馬の文献:管骨骨折(Powell. 2011)
文献 - 2016年04月21日 (木)
「球節跛行を呈したサラブレッド競走馬における低磁場起立位MRI検査:131頭の回顧的調査」
Powell SE. Low-field standing magnetic resonance imaging findings of the metacarpo/metatarsophalangeal joint of racing Thoroughbreds with lameness localised to the region: A retrospective study of 131 horses. Equine Vet J. 2012; 44(2): 169-177.
この症例論文では、馬の球節跛行(Fetlock lameness)における低磁場起立位MRI検査(Low-field standing magnetic resonance imaging examination)の有用性を評価するため、2006~2010年にかけて跛行検査(Lameness examination)のため来院したサラブレッド競走馬のうち、関節麻酔(Joint block)によって跛行の原因が球節に特定されたものの、レントゲン検査(Radiography)では診断が付かなかったため、起立位MRI検査が行われた131頭の患馬における、MRI画像および医療記録(Medical records)の回顧的調査(Retrospective study)が行われました。
結果としては、131頭の患馬のうち、55%(72/131頭)において掌側&底側顆状突起の骨軟骨病(Palmar/Plantar condylar osteochondral disease)が認められ、軟骨下骨の限局性高強度像(Subchondral bone focal hyperintensity)、および、骨髄浮腫様パターン(Bone marrow edema-type signal pattern)が見られました。これらの所見は、管骨顆状突起の疲労性骨損傷(Fatigue bone injury)を示すものと考えられました。このため、サラブレッド競走馬の跛行診断においては、起立位MRI検査によって、レントゲン検査では探知できないような骨疲労を早期に診断でき、これらの馬の出走を控えることで、管骨顆状突起骨折(Condylar fracture of third meta-carpal/tarsal bone)の発症を予防できることが示唆されました。
この研究では、131頭の患馬のうち、管骨顆状突起の亀裂骨折(Condylar fissure fracture)が認められたのは20%(26/131頭)、基節骨の正軸骨折(Sagittal fracture of proximal phalanx)が認められたのは15%(19/131頭)におよびました。このため、このため、サラブレッド競走馬の跛行診断においては、起立位MRI検査によって、レントゲン検査では探知できないような不完全骨折(Incomplete fracture)の骨折線を、より高感度に発見できることが示唆されました。
一般的に、低磁場MRI検査は、高磁場MRI(High-field MRI)よりも解像度が劣るため、近位肢部の診断には適していない、という提唱がなされています(Werpy et al. Proc AAEP. 2008;54,447)。しかし、低磁場MRI検査装置では、全身麻酔(General anesthesia)を要しない起立位での撮影ができ、安価かつ迅速な診断が可能であるため、レース中に骨折を発症する危険があるようなサラブレッド競走馬を、定期的にスクリーニングする手段として応用可能であると考えられました。また、不完全骨折が発見された場合でも、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)の際に完全骨折(Complete fracture)へと悪化する危険性がないという利点もあります。他の文献では、核医学検査(Nuclear scintigraphy)によっても、同様の管骨病巣を早期診断できることが報告されていますが(Trope et al. EVJ. 2011;43:509)、MRI検査ではより詳細な病態把握ができるという利点があります。
この研究では、131頭の患馬のうち、二頭において管骨の遠位骨端横骨折(Transverse distal diaphyseal fractures)が認められました。この所見は、比較的に発症率の低い管骨骨折の病態のひとつですが、致死的な完全横骨折(Fatal complete transverse fracture)に悪化する危険があることが報告されており(Ramzan et al. EVJ. 2009;41:602)、起立位MRI検査を介しての早期発見によって、このような致死的骨折を予防できる症例もあると考えられました。
この研究では、131頭の患馬に見られた他のMRI所見としては、背側管骨の限局性高強度像(いわゆる背側関節病:Dorsal joint disease)、近位種子骨損傷(Proximal sesamoid bone injury)、基節骨の挫傷(Proximal phalangeal contusions)、繋靭帯損傷(Suspensory ligament branch injuries)、基節骨掌側隆起(Palmar eminence of proximal phalanx)の破片化(Fragmentation)、などが含まれました。
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Powell SE. Low-field standing magnetic resonance imaging findings of the metacarpo/metatarsophalangeal joint of racing Thoroughbreds with lameness localised to the region: A retrospective study of 131 horses. Equine Vet J. 2012; 44(2): 169-177.
