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馬の文献:種子骨骨折(Parente et al. 1993)

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「馬の種子骨の底部骨折:1980~1991年の57症例」
Parente EJ, Richardson DW, Spencer P. Basal sesamoidean fractures in horses: 57 cases (1980-1991). J Am Vet Med Assoc. 1993; 202(8): 1293-1297.

この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の底部骨折(Basal fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1980~1991年にかけて種子骨の底部骨折を呈した57頭の患馬の、医療記録(Medical records)の解析が行われました。治療法としては、関節鏡手術(Arthroscopy)または関節切開術(Arthrotomy)を介しての骨折片の除去が23頭、馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)が29頭、周回ワイヤー固定術(Circumferential wire fixation)および海綿骨移植(Cancellous bone graft)による治療が3頭に対して応用されました(残りの2頭は引退)。

結果としては、経過追跡(Follow-up)ができた51頭の患馬のうち、59%(30/51頭)がレース復帰を果たしましたが、治療法の分類別に見ると、骨折片除去が行われた場合には73%がレース復帰できたのに対して、保存性療法もしくは骨折片固定が行われた場合のレース復帰率は48%であったことが報告されています。また、治療後に骨折前よりも競走レベルの低下が見られたのは、骨折片除去された場合には57%であったのに対して、保存性療法もしくは骨折片固定が行われた場合には87%に及んだことが報告されています。このため、馬の種子骨の底部骨折では、その予後は中程度にとどまり、競走レベルの低下や引退を余儀なくされる症例も多いものの、骨折片の除去が行われた場合には、予後が改善する傾向にあることが示唆されました。

この研究では、種子骨の横方向への厚み(背掌側方向への長さ:Dorso-palmar length)に対する、骨折片の縦方向の厚みの比率によって、骨折片を、小(種子骨の厚みの33%以下)、中(種子骨の厚みの33~66%)、大(種子骨の厚みの66%以上)の三つのサイズに分類しています。そして、骨折片除去された馬を見ると、小&中サイズの骨折片でのレース復帰率は70%であったのに対して、大サイズの骨折片でのレース復帰率も80%に及びました。一方、保存性療法もしくは骨折片固定が行われた馬では、小&中サイズの骨折片では58%のレース復帰率が達成されたのに対して、大サイズの骨折片ではレース復帰率は40%にとどまりました。このため、馬の種子骨の底部骨折において、骨折片のサイズが大きい場合には、積極的に骨折片除去を選択するべきであることが示唆されています。しかし、大サイズの骨折片の治療後にレース復帰を果たした馬のデータを見ると、骨折片を残した場合に比べて、骨折片を除去された場合のほうが、二回以上の出走を果たす可能性は低い傾向にありました。つまり、大サイズの骨折片が除去され、関節面積の減少(Reduced articular surface)や球節を支持する軟部組織の切除が行われた結果、球節の安定性(Joint stability)が失われて、競走能力に悪影響を及ぼし、長期的な予後(Long-term prognosis)を悪化させた可能性もある、という考察もなされており、適切な治療方針の推奨のためには(大サイズの底部骨折片を取り除くか?、外科的に整復するか?)、さらなる症例調査を要すると考えられています。

この研究では、骨折片の変位(Fragment displacement)の度合いを、軽度(変位が3mm未満)もしくは中程度(変位が3mm以上)の二種類に分類しています。そして、骨折片変位が軽度であった場合のレース復帰率は69%であったのに対して、骨折片変位が中程度であった場合のレース復帰率は38%にとどまり、有意に予後が悪化したことが示されました。一方、骨折片が一つのみであった場合のレース復帰率は65%であったのに対して、粉砕骨折(Comminuted fracture)(=骨折片が二つ以上)を呈した場合のレース復帰率は47%に過ぎなかったことが報告されています。このため、骨折片の変位が3mm以上に及んだり、粉砕骨折を起こしていた馬では、十分な骨癒合(Bony union)が起こりにくく、競走能力の低下につながりやすい、という考察がなされています。

この研究では、57頭の種子骨底部骨折の罹患馬のうち、88%(50/57頭)を前肢の骨折が占めており、特に、前肢の内側種子骨(Medial sesamoid bone)における発症率が、後肢&他の箇所の種子骨に比べて、有意に高いことが報告されています。これは、後肢よりも衝撃の大きい前肢、外側よりも体重負荷の大きい内側種子骨のほうが、球節の過剰伸展(Fetlock over-extension)や繋靭帯合同装置の異常緊張(Excessive tension by suspensory apparatus)によって、種子骨底部における剥離骨折(Avulsion fracture)を起こしやすかったためと推測されます。

一般的に、馬の種子骨骨折の発生に際しては、地面の状態(Track condition)、荷重の不均衡(Uneven loading)、素因となる他の疾患(Predisposing disease)、筋肉疲労(Muscle fatigue)などが関与するという仮説が成されています。この研究では、種子骨底部骨折の罹患馬における、“背側中手部病”(Dorsal metacarpal disease)や球節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)の有無が調査されましたが、これらの病態の有病率には顕著な増加は認められず、種子骨骨折の病因を裏付ける新たな証拠は示されませんでした。

この研究では、骨折部位の周辺の軟部組織に対する、超音波検査(Ultrasonography)の結果は報告されていません。しかし、馬の種子骨の底部骨折では、種子骨遠位靭帯(Distal sesamoidean ligament)の損傷を併発している場合も多いと考えられ、骨折片の除去後には、この靭帯の微細断裂(Micro-rupture)や炎症のほうが、予後を左右する主要因になる可能性が高いと考えられます。このため、今後の研究では、種子骨遠位靭帯の超音波所見による予後判定(Prognostication)の有用性を評価する必要があると考察されています。

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