馬の文献:種子骨骨折(Anthenill et al. 2006)
文献 - 2016年05月08日 (日)
「サラブレッド競走馬の屍体前肢における種子骨のレントゲン所見と骨折発見の関係」
Anthenill LA, Stover SM, Gardner IA, Hill AE, Lee CM, Anderson ML, Barr BC, Read DH, Johnson BJ, Woods LW, Daft BM, Kinde H, Moore JD, Farman CA, Odani JS, Pesavento PA, Uzal FA, Case JT, Ardans AA. Association between findings on palmarodorsal radiographic images and detection of a fracture in the proximal sesamoid bones of forelimbs obtained from cadavers of racing Thoroughbreds. Am J Vet Res. 2006; 67(5): 858-868.
この研究論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の骨折診断の際のレントゲン検査(Radiography)の有用性を評価するため、1999~2002年にわたって競馬場で安楽死(Euthanasia)となった328頭のサラブレッド競走馬から、屍体前肢(Cadaver forelimbs)の内側&外側種子骨(Medial/Lateral sesamoid bone)を採取し(合計1312個の種子骨検体)、そのレントゲン所見と骨折病態の関係が調査されました。
結果としては、1312個の種子骨検体のうち、レントゲン像上で骨増殖体(Osteophytes)が認められた骨の割合は、骨折していた種子骨では39%(99/251種子骨)であったのに対して、骨折していなかった種子骨では53%(567/1061種子骨)にのぼり、骨増殖体が認められた場合には、骨折を発症している可能性が二分の一程度になることが示唆されました(オッズ比:0.57)。一方、レントゲン像上で脈管溝(Vascular channels)が認められた骨の割合は、骨折していた種子骨では64%(160/251種子骨)であったのに対して、骨折していなかった種子骨では91%(961/1061種子骨)にのぼり、脈管溝が認められた場合には、骨折を発症している可能性が五分の一以下になることが示唆されました(オッズ比:0.18)。このような骨増殖体や脈管溝の所見は、調教や競走に起因する種子骨の微細損傷(Micro-damage)に対する順応(Adaptation)を示すものと考えられ、このような順応が起こる前に運動強度の高い調教や競走に使役された場合には、骨強度の回復が不十分で、致死的な骨損傷(Fatal bone injury)を起こしやすかったのではないか、と推測されています。しかし、この研究では、種子骨検体の硬質濃度(Mineral density)や骨形成(Bone formation)などの評価は行われていないので、レントゲン所見と骨折発症の因果関係を裏付けるのは難しいと考えられます。
この研究では、328頭の検体のうち、42%(136/328頭)において種子骨骨折が認められ、このうち両軸性骨折(Biaxial fracture)を呈していた馬は80%(106/136頭)にのぼりました。一方、左右の肢、および前肢と後肢のあいだで、種子骨骨折の有病率(Prevalence)には有意差は見られませんでした。また、328頭の検体のうち、33%(109/328頭)が中央部骨折(Mid-body fracture)、25%(81/328頭)が底部骨折(Basilar fracture)を呈しており、軸性骨折(Axial fracture)、尖端骨折(Apical fracture)、遠軸性骨折(Abaxial fracture)などは、いずれも10%以下の有病率にとどまりました。このうち、底部骨折は外側よりも内側種子骨、軸性骨折は内側よりも外側種子骨において、有意に高い有病率を示しました。さらに、251個の種子骨検体のうち、40%(100/251種子骨)が完全横骨折(Complete transverse fracture)、22%(54/251種子骨)が斜骨折(Oblique fracture)の病態を示し、このうち、完全横骨折は外側よりも内側種子骨、斜骨折は内側よりも外側種子骨において、有意に高い有病率を示しました。以上のような骨折分布は、それぞれの種類の種子骨骨折における病因論(Etiology)の違いに由来するものと推測されています。しかし、この研究は無作為に選ばれた検体(Randomly selected samples)ではなく、安楽死の対象となるような重篤な骨折症例からのみ採取された検体郡であるため、各タイプの種子骨骨折の発症機序(Pathogenic mechanism)を直接的に推察するのは適当ではないと考察されています。
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この研究論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の骨折診断の際のレントゲン検査(Radiography)の有用性を評価するため、1999~2002年にわたって競馬場で安楽死(Euthanasia)となった328頭のサラブレッド競走馬から、屍体前肢(Cadaver forelimbs)の内側&外側種子骨(Medial/Lateral sesamoid bone)を採取し(合計1312個の種子骨検体)、そのレントゲン所見と骨折病態の関係が調査されました。
結果としては、1312個の種子骨検体のうち、レントゲン像上で骨増殖体(Osteophytes)が認められた骨の割合は、骨折していた種子骨では39%(99/251種子骨)であったのに対して、骨折していなかった種子骨では53%(567/1061種子骨)にのぼり、骨増殖体が認められた場合には、骨折を発症している可能性が二分の一程度になることが示唆されました(オッズ比:0.57)。一方、レントゲン像上で脈管溝(Vascular channels)が認められた骨の割合は、骨折していた種子骨では64%(160/251種子骨)であったのに対して、骨折していなかった種子骨では91%(961/1061種子骨)にのぼり、脈管溝が認められた場合には、骨折を発症している可能性が五分の一以下になることが示唆されました(オッズ比:0.18)。このような骨増殖体や脈管溝の所見は、調教や競走に起因する種子骨の微細損傷(Micro-damage)に対する順応(Adaptation)を示すものと考えられ、このような順応が起こる前に運動強度の高い調教や競走に使役された場合には、骨強度の回復が不十分で、致死的な骨損傷(Fatal bone injury)を起こしやすかったのではないか、と推測されています。しかし、この研究では、種子骨検体の硬質濃度(Mineral density)や骨形成(Bone formation)などの評価は行われていないので、レントゲン所見と骨折発症の因果関係を裏付けるのは難しいと考えられます。
この研究では、328頭の検体のうち、42%(136/328頭)において種子骨骨折が認められ、このうち両軸性骨折(Biaxial fracture)を呈していた馬は80%(106/136頭)にのぼりました。一方、左右の肢、および前肢と後肢のあいだで、種子骨骨折の有病率(Prevalence)には有意差は見られませんでした。また、328頭の検体のうち、33%(109/328頭)が中央部骨折(Mid-body fracture)、25%(81/328頭)が底部骨折(Basilar fracture)を呈しており、軸性骨折(Axial fracture)、尖端骨折(Apical fracture)、遠軸性骨折(Abaxial fracture)などは、いずれも10%以下の有病率にとどまりました。このうち、底部骨折は外側よりも内側種子骨、軸性骨折は内側よりも外側種子骨において、有意に高い有病率を示しました。さらに、251個の種子骨検体のうち、40%(100/251種子骨)が完全横骨折(Complete transverse fracture)、22%(54/251種子骨)が斜骨折(Oblique fracture)の病態を示し、このうち、完全横骨折は外側よりも内側種子骨、斜骨折は内側よりも外側種子骨において、有意に高い有病率を示しました。以上のような骨折分布は、それぞれの種類の種子骨骨折における病因論(Etiology)の違いに由来するものと推測されています。しかし、この研究は無作為に選ばれた検体(Randomly selected samples)ではなく、安楽死の対象となるような重篤な骨折症例からのみ採取された検体郡であるため、各タイプの種子骨骨折の発症機序(Pathogenic mechanism)を直接的に推察するのは適当ではないと考察されています。
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