馬の文献:種子骨骨折(Boure et al. 1999)
文献 - 2016年05月04日 (水)
「18頭のスタンダードブレッドの種子骨尖端骨折における電気メスを用いた関節鏡手術による骨折片摘出」
Boure L, Marcoux M, Laverty S, Lepage OM. Use of electrocautery probes in arthroscopic removal of apical sesamoid fracture fragments in 18 Standardbred horses. Vet Surg. 1999; 28(4): 226-232.
この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の尖端骨折(Apical fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1993~1997年にかけて種子骨の尖端骨折を呈して、電気メス(Electrocautery probe)を用いての関節鏡手術(Arthroscopy)による骨折片摘出(Fracture fragment removal)が応用された、18頭のスタンダードブレッド症例馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。この研究の術式では、1.5%グリシン溶液によって関節膨満(Joint distension)され、種子骨の尖端部または遠軸面(Apical/Abaxial surface)において、繋靭帯(Suspensory ligament)や関節包(Joint capsule)の組織を電気メスで焼き切ることで、尖端骨折片の摘出が行われました。
結果としては、電気メスを用いての関節鏡手術によって、簡易かつ正確な骨折片の切除が実施され、出血が殆ど起きないので関節鏡下での視野(Arthroscopic view)が妨げられる事もなく、関節軟骨(Articular cartilage)や滑膜絨毛(Synovial villi)などの視診も、簡易かつ迅速に行われました。術後には、経過追跡(Follow-up)ができた14頭のうち、71%(10/14頭)がレース復帰を果たし、骨折前に既に出走していた馬では、78%(7/9頭)がレース復帰できたことが報告されています。このため、スタンダードブレッドの種子骨尖端骨折に対しては、電気メスを用いての関節鏡手術によって、迅速かつ的確な骨折片摘出が達成され、良好な予後と競走能力の回復が期待されることが示唆されました。
一般的に、馬の種子骨尖端骨折は、種子骨に繋靭帯が堅固に結合している箇所に骨折が起こっているため、骨折片から結合組織を切除するのが手技的に難しい(または長時間を要する)場合が多いことが知られており、この研究の術式のように電気メスを使用することで、迅速かつ正確な繋靭帯組織の切除が達成されると考えられています。また、種子骨尖端部位では、関節腔(Joint space)が狭くなっているので、通常のメス刃で結合組織を切除すると、メス刃を振り動かす際に繋靭帯や関節包を傷付ける危険があるため、この点でも電気メスを使う利点があると考察されています。人間の医学領域の文献でも、電気メスを用いた関節鏡手術によって、関節血腫(Hemoarthrosis)などの合併症の危険を最小限に抑えられ、入院期間の短縮につながることが報告されています(Gallick et al. Clin Sports Med. 1987;6:607)。
この研究では、同軸側または対軸側アプローチ(Ipsi-lateral/Contra-lateral approach)(注:解剖用語としては“Ipsi-axial”および“Contra-axial”が正しい記述法だと思います)によって関節鏡&器具ポータルが設置され、対軸側アプローチのほうが骨折片の観察が容易であったことが報告されています。また、電気メスの挿入を容易にするため、始めはプラスティック製のカニューレが用いられていましたが、この術式ではグリシン溶液の漏出によって関節膨満を維持するのが困難であったため、この手法は中止されました。そして、通常の関節鏡手術と同様に、穿刺切開創(Stab incision)を介して直接プローブを関節腔内へと挿入させる術式が採用され、この最終的な術式による平均手術時間は、22分間であったことが報告されています。
一般的に、電気メスを関節内で用いる場合には、発生する電流(Electrical current)によって他の箇所の関節軟骨や滑膜を損傷させてしまわないように、生食よりも伝導率(Conductivity)の低いグリシン溶液による関節膨満が推奨されています。人間の医学領域では、このグリシン溶液が関節組織に与える副作用(短期および長期的副作用を含めて)は報告されておらず、この研究でも、グリシン溶液が使われた関節における術後の腫脹(Swelling)や跛行(Lameness)は認められませんでした。
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この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の尖端骨折(Apical fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1993~1997年にかけて種子骨の尖端骨折を呈して、電気メス(Electrocautery probe)を用いての関節鏡手術(Arthroscopy)による骨折片摘出(Fracture fragment removal)が応用された、18頭のスタンダードブレッド症例馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。この研究の術式では、1.5%グリシン溶液によって関節膨満(Joint distension)され、種子骨の尖端部または遠軸面(Apical/Abaxial surface)において、繋靭帯(Suspensory ligament)や関節包(Joint capsule)の組織を電気メスで焼き切ることで、尖端骨折片の摘出が行われました。
結果としては、電気メスを用いての関節鏡手術によって、簡易かつ正確な骨折片の切除が実施され、出血が殆ど起きないので関節鏡下での視野(Arthroscopic view)が妨げられる事もなく、関節軟骨(Articular cartilage)や滑膜絨毛(Synovial villi)などの視診も、簡易かつ迅速に行われました。術後には、経過追跡(Follow-up)ができた14頭のうち、71%(10/14頭)がレース復帰を果たし、骨折前に既に出走していた馬では、78%(7/9頭)がレース復帰できたことが報告されています。このため、スタンダードブレッドの種子骨尖端骨折に対しては、電気メスを用いての関節鏡手術によって、迅速かつ的確な骨折片摘出が達成され、良好な予後と競走能力の回復が期待されることが示唆されました。
一般的に、馬の種子骨尖端骨折は、種子骨に繋靭帯が堅固に結合している箇所に骨折が起こっているため、骨折片から結合組織を切除するのが手技的に難しい(または長時間を要する)場合が多いことが知られており、この研究の術式のように電気メスを使用することで、迅速かつ正確な繋靭帯組織の切除が達成されると考えられています。また、種子骨尖端部位では、関節腔(Joint space)が狭くなっているので、通常のメス刃で結合組織を切除すると、メス刃を振り動かす際に繋靭帯や関節包を傷付ける危険があるため、この点でも電気メスを使う利点があると考察されています。人間の医学領域の文献でも、電気メスを用いた関節鏡手術によって、関節血腫(Hemoarthrosis)などの合併症の危険を最小限に抑えられ、入院期間の短縮につながることが報告されています(Gallick et al. Clin Sports Med. 1987;6:607)。
この研究では、同軸側または対軸側アプローチ(Ipsi-lateral/Contra-lateral approach)(注:解剖用語としては“Ipsi-axial”および“Contra-axial”が正しい記述法だと思います)によって関節鏡&器具ポータルが設置され、対軸側アプローチのほうが骨折片の観察が容易であったことが報告されています。また、電気メスの挿入を容易にするため、始めはプラスティック製のカニューレが用いられていましたが、この術式ではグリシン溶液の漏出によって関節膨満を維持するのが困難であったため、この手法は中止されました。そして、通常の関節鏡手術と同様に、穿刺切開創(Stab incision)を介して直接プローブを関節腔内へと挿入させる術式が採用され、この最終的な術式による平均手術時間は、22分間であったことが報告されています。
一般的に、電気メスを関節内で用いる場合には、発生する電流(Electrical current)によって他の箇所の関節軟骨や滑膜を損傷させてしまわないように、生食よりも伝導率(Conductivity)の低いグリシン溶液による関節膨満が推奨されています。人間の医学領域では、このグリシン溶液が関節組織に与える副作用(短期および長期的副作用を含めて)は報告されておらず、この研究でも、グリシン溶液が使われた関節における術後の腫脹(Swelling)や跛行(Lameness)は認められませんでした。
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