馬の文献:種子骨骨折(Woodie et al. 1999)
文献 - 2016年05月04日 (水)
「スタンダードブレッドの種子骨尖端骨折:1990~1996年の43症例」
Woodie JB, Ruggles AJ, Bertone AL, Hardy J, Schneider RK. Apical fracture of the proximal sesamoid bone in standardbred horses: 43 cases (1990-1996). J Am Vet Med Assoc. 1999; 214(11): 1653-1656.
この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の尖端骨折(Apical fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1990~1996年にかけて種子骨の尖端骨折を呈して、関節鏡手術(Arthroscopy)または関節切開術(Arthrotomy)を介しての骨折片摘出(Fracture fragment removal)が応用された、43頭のスタンダードブレッド症例馬(ペイサーが32頭、トロッターが11頭)における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、43頭の患馬うち、骨折片の摘出後にレース復帰を果たした馬は67%(29/43頭)で、五回以上の出走を果たした馬は53%(23/43頭)、骨折前よりも獲得賞金(Earning)が増えた馬は49%(21/43頭)であったことが示されました。このうち、骨折前に既に出走していた馬では、治療後のレース復帰率は88%(14/16頭)に達し、骨折前には出走していなかった馬におけるレース復帰率(56%:15/27頭)よりも顕著に高い傾向が見られました。このため、スタンダードブレッドの種子骨尖端骨折においては、骨折片の外科的摘出によって、中程度の予後が達成され、特に骨折前に既にレース出走していた馬では、良好な競走能力の回復が期待されることが示唆されました。また、骨折片の摘出に際しては、81%(35/43頭)の馬では関節切開術、残りの19%(8/43頭)の馬では関節鏡手術が応用されましたが、この術式の違いそのものは、治療後の競走復帰率および競走成績とは有意には相関していませんでした。
この研究では、骨折片の実寸サイズ、骨折片と種子骨全体の大きさの比率、および骨折片の変位度などがレントゲン像上で計測され、予後との関係が評価されています。その結果、平均値としての骨折片の遠軸性全長(Abaxial length)は9.7mm、遠軸性全長が種子骨遠軸性全長に占める割合は36%、骨折片の軸性全長(Axial length)は7.3mm、軸性全長が種子骨軸性全長に占める割合は22%、および骨折片の変位度は2.6mmであったことが報告されています。しかし、これらのいずれの測定値も、治療後の競走復帰率および競走成績とは有意には相関していませんでした。このため、スタンダードブレッドの種子骨尖端骨折においては、適切な外科的治療が施されれば、例え骨折片のサイズが大きく、骨折片摘出後に種子骨の関節面(Articular surface)が著しく減退される場合においても、比較的に良好な予後が期待されることが示唆されました。他の文献では、骨折片の遠軸性全長が種子骨遠軸性全長の25%を超える場合には、有意に予後が悪化したり(Honnas. Equine Surgery. 1992:1002)、種子骨の骨折片が3mmを超えて変位した場合には、競走復帰の可能性が低くなる(Parente et al. JAVMA. 1993;202:1293)という知見も示されていますが、この研究では同様なデータは認められませんでした。
この研究では、超音波検査(ultrasonography)の所見に基づいて、繋靭帯炎(Suspensory desmitis)の病態を、グレード0~3に分けて定量化(Quantification)する手法が試みられています。その結果、超音波検査が行われた21頭の患馬のうち、繋靭帯炎の発症が認められたのは(グレード1以上)、76%(16/21頭)にのぼりましたが、繋靭帯炎のグレードそのものは、治療後の競走復帰率および競走成績とは有意には相関していませんでした。このため、スタンダードブレッドの種子骨尖端骨折では、繋靭帯炎の発症の有無やそのグレードに基づいて予後判定(Prognostication)を行うことは難しいと考えられましたが、他の文献で報告されているように(Spurlock et al. JAVMA. 1983;193:76)、重篤な繋靭帯炎を併発した症例では、その予後に大きく影響する可能性はやはり高い、という考察がなされています。
この研究では、43頭のスタンダードブレッド症例のうち、後肢の骨折が86%(37/43頭)で前肢の骨折よりも圧倒的に多く、また、外側種子骨(Lateral sesamoid bone)の骨折が79%(34/43頭)で内側種子骨よりも多いことが示されました。これは、後肢よりも前肢、外側よりも内側種子骨のほうが骨折しやすいという、サラブレッドの種子骨骨折とは明らかに異なった傾向を示しており、これは、馬車牽引するスタンダードブレッド競走馬では、前肢よりも後肢に掛かる負荷が大きいという、運動様式の違いを反映したデータであると考察されています。一方で、前肢の骨折を呈した馬では、後肢の骨折を呈した馬に比べて、治療後の獲得賞金が低かったことが報告されており、後肢よりも前肢の骨折のほうが、競走能力に与える影響は大きかった可能性もあると推測されています。
