馬の文献:管骨骨折(Jacklin et al. 2012)
文献 - 2016年04月21日 (木)
「167頭のサラブレッド競走馬における174箇所の第三中手骨・中足骨の遠位顆状突起骨折の頻度分布(1999~2009年)」
Jacklin BD, Wright IM. Frequency distributions of 174 fractures of the distal condyles of the third metacarpal and metatarsal bones in 167 Thoroughbred racehorses (1999-2009). Equine Vet J. 2012; 44(6): 707-713.
この症例論文では、馬の管骨(Cannon bone)(=第三中手&中足骨:Third meta-carpal/tarsal bone)における、顆状突起骨折(Condylar fracture)の発症傾向を解明するため、1999~2009年にかけて、第三中手・中足骨の遠位顆状突起骨折(Fractures of the distal condyles)を発症した167頭のサラブレッド競走馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
この研究では、167頭の症例に生じた174箇所の管骨顆状突起骨折のうち、内側の顆状突起に起こった骨折(Medial condylar fractures)の割合が、過去の17年間のデータに比べて、有意に少なかったことが分かりました。また、骨折はより遠軸性(More abaxially)で、骨折線の全長は短い傾向にありました。さらに、外側の顆状突起に起こった骨折を見ると、顆状突起溝(Condylar groove)よりも外部から発生していた事が報告されています。このようなデータの相違は、症例郡に含まれる二歳馬の割合や、全天候型の馬場素材(All-weather surfaces)が使われるようになったこと、等に影響されている可能性があると考察されています。
この研究では、管骨の顆状突起骨折の発症率は、ターフの平地レースが行われる四月から十月に高く、ピークは九月であった事が分かりました。このように、平地レースのシーズンの後半に骨折が増える現象は、管骨の顆状突起骨折が蓄積性の適応性損傷(Cumulative adaptive failure)であるという病因論(Pool et al. EVJ. 1999;31:96, Riggs et al. EVJ. 1999;31:140)と合致していると考察されています。また、そのような骨折発症の季節性(Seasonality)は、骨への刺激や微細損傷が少ない二歳馬(骨格がより“ナイーブ”な馬)において、より顕著に認められる事象も示されています。
この研究では、管骨の顆状突起骨折のうち、掌側・底側の軟骨下骨において片方の皮質骨のみに生じている骨折(Unicortical fractures of the palmar/plantar subchondral bone)では、通常の背掌側撮影像では骨折線が発見しにくい事から、球節を屈曲させて35度に斜めから撮影する手法(Flexed dorsal 35° proximal-palmarodistal/plantar 35° distal-dorsoproximal oblique projection)が応用されました。この撮影像では、顆状突起における横行縁のすぐ掌側・底側の部位(Condyles immediately palmar/plantar to the transverse ridge)を、基節骨の掌側・底側隆起(Palmar/plantar processes of the proximal phalanx)と種子骨底部(Bases of the proximal sesamoid bones)のあいだに投影できるため、この箇所の軟骨下骨をより正確に評価できると考察されています。
この研究では、内側顆状突起の骨折を呈した馬の割合は、二歳馬では44%であったのに対して、三歳以上の馬では11%に留まっていました。類似の傾向は、他の文献でも報告されており(Ellis et al. EVJ. 1994;26:178)、二歳馬のX線検査においては、外側だけでなく内側の顆状突起も精査することの重要性を、再確認させるデータであると考察されています。
この研究では、内側顆状突起の骨折のうち80%において、骨折線が骨幹まで伸展(Fracture propagation into the diaphysis)しており、外側顆状突起の骨折でも、9%において同様の所見が認められました。また、内側顆状突起の骨折のうち57%では、骨折面が螺旋状の構造(Spiral configuration)を示していました。このような傾向は、他の文献でも報告されており(Rick et al. JAVMA. 1983;183:287, Wright et al. Vet Surg. 2009;38:689)、X線検査において骨幹部まで慎重に撮影する重要性を示したデータであると考えられました。
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この研究では、167頭の症例に生じた174箇所の管骨顆状突起骨折のうち、内側の顆状突起に起こった骨折(Medial condylar fractures)の割合が、過去の17年間のデータに比べて、有意に少なかったことが分かりました。また、骨折はより遠軸性(More abaxially)で、骨折線の全長は短い傾向にありました。さらに、外側の顆状突起に起こった骨折を見ると、顆状突起溝(Condylar groove)よりも外部から発生していた事が報告されています。このようなデータの相違は、症例郡に含まれる二歳馬の割合や、全天候型の馬場素材(All-weather surfaces)が使われるようになったこと、等に影響されている可能性があると考察されています。
この研究では、管骨の顆状突起骨折の発症率は、ターフの平地レースが行われる四月から十月に高く、ピークは九月であった事が分かりました。このように、平地レースのシーズンの後半に骨折が増える現象は、管骨の顆状突起骨折が蓄積性の適応性損傷(Cumulative adaptive failure)であるという病因論(Pool et al. EVJ. 1999;31:96, Riggs et al. EVJ. 1999;31:140)と合致していると考察されています。また、そのような骨折発症の季節性(Seasonality)は、骨への刺激や微細損傷が少ない二歳馬(骨格がより“ナイーブ”な馬)において、より顕著に認められる事象も示されています。
この研究では、管骨の顆状突起骨折のうち、掌側・底側の軟骨下骨において片方の皮質骨のみに生じている骨折(Unicortical fractures of the palmar/plantar subchondral bone)では、通常の背掌側撮影像では骨折線が発見しにくい事から、球節を屈曲させて35度に斜めから撮影する手法(Flexed dorsal 35° proximal-palmarodistal/plantar 35° distal-dorsoproximal oblique projection)が応用されました。この撮影像では、顆状突起における横行縁のすぐ掌側・底側の部位(Condyles immediately palmar/plantar to the transverse ridge)を、基節骨の掌側・底側隆起(Palmar/plantar processes of the proximal phalanx)と種子骨底部(Bases of the proximal sesamoid bones)のあいだに投影できるため、この箇所の軟骨下骨をより正確に評価できると考察されています。
この研究では、内側顆状突起の骨折を呈した馬の割合は、二歳馬では44%であったのに対して、三歳以上の馬では11%に留まっていました。類似の傾向は、他の文献でも報告されており(Ellis et al. EVJ. 1994;26:178)、二歳馬のX線検査においては、外側だけでなく内側の顆状突起も精査することの重要性を、再確認させるデータであると考察されています。
この研究では、内側顆状突起の骨折のうち80%において、骨折線が骨幹まで伸展(Fracture propagation into the diaphysis)しており、外側顆状突起の骨折でも、9%において同様の所見が認められました。また、内側顆状突起の骨折のうち57%では、骨折面が螺旋状の構造(Spiral configuration)を示していました。このような傾向は、他の文献でも報告されており(Rick et al. JAVMA. 1983;183:287, Wright et al. Vet Surg. 2009;38:689)、X線検査において骨幹部まで慎重に撮影する重要性を示したデータであると考えられました。
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