馬の文献:種子骨骨折(Henninger et al. 1991)
文献 - 2016年05月02日 (月)
「馬の種子骨横骨折に対する螺子固定術および海綿骨移植:1983~1989年の25症例」
Henninger RW, Bramlage LR, Schneider RK, Gabel AA. Lag screw and cancellous bone graft fixation of transverse proximal sesamoid bone fractures in horses: 25 cases (1983-1989). J Am Vet Med Assoc. 1991; 199(5): 606-612.
この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の横骨折(Transverse fracture)に対する、螺子固定術(Lag screw fixation)および海綿骨移植(Cancellous bone graft)による外科的療法の治療効果を評価するため、1983~1989年にかけて種子骨横骨折を呈した25頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、25頭の種子骨横骨折の罹患馬のうち、経過追跡(Follow-up)のできた12頭のスタンダードブレッドを見ると、75%(9/12頭)が競走復帰を果たしており、感染性関節炎(Septic arthritis)を呈した二頭をデータ解析から除くと、競走復帰率は90%(9/10頭)に達したことが示されています。一方、経過追跡のできた8頭のサラブレッドを見ると、競走復帰を果たしたのは63%(5/8頭)であったことが報告されています。このため、近位種子骨の横骨折に対しては、螺子固定術と海綿骨移植を介しての外科的療法によって、十分な骨折部位の治癒が達成され、比較的に良好な予後と競走への復帰が期待されることが示唆されました。
馬の種子骨は、繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)の一部を成しており、持続的な張力(Persistent tension force)にさらされていることから、骨折の治りが悪く、治癒遅延(Delayed-union)や癒合不全(Nonunion)を引き起こしやすいことが知られています。このため、螺子固定術による骨折部位の不動化(Immobilization)に加えて、海綿骨移植によって骨芽細胞(Osteoblasts)や細胞外基質(Extracellular matrix)、成長因子(Growth factor)などを骨折部位に補充することで、より堅固で早期の骨癒合(Bony union)が期待できると考えられています。
この研究では、スタンダードブレッド競走馬においては、前肢の骨折が47%に対して後肢の骨折が53%、内側種子骨の骨折が53%に対して外側種子骨の骨折が47%といように、前後肢および内外側の種子骨における骨折分布はほぼ均衡していました。一方、サラブレッド競走馬においては、前肢の骨折が67%に対して後肢の骨折が33%、内側種子骨の骨折が78%に対して外側種子骨の骨折が22%といように、後肢よりも前肢、外側よりも内側の種子骨に骨折が好発する傾向が認められました。これは、スタンダードブレッド競走馬に比べて、レース時の走行速度の速いサラブレッド競走馬においては、後肢よりも衝撃の大きい前肢、そして、コーナー走行時に外側よりも大きい負荷の掛かる内側種子骨のほうが、骨折を引き起こし易かったためと推測されています。
この研究では、近位種子骨の横骨折を、その発生位置によって、(1)近位体部骨折(Proximal midbody fracture)、(2)中央部骨折(Midbody fracture)、(3)遠位体部骨折(distal midbody fracture)、という三種類のタイプに分類しています。そして、(1)に対しては二本もしくは三本の骨螺子を種子骨の尖端(Apex)から挿入する術式、(2)に対しては一本の骨螺子を種子骨の底部から挿入する術式、(3)に対しては一本もしくは二本の骨螺子を種子骨の底部から挿入する術式によって、骨折部位の再構築(Fractured bone reconstruction)が実施されました。しかし、この術式の違い、骨折タイプの違い、および骨折片の変位(Displacement)の度合いなどによって、その予後には“明白な影響は出なかった”(No apparent influence)ことが報告されています(統計的な解析は行われてない)。
この研究では、長期経過追跡ができた14頭の患馬のうち、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を呈したのは二頭だけであったことが報告されています。また、経時的なレントゲン検査においては、関節周囲部の骨棘形成(Periarticular osteophyte formation)や、遠軸面の増殖体形成(Enthesiophyte formation on abaxial surface)などが認められましたが、これらは術前のレントゲン像でも見られた所見であることから、外科治療法と直接的に関係する変化ではないと考えられています。
この研究では、超音波検査(Ultrasonography)による繋靭帯炎(Suspensory desmitis)の続発は、通例的には行われていないため、種子骨骨折の予後における繋靭帯炎の関与は評価されていません。また、骨折発生から手術までの期間が、予後の悪さに有意に相関するというデータも示されていません。しかし、術後に競走復帰できなかった数頭の馬では、重篤な繋靭帯炎の発症が確認されていることから、他の文献でも指摘されているように、種子骨骨折に繋靭帯炎を併発した症例では、予後の悪化と、レース復帰率の低下につながる可能性がある、という考察がなされています。
