背側斜位撮影像(Flexed 30-degree plantarodistal-dorsoproximal oblique view)(後肢の場合)によって発見されました。このため、サラブレッド競走馬の遠位管骨における疲労蓄積性損傷は、通常のレントゲン撮影のみでは見過ごす危険があり、核医学検査の併用、および、より掌側または底側の関節面(Palmar/Plantar articular surface)を写す特定の撮影法を要する症例も多いことが示唆されました。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:第三中手骨骨折