馬の文献:種子骨骨折(Wilson et al. 1999)
文献 - 2016年05月05日 (木)
「馬の前肢種子骨の横骨切術における二種類の固定法の生体力学的比較」
Wilson DA, Keegan KG, Carson WL. An in vitro biomechanical comparison of two fixation methods for transverse osteotomies of the medial proximal forelimb sesamoid bones in horses. Vet Surg. 1999; 28(5): 355-367.
この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の中央部横骨折(Mid-body transverse fracture)に対する有用な外科的療法を評価するため、34本の屍体前肢(Cadaver forelimbs)の種子骨に横骨切術(Transverse osteotomy)を施し、それをワイヤー固定術(Transfixation wiring)または螺子固定術(Lag screw fixation)によって整復し、球節の伸展試験(Fetlock extension test)によって、この二種類の固定法における物理的強度の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。
結果としては、繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)への荷重量、検体肢に負荷された荷重量(Applied load)、インプラント破損時の球節屈曲角度(Fetlock flexion angle at failure)などを見ると、螺子固定術に比べてワイヤー固定術のほうが、有意に高い測定値を示しました。しかし、最大荷重量(Ultimate load)や硬度(Stiffness)には、両固定法のあいだに有意差は認められませんでした。このため、馬の近位種子骨の中央部横骨折に対する外科的整復に際しては、螺子固定術よりもワイヤー固定術のほうが、より高い物理的強度を達成できることが示唆されましたが、この違いがより良好な骨癒合(Bony union)につながる否かについては、実際の骨折症例において評価する必要があると考察されています。
この研究では、繋靭帯合同装置に掛かった荷重量を見ると、ワイヤー固定術では平均20000ニュートン、螺子固定術では平均12000ニュートン、健常な屍体では19000ニュートンであったことが報告されています。一般的に、450-kgの馬が歩行している際には、繋靭帯合同装置に掛かる荷重は3800ニュートン前後に過ぎないことが示されており(Jansen et al. Acta Anatomica 1993;146:162)、この研究で試験された二種類の固定法は、いずれも十分な整復強度を達成できると推測されました。さらに、この研究におけるワイヤーおよび螺子の破損は、球節が220°の角度に達して時点で起こっており、実際の臨床症例において、遠位肢ギプス(Distal limb cast)が併用されている場合には、これほどの球節過伸展(Fetlock hyper-extension)は起こり得ないと考えられます。これらの理由から、両固定法のあいだに示された固定強度の有意差は、実際の症例における骨治癒の有意差にはつながらない可能性もあり、いずれの術式を用いても、十分な強度の骨折部位の整復が期待できると考察されています。
この研究の限界点(Limitation)としては、正常な屍体を用いての生体外実験(In vitro testing)であるため、種子骨骨折の発症時に併発することの多い、繋靭帯の損傷を再現できていなかったことが挙げられています。また、屍体肢を採取した馬の年齢や運動レベルは完全には統一されておらず、種子骨骨折の発症における重要因子である、種子骨と繋靭帯の相対的強度は均一化されていませんでした。
馬の近位種子骨には多くの靭帯組織が結合しており、種子骨の周囲にワイヤーを設置した場合には、術後にこれらの軟部組織内にワイヤーが埋没したり、軟部組織が退縮していくことで、ワイヤーがゆるんで整復強度の減退につながる可能性もあると予測されます。このような、インプラントのゆるみは、骨組織内に挿入された螺子においては、それほど大きな問題にはならないと推測されます。つまり、実際の種子骨骨折の症例に対する治療では、手術直後においてはワイヤー固定のほうが螺子固定よりも強固な整復法であるかもしれませんが、時間が経つにつれてワイヤーがゆるんで、正常な骨癒合を妨げる結果につながる危険性もあると考えられます。
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結果としては、繋靭帯合同装置(Suspensory apparatus)への荷重量、検体肢に負荷された荷重量(Applied load)、インプラント破損時の球節屈曲角度(Fetlock flexion angle at failure)などを見ると、螺子固定術に比べてワイヤー固定術のほうが、有意に高い測定値を示しました。しかし、最大荷重量(Ultimate load)や硬度(Stiffness)には、両固定法のあいだに有意差は認められませんでした。このため、馬の近位種子骨の中央部横骨折に対する外科的整復に際しては、螺子固定術よりもワイヤー固定術のほうが、より高い物理的強度を達成できることが示唆されましたが、この違いがより良好な骨癒合(Bony union)につながる否かについては、実際の骨折症例において評価する必要があると考察されています。
この研究では、繋靭帯合同装置に掛かった荷重量を見ると、ワイヤー固定術では平均20000ニュートン、螺子固定術では平均12000ニュートン、健常な屍体では19000ニュートンであったことが報告されています。一般的に、450-kgの馬が歩行している際には、繋靭帯合同装置に掛かる荷重は3800ニュートン前後に過ぎないことが示されており(Jansen et al. Acta Anatomica 1993;146:162)、この研究で試験された二種類の固定法は、いずれも十分な整復強度を達成できると推測されました。さらに、この研究におけるワイヤーおよび螺子の破損は、球節が220°の角度に達して時点で起こっており、実際の臨床症例において、遠位肢ギプス(Distal limb cast)が併用されている場合には、これほどの球節過伸展(Fetlock hyper-extension)は起こり得ないと考えられます。これらの理由から、両固定法のあいだに示された固定強度の有意差は、実際の症例における骨治癒の有意差にはつながらない可能性もあり、いずれの術式を用いても、十分な強度の骨折部位の整復が期待できると考察されています。
この研究の限界点(Limitation)としては、正常な屍体を用いての生体外実験(In vitro testing)であるため、種子骨骨折の発症時に併発することの多い、繋靭帯の損傷を再現できていなかったことが挙げられています。また、屍体肢を採取した馬の年齢や運動レベルは完全には統一されておらず、種子骨骨折の発症における重要因子である、種子骨と繋靭帯の相対的強度は均一化されていませんでした。
馬の近位種子骨には多くの靭帯組織が結合しており、種子骨の周囲にワイヤーを設置した場合には、術後にこれらの軟部組織内にワイヤーが埋没したり、軟部組織が退縮していくことで、ワイヤーがゆるんで整復強度の減退につながる可能性もあると予測されます。このような、インプラントのゆるみは、骨組織内に挿入された螺子においては、それほど大きな問題にはならないと推測されます。つまり、実際の種子骨骨折の症例に対する治療では、手術直後においてはワイヤー固定のほうが螺子固定よりも強固な整復法であるかもしれませんが、時間が経つにつれてワイヤーがゆるんで、正常な骨癒合を妨げる結果につながる危険性もあると考えられます。
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