馬の文献:管骨骨折(Trope et al. 2011)
文献 - 2016年04月20日 (水)
「サラブレッド競走馬の球節の核医学検査所見と遠位管骨顆状突起における放射医薬性取込の増加が競走成績に及ぼす影響」
Trope GD, Anderson GA, Whitton RC. Patterns of scintigraphic uptake in the fetlock joint of Thoroughbred racehorses and the effect of increased radiopharmaceutical uptake in the distal metacarpal/tarsal condyle on performance. Equine Vet J. 2011; 43(5): 509-515.
この症例論文では、馬の球節(Fetlock joint)における核医学検査所見(Patterns of scintigraphic uptake)の解明、および、遠位管骨顆状突起(Distal meta-carpal/tarsal condyle)における放射医薬性取込の増加(Increased radiopharmaceutical uptake)が競走成績に及ぼす影響を評価するため、2004~2008年にかけて、跛行診断(Lameness examination)の際に遠位肢の核医学検査が行われた220頭のサラブレッド競走馬における、シンティグラフィー画像および医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、220頭の症例のうち、球節における放射医薬性取込の増加が認められたのは51%(113/220頭)、遠位管骨顆状突起における放射医薬性取込の増加が認められたのは36%(79/220頭)でした。これらの核医学検査での陽性所見が見られた馬では、対照郡(Control group)の馬と比較して、診断後における獲得賞金(一レース当たり)や出走数が有意に低いことが示されました。このため、サラブレッド競走馬の跛行診断においては、核医学検査の異常所見が、その後の競走成績に及ぼす影響を推定するための、有用な指標(Useful indicative parameter)になることが示唆されました。また、核医学検査による異常所見が見られた馬は、核医学検査が陰性であった馬に比べて、レース復帰までの休養期間(Rest period)が有意に長かったことが報告されています。
この研究では、220頭の症例のうち、管骨顆状突起骨折(Third meta-carpal/tarsal condylar fracture)を続発した馬の割合、および、その発症率の対照郡との比較は行われていません。しかし、他の文献を見ると、核医学検査では極めて高感度に骨芽細胞の活動(Osteoblastic activity)を探知できること(Kanishi. OSOMOPORE. 1993;61:1252)、馬の核医学検査は疲労骨折(Stress fracture)の診断に有用であること(Davidson et al. Vet Rad US. 2004;45:407)、そして、馬の管骨顆状突起骨折は疲労蓄積(Fatigue accumulation)によって続発するという可能性が高いこと(Stepnik et al. Vet Surg. 2004;33:2)、などが報告されています。このため、レース時期のサラブレッド競走馬に対して、核医学検査によるスクリーニングを実施して、顆状突起の放射医薬性取込が増加している馬の出走を控えたり、調教プログラムを改善したりすることで、管骨顆状突起骨折の発症を予防できる可能性もあると考えられました。
この研究では、核医学検査における放射医薬性取込の増加は、前肢では外側よりも内側顆状突起に、後肢では内側よりも外側顆状突起に多く見られる傾向にあり、これらは、核医学検査に関する他の文献における前肢管骨の所見(Davidson et al. Clin Tech Eq Pract. 2003;2:296)および後肢管骨の所見(Shepherd et al. Proc AAEP. 1997;43:128)とも合致していました。
この研究における限界点(Limitation)としては、(1)核医学検査が応用されるのは疼痛箇所が限定できない軽度跛行の症例が多いという偏向(Bias)が生じるため、無作為な跛行症例の選択(Randon selection of lameness cases)は達成できなかったこと、(2)シンティグラフィー画像の解析は、主観的手法(Subjective method)によってのみ行われ、コンピューターソフトを使って対象領域(Region of interest)を絞り込むという客観的手法(Objective method)が応用されていないこと、(3)放射医薬性取込の増加が観察された箇所が疼痛原因であるかどうかは、必ずしも診断麻酔(Diagnostic anesthesia)で確定診断(Definitive diagnosis)されていないこと、などが挙げられています。しかし、(3)に関しては、併発疾患(Concurrent disorder)や両側性の管骨損傷(Bilateral cannon bone injuries)を呈した馬では、診断麻酔による確定診断は困難である場合も多いという考察がなされています。
