馬の文献:種子骨骨折(Anthenill et al. 2010)
文献 - 2016年05月12日 (木)
「近位種子骨の中央部骨折を呈したサラブレッド競走馬における微細骨構造の特性」
Anthenill LA, Gardner IA, Pool RR, Garcia TC, Stover SM. Comparison of macrostructural and microstructural bone features in Thoroughbred racehorses with and without midbody fracture of the proximal sesamoid bone. Am J Vet Res. 2010; 71(7): 755-765.
この研究論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の中央部骨折(Mid-body fracture)の発症機序(Pathogenic mechanism)を調査するため、競馬場で安楽死(Euthanasia)となったサラブレッド競走馬のうち、種子骨中央部骨折が原因であった八頭(=骨折馬郡)、およびそれ以外の病態が原因であった八頭(=対照馬郡)から種子骨を採取して、そのマクロ構造的および微細構造的な特性(Macro/Micro-structural features)が評価されました。
結果としては、微細レントゲン検査(Microradiographs)においては、対照馬郡の種子骨に比べて骨折馬郡の種子骨のほうが、緻密骨(Compact bone)および長軸方向への骨梁(Longitudinal trabeculae)などが有意に増加していました。また、定量的組織形態検査(Quantitative histomorphometry)においては、対照馬郡の種子骨に比べて骨折馬郡の種子骨のほうが、軟骨下骨部および骨髄部の空隙率(Subchondral/Medullary porosity)が有意に増加しており、骨折線の発生箇所はこのような微細骨構造が変化している箇所に一致していました。このようなマクロ構造的および微細構造的な特性は、近位種子骨が強度負荷(High loading)に適応(Adaptation)する過程で、骨再構築(Bone remodeling)および骨吸収(Bone resorption)を引き起こし、一過性に空隙率が上昇したことを指し示す所見であると考えられています。つまり、調教や競走によって生じた種子骨の微細損傷(Micro-damage)が修復する過程で、一時的に骨強度の低下(=空隙率の上昇)を生じて、この時期にさらに強い負荷が掛けられることで種子骨の致死的骨折(Catastrophic fracture)に至った、という病因論(Etiology)が仮説されています。
この研究の結果から、種子骨の再構築および骨吸収過程をモニタリングすることで、種子骨の中央部骨折を予防することが可能であるという考察がなされています。しかし、組織形態検査で見られたような空隙率上昇を探知するためには、通常のレントゲン検査では感度(Sensitivity)が十分ではなく、CT検査やMRI検査などによる硬質密度(Mineral density)の低下をモニタリングする必要があるため、臨床症例においては現実的ではありません。このため、今後の研究では、特定強度の運動負荷における経時的な骨微細骨構造の評価を行うことで、骨強度の低下が生じる時期(=骨折の危険がある時期)を予測する試みが有用であるかもしれません。また、脈管溝の増加(Increased vascular channel:いわゆる“種子骨炎”[Sesamoiditis]の所見)や、骨増殖体の形成(Osteophyte formation)など、レントゲン検査で認められる他の所見と、実際の種子骨再構築過程の相関を調査することで、経時的なレントゲン検査による骨強度低下のモニタリングが可能であるか否かを評価する必要があると考えられました。
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Anthenill LA, Gardner IA, Pool RR, Garcia TC, Stover SM. Comparison of macrostructural and microstructural bone features in Thoroughbred racehorses with and without midbody fracture of the proximal sesamoid bone. Am J Vet Res. 2010; 71(7): 755-765.
この研究論文では、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)の中央部骨折(Mid-body fracture)の発症機序(Pathogenic mechanism)を調査するため、競馬場で安楽死(Euthanasia)となったサラブレッド競走馬のうち、種子骨中央部骨折が原因であった八頭(=骨折馬郡)、およびそれ以外の病態が原因であった八頭(=対照馬郡)から種子骨を採取して、そのマクロ構造的および微細構造的な特性(Macro/Micro-structural features)が評価されました。
結果としては、微細レントゲン検査(Microradiographs)においては、対照馬郡の種子骨に比べて骨折馬郡の種子骨のほうが、緻密骨(Compact bone)および長軸方向への骨梁(Longitudinal trabeculae)などが有意に増加していました。また、定量的組織形態検査(Quantitative histomorphometry)においては、対照馬郡の種子骨に比べて骨折馬郡の種子骨のほうが、軟骨下骨部および骨髄部の空隙率(Subchondral/Medullary porosity)が有意に増加しており、骨折線の発生箇所はこのような微細骨構造が変化している箇所に一致していました。このようなマクロ構造的および微細構造的な特性は、近位種子骨が強度負荷(High loading)に適応(Adaptation)する過程で、骨再構築(Bone remodeling)および骨吸収(Bone resorption)を引き起こし、一過性に空隙率が上昇したことを指し示す所見であると考えられています。つまり、調教や競走によって生じた種子骨の微細損傷(Micro-damage)が修復する過程で、一時的に骨強度の低下(=空隙率の上昇)を生じて、この時期にさらに強い負荷が掛けられることで種子骨の致死的骨折(Catastrophic fracture)に至った、という病因論(Etiology)が仮説されています。
この研究の結果から、種子骨の再構築および骨吸収過程をモニタリングすることで、種子骨の中央部骨折を予防することが可能であるという考察がなされています。しかし、組織形態検査で見られたような空隙率上昇を探知するためには、通常のレントゲン検査では感度(Sensitivity)が十分ではなく、CT検査やMRI検査などによる硬質密度(Mineral density)の低下をモニタリングする必要があるため、臨床症例においては現実的ではありません。このため、今後の研究では、特定強度の運動負荷における経時的な骨微細骨構造の評価を行うことで、骨強度の低下が生じる時期(=骨折の危険がある時期)を予測する試みが有用であるかもしれません。また、脈管溝の増加(Increased vascular channel:いわゆる“種子骨炎”[Sesamoiditis]の所見)や、骨増殖体の形成(Osteophyte formation)など、レントゲン検査で認められる他の所見と、実際の種子骨再構築過程の相関を調査することで、経時的なレントゲン検査による骨強度低下のモニタリングが可能であるか否かを評価する必要があると考えられました。
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