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馬の文献:種子骨骨折(Martin et al. 1991)

「15頭の馬における種子骨の中央部骨折および底部骨折に対する周回ワイヤー固定術」
Martin BB Jr, Nunamaker DM, Evans LH, Orsini JA, Palmer SE. Circumferential wiring of mid-body and large basilar fractures of the proximal sesamoid bone in 15 horses. Vet Surg. 1991; 20(1): 9-14.

この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の中央部横骨折(Mid-body transverse fracture)および底部骨折(Basilar fracture)に対する、周回ワイヤー固定術(Circumferential wire fixation)の治療効果を評価するため、1982~1987年にかけて種子骨の中央部&底部骨折を呈した15頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

この研究の術式では、まず、球節の関節切開術(Fetlock arthrotomy)および掌側腱鞘(Palmar tendon sheath)の切開術によって種子骨の内外側両面へとアプローチし、種子骨尖端の軟部組織(Apex soft tissue)に貫通させた針、または種子骨尖端部に開けたドリル穴によって、関節腔(Joint space)から腱鞘腔(Tendon sheath space)へとワイヤーを通し、それを腱鞘内で遠位側に曲げた後、今度は種子骨底部の軟部組織(Basal soft tissue)に貫通させた針によって、腱鞘腔から関節腔へとワイヤーを通し、二つのワイヤーの端を種子骨の外側面で捻り合わせることで、周回ワイヤー固定術を完了させました。

結果としては、15頭の種子骨横骨折の罹患馬のうち、跛行(Lameness)が消失して正常歩様に回復したのは10頭で(治癒率:67%)、このうち、骨折前と同じかより高いレベルでの競走&競技に復帰したのは6頭で、あとの4頭は骨折前よりも低いレベルでの競走&競技に復帰したことが報告されています。このため、馬の種子骨における中央部&底部骨折では、周回ワイヤー固定術によって十分な骨折治癒と中程度~良好な予後が期待され、騎乗使役への復帰を果たす馬の割合も比較的に高いことが示唆されました。

この研究では、15頭の患馬のうち6頭において、術後の五~九ヵ月目にワイヤーの破損が確認され、このうち1頭では、ワイヤー端が関節周囲組織(Periarticular tissue)へと迷入(Migration)しており、このワイヤー破損&迷入は、周回ワイヤー固定術における重要な術後合併症(Post-operative complication)であることが示唆されています。これらの馬に対しては、二度目の手術によるインプラント除去(Implant removal)が実施され、この時点で既に十分な骨折治癒が起きていたことが報告されています。

この研究では、種子骨の尖端側にワイヤーを渡す際に、軟部組織に貫通させた針によってワイヤーを通すと、術後にワイヤーが軟部組織を裂くようにして尖端部から滑り落ちてしまう危険があることが確認されました。このため、種子骨尖端部位にドリル穴を開けて、この中にワイヤーを通すという改良(Modification)が行われ、この術式の変更後には、ワイヤーの滑り落ちは一度も見られませんでした。

この研究では、15頭の患馬うち11頭に対しては、骨折部への海綿骨移植(Cancellous bone graft)が併用されました。その結果、ワイヤー固定のみの場合の治癒率は75%(3/4頭が騎乗復帰)であったのに対して、ワイヤー固定と海綿骨移植が併用された場合の治癒率は64%(7/11頭が騎乗復帰)で、両群のあいだに有意差は認められなかったことが報告されています。この研究では、骨折発生から手術までの時間が長かったり、骨折片の変位(Fragment displacement)が大きい場合など、より重篤な骨折病態に対して海綿骨移植を選択するという、治療方針の決定における偏向(Bias)が働いたと推測され、このため、海綿骨移植の実施による顕著な治癒率の向上が示されなかったと考えられています。

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