馬の文献:種子骨骨折(Southwood et al. 2000)
文献 - 2016年05月05日 (木)
「馬の近位種子骨における底部骨折片の関節鏡的摘出:1984~1997年の26症例」
Southwood LL, McIlwraith CW. Arthroscopic removal of fracture fragments involving a portion of the base of the proximal sesamoid bone in horses: 26 cases (1984-1997). J Am Vet Med Assoc. 2000; 217(2): 236-240.
この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の底部骨折(Basal fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1984~1997年にわたって種子骨の底部骨折を呈し、関節鏡手術(Arthroscopy)による骨折片摘出(Fracture fragment removal)が応用された26頭の症例における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、24頭の競走馬の症例のうち、50%(12/24頭)がレース復帰して二度以上の出走を果たしたことが示され、また、残りの2頭の非競走馬でも、意図した騎乗使役(Intended use)に復帰できたのは、50%(1/2頭)であったことが報告されています。このため、馬の近位種子骨の底部骨折においては、関節鏡手術を介しての骨折片摘出によって、予後は中程度にとどまり、他のタイプの種子骨骨折と比較すると、競走&競技能力の低下につながる場合も多いことが示唆されました。
この研究では、レントゲン像上での底部骨折片と種子骨全体のサイズ(軸性および遠軸性の全長の積)の比を算出することで、骨折病態の点数化(Grading)が試みられています(骨折片の大きさが種子骨の25%未満ではグレード1、25%以上ではグレード2)。この結果、24頭の競走馬の症例のうち、グレード1骨折でのレース復帰率は57%(8/14頭)であったのに対して、グレード2骨折でのレース復帰率は40%(4/10頭)と、顕著に低下していました(統計的な有意差は無し)。このため、サイズの大きい底部骨折片が除去された場合には、関節面積の減少(Reduced articular surface)や、球節の安定性をになう種子骨遠位靭帯(Distal sesamoidean ligament)の付着部の損失が起こって、競走&競技能力を低下させた可能性もある、と考察されています。そして、骨折片が種子骨底面の全体に掛かる場合には、術後に関節の不安定性(Joint instability)が生じるのを予防するため、その骨折片は外科的に除去すべきではない、という提唱もなされています。
この研究では、関節鏡下において骨折片以外の関節病変(Articular lesion)が認めれなかった馬では、レース復帰率は63%(10/16頭)にのぼったのに対して、骨折片以外の関節病変が発見された馬では、レース復帰率は25%(2/8頭)と顕著に低下していました(統計的な有意差は無し)。このため、種子骨底部骨折に対する関節鏡手術では、骨折箇所だけでなく関節腔全体(Entire joint cavity)を慎重に視診することで、併発疾患の有無を見極めて、正確な予後判定(Prognostication)に努めることが重要であると考察されています。また、関節病変が種子骨骨折を二次的に引き起こしたという、病因論(Etiology)との因果関係については、この研究のデータのみから結論付けるのは難しいと考察されています。
この研究では、種子骨骨折のみを起こしていた馬では、レース復帰率は40%(8/20頭)であったのに対して、種子骨骨折以外の整形外科疾患(Orthopaedic disease)を併発して馬では、レース復帰率は100%(4/4頭)でした(統計的な有意差は無し)。これは、骨折の他に併発疾患があったほうが予後が良いという矛盾した結果(Conflicting results)にも見えますが、この理由については明瞭には考察されていません。
この研究では、骨折を起こした球節における、関節周囲組織(Peri-articular tissue)の超音波検査(Ultrasonography)の結果は評価されていません。しかし、他の文献を見ると、種子骨底部骨折に対する関節鏡手術後の予後は、種子骨遠位靭帯炎(Distal sesamoidean desmitis)の重篤度(Severity)に大きく左右されるという報告もあるため(Ruggles et al. Curr Tech Eq Surg & Lame. 1998:403)、今後の研究では、骨折そのものの病態以外にも、軟部組織の超音波所見が予後指標になるか否かを調査する必要があると考えられました。
この研究では、26頭の種子骨底部骨折の患馬のうち、100%(26/26頭)が前肢の骨折で、後肢の骨折は一頭もなく、また、内側種子骨(Medial sesamoid bone)の骨折が65%(17/26頭)、外側種子骨(Medial sesamoid bone)の骨折が35%(9/26頭)を占めていました。このため、競走馬における種子骨の底部骨折は、後肢よりも前肢、外側よりも内側種子骨に好発することが示唆されました。
