馬の文献:種子骨骨折(Schnabel et al. 2007)
文献 - 2016年05月09日 (月)
「二歳齢未満のサラブレッドにおける種子骨尖端骨折片の関節鏡的摘出後の競走成績:1989~2002年の151症例」
Schnabel LV, Bramlage LR, Mohammed HO, Embertson RM, Ruggles AJ, Hopper SA. Racing performance after arthroscopic removal of apical sesamoid fracture fragments in Thoroughbred horses age < 2 years: 151 cases (1989--2002). Equine Vet J. 2007; 39(1): 64-68.
この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の尖端骨折(Apical fracture)に対する、外科的療法の治療効果を評価するため、1989~2002年にわたって種子骨の尖端骨折を呈し、関節鏡手術(Arthroscopy)を介しての骨折片摘出(Fracture fragment removal)が応用された151頭のサラブレッド競走馬(二歳齢未満の若齢馬)における、骨折前と治療後の競走成績(Racing performance)の比較が行われました。
結果としては、経過追跡(Follow-up)ができた147頭の種子骨尖端骨折の罹患馬のうち、レース復帰を果たしたのは84%(123/147頭)にのぼり、これは、各症例での同じ母馬からの兄弟馬(Maternal siblings)における出走率(78%)と比べても、有意差は認められませんでした。また、二歳、三歳、四歳の時点における、出走数(Number of starts)、獲得賞金(Earnings)、出走当たりの獲得賞金(Average earnings per start)などを比べても、種子骨尖端骨折の罹患馬とその兄弟馬とのあいだに、有意差は見られませんでした。このため、若齢馬の種子骨における尖端骨折では、関節鏡手術による適切な治療が施されれば、骨折の発症自体は競走能力の低下につながらないことが示唆されました。
この研究では、経過追跡ができた147頭の種子骨尖端骨折の罹患馬のうち、前肢の骨折におけるレース復帰率は55%(6/11頭)にとどまったのに対して、後肢の骨折におけるレース復帰率は86%(117/136頭)と有意に高かったことが示されました。このため、若齢馬の種子骨における尖端骨折では、関節鏡手術を介しての骨折片摘出によって、中程度~良好な予後が期待され、特に後肢の骨折では、レース復帰を果たす馬の割合がかなり高いことが示唆されており、これは二歳齢以上の成馬における知見とも合致していました(Schnabel et al. EVJ. 2006;38:446)。
この研究では、151頭の種子骨尖端骨折の罹患馬のうち、一歳未満の子馬(“離乳子馬”:Weanlings)が10%(15/151頭)、当歳馬(Yearlings)が90%(136/151頭)を占めていました。しかし、一歳未満の馬におけるレース復帰率は73%(11/15頭)、当歳馬におけるレース復帰率は85%(112/132頭)で、両郡のあいだに有意差は認められませんでした。また、92%(139/151頭)は後肢の骨折で、右後肢と左後肢のあいだには有意差が無かったのに対して、前肢の骨折では、左前肢(64%)のほうが右前肢(27%)よりも種子骨尖端骨折の発症率が高かったことが報告されています(残りの9%は両側性骨折)。
この研究では、種子骨尖端骨折の発症箇所を比べると(前肢&後肢、内側&外側種子骨)、前肢の内側種子骨(Forelimb medial sesamoid bone)を骨折した場合のレース復帰率は44%(4/9頭)で、他の発症箇所におけるレース復帰率よりも有意に低いことが示されました。これは、後肢よりも前肢、外側よりも内側種子骨のほうが体重負荷の大きいサラブレッド競走馬においては、前肢の内側種子骨における骨折が最も深刻で、予後不良となる危険性が一番高いことを示していると考察されており、これは、他の文献の知見とも合致していました(Schnabel et al. EVJ. 2006;38:446)。