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この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の横骨折(Transverse fracture)に対する、螺子固定術(Lag screw fixation)および海綿骨移植(Cancellous bone graft)による外科的療法の治療効果を評価するため、1983~1989年にかけて種子骨横骨折を呈した25頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、25頭の種子骨横骨折の罹患馬のうち、経過追跡(Follow-up)のできた12頭のスタンダードブレッドを見ると、75%(9/12頭)が競走復帰を果たしており、感染性関節炎(Septic arthritis)を呈した二頭をデータ解析から除くと、競走復帰率は90%(9/10頭)に達したことが示されています。一方、経過追跡のできた8頭のサラブレッドを見ると、競走復帰を果たしたのは63%(5/8頭)であったことが報告されています。このため、近位種子骨の横骨折に対しては、螺子固定術と海綿骨移植を介しての外科的療法によって、十分な骨折部位の治癒が達成され、比較的に良好な予後と競走への復帰が期待されることが示唆されました。
馬の種子骨は、繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)の一部を成しており、持続的な張力(Persistent tension force)にさらされていることから、骨折の治りが悪く、治癒遅延(Delayed-union)や癒合不全(Nonunion)を引き起こしやすいことが知られています。このため、螺子固定術による骨折部位の不動化(Immobilization)に加えて、海綿骨移植によって骨芽細胞(Osteoblasts)や細胞外基質(Extracellular matrix)、成長因子(Growth factor)などを骨折部位に補充することで、より堅固で早期の骨癒合(Bony union)が期待できると考えられています。
この研究では、スタンダードブレッド競走馬においては、前肢の骨折が47%に対して後肢の骨折が53%、内側種子骨の骨折が53%に対して外側種子骨の骨折が47%といように、前後肢および内外側の種子骨における骨折分布はほぼ均衡していました。一方、サラブレッド競走馬においては、前肢の骨折が67%に対して後肢の骨折が33%、内側種子骨の骨折が78%に対して外側種子骨の骨折が22%といように、後肢よりも前肢、外側よりも内側の種子骨に骨折が好発する傾向が認められました。これは、スタンダードブレッド競走馬に比べて、レース時の走行速度の速いサラブレッド競走馬においては、後肢よりも衝撃の大きい前肢、そして、コーナー走行時に外側よりも大きい負荷の掛かる内側種子骨のほうが、骨折を引き起こし易かったためと推測されています。
この研究では、近位種子骨の横骨折を、その発生位置によって、(1)近位体部骨折(Proximal midbody fracture)、(2)中央部骨折(Midbody fracture)、(3)遠位体部骨折(distal midbody fracture)、という三種類のタイプに分類しています。そして、(1)に対しては二本もしくは三本の骨螺子を種子骨の尖端(Apex)から挿入する術式、(2)に対しては一本の骨螺子を種子骨の底部から挿入する術式、(3)に対しては一本もしくは二本の骨螺子を種子骨の底部から挿入する術式によって、骨折部位の再構築(Fractured bone reconstruction)が実施されました。しかし、この術式の違い、骨折タイプの違い、および骨折片の変位(Displacement)の度合いなどによって、その予後には“明白な影響は出なかった”(No apparent influence)ことが報告されています(統計的な解析は行われてない)。
この研究では、長期経過追跡ができた14頭の患馬のうち、球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を呈したのは二頭だけであったことが報告されています。また、経時的なレントゲン検査においては、関節周囲部の骨棘形成(Periarticular osteophyte formation)や、遠軸面の増殖体形成(Enthesiophyte formation on abaxial surface)などが認められましたが、これらは術前のレントゲン像でも見られた所見であることから、外科治療法と直接的に関係する変化ではないと考えられています。
この研究では、超音波検査(Ultrasonography)による繋靭帯炎(Suspensory desmitis)の続発は、通例的には行われていないため、種子骨骨折の予後における繋靭帯炎の関与は評価されていません。また、骨折発生から手術までの期間が、予後の悪さに有意に相関するというデータも示されていません。しかし、術後に競走復帰できなかった数頭の馬では、重篤な繋靭帯炎の発症が確認されていることから、他の文献でも指摘されているように、種子骨骨折に繋靭帯炎を併発した症例では、予後の悪化と、レース復帰率の低下につながる可能性がある、という考察がなされています。
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