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この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の尖端骨折(Apical fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1990~1996年にかけて種子骨の尖端骨折を呈して、関節鏡手術(Arthroscopy)または関節切開術(Arthrotomy)を介しての骨折片摘出(Fracture fragment removal)が応用された、43頭のスタンダードブレッド症例馬(ペイサーが32頭、トロッターが11頭)における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、43頭の患馬うち、骨折片の摘出後にレース復帰を果たした馬は67%(29/43頭)で、五回以上の出走を果たした馬は53%(23/43頭)、骨折前よりも獲得賞金(Earning)が増えた馬は49%(21/43頭)であったことが示されました。このうち、骨折前に既に出走していた馬では、治療後のレース復帰率は88%(14/16頭)に達し、骨折前には出走していなかった馬におけるレース復帰率(56%:15/27頭)よりも顕著に高い傾向が見られました。このため、スタンダードブレッドの種子骨尖端骨折においては、骨折片の外科的摘出によって、中程度の予後が達成され、特に骨折前に既にレース出走していた馬では、良好な競走能力の回復が期待されることが示唆されました。また、骨折片の摘出に際しては、81%(35/43頭)の馬では関節切開術、残りの19%(8/43頭)の馬では関節鏡手術が応用されましたが、この術式の違いそのものは、治療後の競走復帰率および競走成績とは有意には相関していませんでした。
この研究では、骨折片の実寸サイズ、骨折片と種子骨全体の大きさの比率、および骨折片の変位度などがレントゲン像上で計測され、予後との関係が評価されています。その結果、平均値としての骨折片の遠軸性全長(Abaxial length)は9.7mm、遠軸性全長が種子骨遠軸性全長に占める割合は36%、骨折片の軸性全長(Axial length)は7.3mm、軸性全長が種子骨軸性全長に占める割合は22%、および骨折片の変位度は2.6mmであったことが報告されています。しかし、これらのいずれの測定値も、治療後の競走復帰率および競走成績とは有意には相関していませんでした。このため、スタンダードブレッドの種子骨尖端骨折においては、適切な外科的治療が施されれば、例え骨折片のサイズが大きく、骨折片摘出後に種子骨の関節面(Articular surface)が著しく減退される場合においても、比較的に良好な予後が期待されることが示唆されました。他の文献では、骨折片の遠軸性全長が種子骨遠軸性全長の25%を超える場合には、有意に予後が悪化したり(Honnas. Equine Surgery. 1992:1002)、種子骨の骨折片が3mmを超えて変位した場合には、競走復帰の可能性が低くなる(Parente et al. JAVMA. 1993;202:1293)という知見も示されていますが、この研究では同様なデータは認められませんでした。
この研究では、超音波検査(ultrasonography)の所見に基づいて、繋靭帯炎(Suspensory desmitis)の病態を、グレード0~3に分けて定量化(Quantification)する手法が試みられています。その結果、超音波検査が行われた21頭の患馬のうち、繋靭帯炎の発症が認められたのは(グレード1以上)、76%(16/21頭)にのぼりましたが、繋靭帯炎のグレードそのものは、治療後の競走復帰率および競走成績とは有意には相関していませんでした。このため、スタンダードブレッドの種子骨尖端骨折では、繋靭帯炎の発症の有無やそのグレードに基づいて予後判定(Prognostication)を行うことは難しいと考えられましたが、他の文献で報告されているように(Spurlock et al. JAVMA. 1983;193:76)、重篤な繋靭帯炎を併発した症例では、その予後に大きく影響する可能性はやはり高い、という考察がなされています。
この研究では、43頭のスタンダードブレッド症例のうち、後肢の骨折が86%(37/43頭)で前肢の骨折よりも圧倒的に多く、また、外側種子骨(Lateral sesamoid bone)の骨折が79%(34/43頭)で内側種子骨よりも多いことが示されました。これは、後肢よりも前肢、外側よりも内側種子骨のほうが骨折しやすいという、サラブレッドの種子骨骨折とは明らかに異なった傾向を示しており、これは、馬車牽引するスタンダードブレッド競走馬では、前肢よりも後肢に掛かる負荷が大きいという、運動様式の違いを反映したデータであると考察されています。一方で、前肢の骨折を呈した馬では、後肢の骨折を呈した馬に比べて、治療後の獲得賞金が低かったことが報告されており、後肢よりも前肢の骨折のほうが、競走能力に与える影響は大きかった可能性もあると推測されています。
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