一般的に、成馬の種子骨尖端骨折は治りが悪く、ほぼ全てが関節鏡的な骨折片除去(Arthroscopic fragment removal)の適応症(Indication)であるのに対して、二歳齢未満の若齢馬における種子骨尖端骨折では、非変位性骨折(Nondisplaced fracture)の場合には、自然治癒(Spontaneous healing)する可能性もあることが知られています(Bouré et al. Vet Surg. 1999;28:226 & Woodie et al. JAVMA. 1999;214:1653)。このため、若齢馬において急性骨折(Acute fracture)や非変位性骨折が発見された場合には、一~二ヵ月後のレントゲンによる再検査によって、骨折片辺縁の粗雑化(Rounding of fragment edges)などの線維性骨癒合不全(Fibrous nonunion)の兆候が見られた場合にのみ、骨折片摘出を行うことが推奨されています。
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この症例論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の尖端骨折(Apical fracture)に対する、外科的療法の治療効果を評価するため、1989~2002年にわたって種子骨の尖端骨折を呈し、関節鏡手術(Arthroscopy)を介しての骨折片摘出(Fracture fragment removal)が応用された151頭のサラブレッド競走馬(二歳齢未満の若齢馬)における、骨折前と治療後の競走成績(Racing performance)の比較が行われました。
結果としては、経過追跡(Follow-up)ができた147頭の種子骨尖端骨折の罹患馬のうち、レース復帰を果たしたのは84%(123/147頭)にのぼり、これは、各症例での同じ母馬からの兄弟馬(Maternal siblings)における出走率(78%)と比べても、有意差は認められませんでした。また、二歳、三歳、四歳の時点における、出走数(Number of starts)、獲得賞金(Earnings)、出走当たりの獲得賞金(Average earnings per start)などを比べても、種子骨尖端骨折の罹患馬とその兄弟馬とのあいだに、有意差は見られませんでした。このため、若齢馬の種子骨における尖端骨折では、関節鏡手術による適切な治療が施されれば、骨折の発症自体は競走能力の低下につながらないことが示唆されました。
この研究では、経過追跡ができた147頭の種子骨尖端骨折の罹患馬のうち、前肢の骨折におけるレース復帰率は55%(6/11頭)にとどまったのに対して、後肢の骨折におけるレース復帰率は86%(117/136頭)と有意に高かったことが示されました。このため、若齢馬の種子骨における尖端骨折では、関節鏡手術を介しての骨折片摘出によって、中程度~良好な予後が期待され、特に後肢の骨折では、レース復帰を果たす馬の割合がかなり高いことが示唆されており、これは二歳齢以上の成馬における知見とも合致していました(Schnabel et al. EVJ. 2006;38:446)。
この研究では、151頭の種子骨尖端骨折の罹患馬のうち、一歳未満の子馬(“離乳子馬”:Weanlings)が10%(15/151頭)、当歳馬(Yearlings)が90%(136/151頭)を占めていました。しかし、一歳未満の馬におけるレース復帰率は73%(11/15頭)、当歳馬におけるレース復帰率は85%(112/132頭)で、両郡のあいだに有意差は認められませんでした。また、92%(139/151頭)は後肢の骨折で、右後肢と左後肢のあいだには有意差が無かったのに対して、前肢の骨折では、左前肢(64%)のほうが右前肢(27%)よりも種子骨尖端骨折の発症率が高かったことが報告されています(残りの9%は両側性骨折)。
この研究では、種子骨尖端骨折の発症箇所を比べると(前肢&後肢、内側&外側種子骨)、前肢の内側種子骨(Forelimb medial sesamoid bone)を骨折した場合のレース復帰率は44%(4/9頭)で、他の発症箇所におけるレース復帰率よりも有意に低いことが示されました。これは、後肢よりも前肢、外側よりも内側種子骨のほうが体重負荷の大きいサラブレッド競走馬においては、前肢の内側種子骨における骨折が最も深刻で、予後不良となる危険性が一番高いことを示していると考察されており、これは、他の文献の知見とも合致していました(Schnabel et al. EVJ. 2006;38:446)。
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