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この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の底部骨折(Basal fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1984~1997年にわたって種子骨の底部骨折を呈し、関節鏡手術(Arthroscopy)による骨折片摘出(Fracture fragment removal)が応用された26頭の症例における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、24頭の競走馬の症例のうち、50%(12/24頭)がレース復帰して二度以上の出走を果たしたことが示され、また、残りの2頭の非競走馬でも、意図した騎乗使役(Intended use)に復帰できたのは、50%(1/2頭)であったことが報告されています。このため、馬の近位種子骨の底部骨折においては、関節鏡手術を介しての骨折片摘出によって、予後は中程度にとどまり、他のタイプの種子骨骨折と比較すると、競走&競技能力の低下につながる場合も多いことが示唆されました。
この研究では、レントゲン像上での底部骨折片と種子骨全体のサイズ(軸性および遠軸性の全長の積)の比を算出することで、骨折病態の点数化(Grading)が試みられています(骨折片の大きさが種子骨の25%未満ではグレード1、25%以上ではグレード2)。この結果、24頭の競走馬の症例のうち、グレード1骨折でのレース復帰率は57%(8/14頭)であったのに対して、グレード2骨折でのレース復帰率は40%(4/10頭)と、顕著に低下していました(統計的な有意差は無し)。このため、サイズの大きい底部骨折片が除去された場合には、関節面積の減少(Reduced articular surface)や、球節の安定性をになう種子骨遠位靭帯(Distal sesamoidean ligament)の付着部の損失が起こって、競走&競技能力を低下させた可能性もある、と考察されています。そして、骨折片が種子骨底面の全体に掛かる場合には、術後に関節の不安定性(Joint instability)が生じるのを予防するため、その骨折片は外科的に除去すべきではない、という提唱もなされています。
この研究では、関節鏡下において骨折片以外の関節病変(Articular lesion)が認めれなかった馬では、レース復帰率は63%(10/16頭)にのぼったのに対して、骨折片以外の関節病変が発見された馬では、レース復帰率は25%(2/8頭)と顕著に低下していました(統計的な有意差は無し)。このため、種子骨底部骨折に対する関節鏡手術では、骨折箇所だけでなく関節腔全体(Entire joint cavity)を慎重に視診することで、併発疾患の有無を見極めて、正確な予後判定(Prognostication)に努めることが重要であると考察されています。また、関節病変が種子骨骨折を二次的に引き起こしたという、病因論(Etiology)との因果関係については、この研究のデータのみから結論付けるのは難しいと考察されています。
この研究では、種子骨骨折のみを起こしていた馬では、レース復帰率は40%(8/20頭)であったのに対して、種子骨骨折以外の整形外科疾患(Orthopaedic disease)を併発して馬では、レース復帰率は100%(4/4頭)でした(統計的な有意差は無し)。これは、骨折の他に併発疾患があったほうが予後が良いという矛盾した結果(Conflicting results)にも見えますが、この理由については明瞭には考察されていません。
この研究では、骨折を起こした球節における、関節周囲組織(Peri-articular tissue)の超音波検査(Ultrasonography)の結果は評価されていません。しかし、他の文献を見ると、種子骨底部骨折に対する関節鏡手術後の予後は、種子骨遠位靭帯炎(Distal sesamoidean desmitis)の重篤度(Severity)に大きく左右されるという報告もあるため(Ruggles et al. Curr Tech Eq Surg & Lame. 1998:403)、今後の研究では、骨折そのものの病態以外にも、軟部組織の超音波所見が予後指標になるか否かを調査する必要があると考えられました。
この研究では、26頭の種子骨底部骨折の患馬のうち、100%(26/26頭)が前肢の骨折で、後肢の骨折は一頭もなく、また、内側種子骨(Medial sesamoid bone)の骨折が65%(17/26頭)、外側種子骨(Medial sesamoid bone)の骨折が35%(9/26頭)を占めていました。このため、競走馬における種子骨の底部骨折は、後肢よりも前肢、外側よりも内側種子骨に好発することが示唆されました。
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