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この症例論文では、馬の球節(Fetlock joint)における核医学検査所見(Patterns of scintigraphic uptake)の解明、および、遠位管骨顆状突起(Distal meta-carpal/tarsal condyle)における放射医薬性取込の増加(Increased radiopharmaceutical uptake)が競走成績に及ぼす影響を評価するため、2004~2008年にかけて、跛行診断(Lameness examination)の際に遠位肢の核医学検査が行われた220頭のサラブレッド競走馬における、シンティグラフィー画像および医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、220頭の症例のうち、球節における放射医薬性取込の増加が認められたのは51%(113/220頭)、遠位管骨顆状突起における放射医薬性取込の増加が認められたのは36%(79/220頭)でした。これらの核医学検査での陽性所見が見られた馬では、対照郡(Control group)の馬と比較して、診断後における獲得賞金(一レース当たり)や出走数が有意に低いことが示されました。このため、サラブレッド競走馬の跛行診断においては、核医学検査の異常所見が、その後の競走成績に及ぼす影響を推定するための、有用な指標(Useful indicative parameter)になることが示唆されました。また、核医学検査による異常所見が見られた馬は、核医学検査が陰性であった馬に比べて、レース復帰までの休養期間(Rest period)が有意に長かったことが報告されています。
この研究では、220頭の症例のうち、管骨顆状突起骨折(Third meta-carpal/tarsal condylar fracture)を続発した馬の割合、および、その発症率の対照郡との比較は行われていません。しかし、他の文献を見ると、核医学検査では極めて高感度に骨芽細胞の活動(Osteoblastic activity)を探知できること(Kanishi. OSOMOPORE. 1993;61:1252)、馬の核医学検査は疲労骨折(Stress fracture)の診断に有用であること(Davidson et al. Vet Rad US. 2004;45:407)、そして、馬の管骨顆状突起骨折は疲労蓄積(Fatigue accumulation)によって続発するという可能性が高いこと(Stepnik et al. Vet Surg. 2004;33:2)、などが報告されています。このため、レース時期のサラブレッド競走馬に対して、核医学検査によるスクリーニングを実施して、顆状突起の放射医薬性取込が増加している馬の出走を控えたり、調教プログラムを改善したりすることで、管骨顆状突起骨折の発症を予防できる可能性もあると考えられました。
この研究では、核医学検査における放射医薬性取込の増加は、前肢では外側よりも内側顆状突起に、後肢では内側よりも外側顆状突起に多く見られる傾向にあり、これらは、核医学検査に関する他の文献における前肢管骨の所見(Davidson et al. Clin Tech Eq Pract. 2003;2:296)および後肢管骨の所見(Shepherd et al. Proc AAEP. 1997;43:128)とも合致していました。
この研究における限界点(Limitation)としては、(1)核医学検査が応用されるのは疼痛箇所が限定できない軽度跛行の症例が多いという偏向(Bias)が生じるため、無作為な跛行症例の選択(Randon selection of lameness cases)は達成できなかったこと、(2)シンティグラフィー画像の解析は、主観的手法(Subjective method)によってのみ行われ、コンピューターソフトを使って対象領域(Region of interest)を絞り込むという客観的手法(Objective method)が応用されていないこと、(3)放射医薬性取込の増加が観察された箇所が疼痛原因であるかどうかは、必ずしも診断麻酔(Diagnostic anesthesia)で確定診断(Definitive diagnosis)されていないこと、などが挙げられています。しかし、(3)に関しては、併発疾患(Concurrent disorder)や両側性の管骨損傷(Bilateral cannon bone injuries)を呈した馬では、診断麻酔による確定診断は困難である場合も多いという考察がなされています。
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