この症例論文では、馬の球節跛行(Fetlock lameness)における低磁場起立位MRI検査(Low-field standing magnetic resonance imaging examination)の有用性を評価するため、2006~2010年にかけて跛行検査(Lameness examination)のため来院したサラブレッド競走馬のうち、関節麻酔(Joint block)によって跛行の原因が球節に特定されたものの、レントゲン検査(Radiography)では診断が付かなかったため、起立位MRI検査が行われた131頭の患馬における、MRI画像および医療記録(Medical records)の回顧的調査(Retrospective study)が行われました。
結果としては、131頭の患馬のうち、55%(72/131頭)において掌側&底側顆状突起の骨軟骨病(Palmar/Plantar condylar osteochondral disease)が認められ、軟骨下骨の限局性高強度像(Subchondral bone focal hyperintensity)、および、骨髄浮腫様パターン(Bone marrow edema-type signal pattern)が見られました。これらの所見は、管骨顆状突起の疲労性骨損傷(Fatigue bone injury)を示すものと考えられました。このため、サラブレッド競走馬の跛行診断においては、起立位MRI検査によって、レントゲン検査では探知できないような骨疲労を早期に診断でき、これらの馬の出走を控えることで、管骨顆状突起骨折(Condylar fracture of third meta-carpal/tarsal bone)の発症を予防できることが示唆されました。
この研究では、131頭の患馬のうち、管骨顆状突起の亀裂骨折(Condylar fissure fracture)が認められたのは20%(26/131頭)、基節骨の正軸骨折(Sagittal fracture of proximal phalanx)が認められたのは15%(19/131頭)におよびました。このため、このため、サラブレッド競走馬の跛行診断においては、起立位MRI検査によって、レントゲン検査では探知できないような不完全骨折(Incomplete fracture)の骨折線を、より高感度に発見できることが示唆されました。
一般的に、低磁場MRI検査は、高磁場MRI(High-field MRI)よりも解像度が劣るため、近位肢部の診断には適していない、という提唱がなされています(Werpy et al. Proc AAEP. 2008;54,447)。しかし、低磁場MRI検査装置では、全身麻酔(General anesthesia)を要しない起立位での撮影ができ、安価かつ迅速な診断が可能であるため、レース中に骨折を発症する危険があるようなサラブレッド競走馬を、定期的にスクリーニングする手段として応用可能であると考えられました。また、不完全骨折が発見された場合でも、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)の際に完全骨折(Complete fracture)へと悪化する危険性がないという利点もあります。他の文献では、核医学検査(Nuclear scintigraphy)によっても、同様の管骨病巣を早期診断できることが報告されていますが(Trope et al. EVJ. 2011;43:509)、MRI検査ではより詳細な病態把握ができるという利点があります。
この研究では、131頭の患馬のうち、二頭において管骨の遠位骨端横骨折(Transverse distal diaphyseal fractures)が認められました。この所見は、比較的に発症率の低い管骨骨折の病態のひとつですが、致死的な完全横骨折(Fatal complete transverse fracture)に悪化する危険があることが報告されており(Ramzan et al. EVJ. 2009;41:602)、起立位MRI検査を介しての早期発見によって、このような致死的骨折を予防できる症例もあると考えられました。
この研究では、131頭の患馬に見られた他のMRI所見としては、背側管骨の限局性高強度像(いわゆる背側関節病:Dorsal joint disease)、近位種子骨損傷(Proximal sesamoid bone injury)、基節骨の挫傷(Proximal phalangeal contusions)、繋靭帯損傷(Suspensory ligament branch injuries)、基節骨掌側隆起(Palmar eminence of proximal phalanx)の破片化(Fragmentation)、などが含まれました。
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