馬の病気:ピラミッド病
馬の蹄病 - 2013年06月15日 (土)

ピラミッド病(Pyramidal disease)について。
遠位背側繋部(Distal dorsal pastern)から背側蹄冠部(Dorsal coronary band)の膨隆を呈する疾患で、慢性の蹄骨伸筋突起骨折(Chronic fracture of distal phalanx extensor process)に続発する症例が一般的ですが、末期症状(End-stage)の蹄関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease: DJD)(いわゆる低繋骨瘤:Low ringbone)に起因して、蹄骨伸筋突起および遠位中節骨(Distal middle phalanx)の骨膜炎(Periostitis)と外骨腫(Exostosis)を生じる病態もあります。いずれの場合も、蹄関節の過剰屈曲(Excessive flexion)による、長指伸筋腱および総指伸筋腱の付着部挫傷(Strain of long/common digital extensor attachment)が病因であると考えられています。
ピラミッド病では、特徴的な外観の視診に加えて、軽度の跛行(Mild lameness)、膨隆部の圧痛(Pain on palpation)、遠位肢屈曲試験(Distal limb flexion test)による陽性反応を示し、慢性症例では、背側蹄壁全体がピラッミド状の形態を呈する様になります。掌側神経麻酔(Palmar nerve block)では背側蹄冠の尖端部は完全に無痛化されない場合もあるため、疼痛と外観の因果関係を証明するためには、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)の陰性反応を確かめた後、低四点神経麻酔(Low 4-point nerve block)または蹄関節麻酔(Coffin joint block)が実施されます。また、レントゲン検査によって伸筋突起骨折と低繋骨瘤との鑑別診断を行うことも重要です。
ピラミッド病の治療では、蹄骨の伸筋突起骨折に起因する症例では、一般に関節鏡(Arthroscopy)による骨折片除去が行われますが、骨折片が大型の場合は螺子固定術(Lag screw fixation)による外科的整復療法も報告されています。低繋骨瘤に起因する症例では、コルチコステロイドの関節注射(Intra-articular injection)と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の全身投与が行われます。しかし、ピラミッド病の外観を示した時点では、既に末期病態のDJDである場合が殆どで、予後不良を呈する症例が多いことが報告されています。炎症剤治療に不応性の症例では、乗用馬を引退して繁殖用として使役される場合に限り、救助手法(Salvage procedure)としての蹄関節固定術(Coffin joint arthrodesis)によって疼痛緩和が試みられる事もあります。
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