馬の文献:種子骨骨折(Spurlock et al. 1983)
文献 - 2016年04月29日 (金)

「109頭のスタンダードブレッドにおける近位種子骨の尖端骨折」
Spurlock GH, Gabel AA. Apical fractures of the proximal sesamoid bones in 109 Standardbred horses. J Am Vet Med Assoc. 1983; 183(1): 76-79.
この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の尖端骨折(Apical fracture)の病態と、外科的療法および保存性療法(Surgical/Conservative treatment)の治療効果を評価するため、近位種子骨の尖端骨折を呈した109頭のスタンダードブレッドの、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、近位種子骨の尖端骨折を呈した109頭の患馬のうち、外科的療法が応用された80頭を見ると、骨折前の出走率(45%)と治療後の出走率(50%)とのあいだには顕著な差が見られず、骨折前と治療後の競走成績(獲得賞金、出走回数、競走順位、競走への使用期間)のあいだにも有意差は認められませんでした。このため、スタンダードブレッドにおける近位種子骨の尖端骨折では、関節鏡手術(Arthroscopy)を介しての骨折片の摘出(Fracture fragment removal)によって、良好な治癒と競走能力の改善が期待されることが示唆されました。一方、保存性療法が選択された29頭を見ると、骨折前の出走率(69%)に比べて治療後の出走率(37%)は顕著に低い傾向が認められ、また、骨折前に比べて治療後の獲得賞金、出走数、および競走順位などが、有意に低下していることが示され、保存性療法では骨折部の完全な治癒は難しく、競走能力の減退につながることが示唆されました。
この研究では、外科的療法が応用された80頭の患馬のうち、骨折発生から30日以内に手術が行われた場合(治療後の出走率:60%)には、骨折発生から30日以上経ってから手術が行われた場合(治療後の出走率:37%)に比べて、治療後の獲得賞金、出走数、および競走順位などが、有意に高いことが示されました。このため、スタンダードブレッドにおける近位種子骨の尖端骨折では、骨折が発見され次第、出来るだけ早期に外科治療を実施することで、骨折部位および周辺軟部組織(Surrounding soft tissue)の良好な治癒が期待され、競走能力の向上につながることが示唆されました。
この研究では、外科的療法が応用された80頭の患馬のうち、16頭において繋靭帯炎(Suspensory desmitis)の続発が確認され、これらの患馬の出走率は36%にとどまり、競走成績(獲得賞金、出走数、など)も顕著に低下していることが示されました。このため、馬における近位種子骨の尖端骨折では、早期の外科的療法による繋靭帯炎の予防や、手術後の超音波検査(Ultrasonography)による繋靭帯炎のモニタリングが重要であると考えられました。
この研究では、近位種子骨の尖端骨折を呈した109頭の患馬のうち、前肢の骨折は26%(28/109頭)であったのに対して、後肢の骨折は74%(81/109頭)を占め、また、内側種子骨(Medial sesamoid bone)の骨折は28%(31/109頭)であったのに対して、外側種子骨の骨折(Lateral sesamoid bone)は72%(78/109頭)を占めており、スタンダードブレッドにおける種子骨の尖端骨折は、前肢よりも後肢、内側よりも外側の種子骨に好発することが示唆されました。
この研究では、外科的療法が応用された患馬のうち前肢の骨折症例を見ると、骨折前に比べて治療後のほうが、出走率(66%→40%)、獲得賞金($5000→$3000)、出走数(18回→12回)などが低下していることが示されました。一方、後肢の骨折症例を見ると、骨折前に比べて治療後のほうが、出走率(40%→52%)、獲得賞金($1400→$3200)、出走数(8回→13回)などが顕著に増加していました。このため、スタンダードブレッドの種子骨尖端骨折に対する外科治療では、前肢における骨折よりも後肢における骨折のほうが、より良好な予後と競走能力の向上が期待されることが示唆されています。
この研究では、外科的療法が応用された80頭の骨折前の獲得賞金(平均2000ドル)に比べて、保存性療法が選択された29頭の骨折前の獲得賞金(平均11000ドル)のほうが顕著に高額で、年齢も高い傾向にあったことが示されました。このことから、年齢が高く、もう十分に賞金を稼いだ馬に対しては、高価な手術を避けて保存性療法でレース出走を続けるという、治療方針の選択における偏向(Bias)が働いたことが推測されます。このため、保存性療法が選択された馬における治療後の出走率や競走成績は、過小評価(Under-estimate)されている可能性もあると考察されています。
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