馬の文献:手根骨破片骨折(Kannegieter et al. 1991)
文献 - 2016年05月26日 (木)
「サラブレッドにおける手根関節の関節鏡手術後の競走成績」
Kannegieter NJ, Ryan N. Racing performance of Thoroughbred horses after arthroscopic surgery of the carpus. Aust Vet J. 1991; 68(8): 258-260.
この症例論文では、馬の手根骨骨折(Carpal fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、手根骨の破片骨折(Chip fracture)および盤状骨折(Slab fracture)への関節鏡手術(Arthroscopy)が応用された110頭のサラブレッド競走馬の、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、関節鏡手術のあと経過追跡(Follow-up)のできた100頭の患馬のうち、レース復帰できた馬は87%で、レース復帰して勝利した馬は43%であったことが示されました。このうち、橈側手根骨(Radial carpal bone)、第三手根骨(Third carpal bone)、遠位橈骨(Distal radius)における破片骨折では、レース復帰率したのは89%、レース復帰して勝利したのは39%であったのに対して、第三中手骨の盤状骨折では、レース復帰率したのは82%、レース復帰して勝利したのは46%であり、骨折のタイプによる予後への有意差は認められませんでした。このため、サラブレッドの手根関節における骨折に対しては、関節鏡手術によって良好な予後が期待され、レース復帰および競走能力の維持を果たす馬の割合も、比較的に高いことが示唆されました。
この研究では、約二割の症例において、両側性骨折(Bilateral fracture)を呈していましたが、片側性骨折(Unilateral fracture)と両側性骨折のあいだで、レース復帰した馬の割合や、レース復帰して勝利した馬の割合に、有意差は認められませんでした。このため、馬の手根骨骨折における予後は、骨折片の数や、骨折した関節の数ではなく、骨関節炎(Osteoarthritis)などの術後合併症(Post-operative complication)の有無に大きく左右されることが示唆されました。つまり、手根骨骨折に対する治療では、関節鏡によって骨片を摘出することに加えて、適切な術後治療によって骨関節炎の予防に努めることも、予後の改善のために重要な要因であると考えられました。
この研究では、手根骨骨折の発症箇所を見ると、橈側手根骨の破片骨折が四割以上と、最も高い割合を示していました。また、骨折の発症箇所別に見るレース復帰率では、橈側手根骨や遠位橈骨の破片骨折、および第三手根骨の前面盤状骨折(Frontal slab fracture)では90~100%であったのに対して、第三手根骨の破片骨折では73%とやや低く、第三手根骨の正中盤状骨折(Sagittal slab fracture)では67%と最も悪い予後を示していました。さらに、骨折の発症箇所別に見るレース復帰までの平均休養期間では、橈側手根骨や遠位橈骨の破片骨折では六ヶ月未満であったのに対して、第三手根骨の破片骨折では七ヶ月とやや長く、第三手根骨の前面および正中盤状骨折では八~九ヶ月という長期にわたる休養を要したことが報告されています。
この研究では、骨折周辺部における関節軟骨損傷(Articular cartilage damage)の定量的評価(Quantitative evaluation)が試みられており、グレード1:軟骨損傷が骨折縁から3mm未満で対側関節面の軟骨損傷(いわゆるKissing lesion)が殆どない場合、グレード2:軟骨損傷が骨折縁から3~8mmで対側関節面の軟骨損傷がある場合、グレード3:軟骨損傷が骨折縁から8mm以上で対側関節面に重篤な軟骨損傷がある場合、という点数化システムが用いられています。そして、グレード1および2の関節損傷を含む症例と、グレード2および3の関節損傷を含む症例を比べた場合、レース復帰した馬の割合や、レース復帰して勝利した馬の割合に、有意差は認められませんでした。しかし、この研究では、検体数が十分ではないため、各グレード郡における予後は解析されておらず、今後の研究では、よりサンプル数を増やすことで、関節鏡下での関節軟骨損傷のグレード化が、有用な予後判定の指標(Prognostic parameter)になるか否かを、より詳細に評価する必要があると考えられました。
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Kannegieter NJ, Ryan N. Racing performance of Thoroughbred horses after arthroscopic surgery of the carpus. Aust Vet J. 1991; 68(8): 258-260.
この症例論文では、馬の手根骨骨折(Carpal fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、手根骨の破片骨折(Chip fracture)および盤状骨折(Slab fracture)への関節鏡手術(Arthroscopy)が応用された110頭のサラブレッド競走馬の、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
結果としては、関節鏡手術のあと経過追跡(Follow-up)のできた100頭の患馬のうち、レース復帰できた馬は87%で、レース復帰して勝利した馬は43%であったことが示されました。このうち、橈側手根骨(Radial carpal bone)、第三手根骨(Third carpal bone)、遠位橈骨(Distal radius)における破片骨折では、レース復帰率したのは89%、レース復帰して勝利したのは39%であったのに対して、第三中手骨の盤状骨折では、レース復帰率したのは82%、レース復帰して勝利したのは46%であり、骨折のタイプによる予後への有意差は認められませんでした。このため、サラブレッドの手根関節における骨折に対しては、関節鏡手術によって良好な予後が期待され、レース復帰および競走能力の維持を果たす馬の割合も、比較的に高いことが示唆されました。
この研究では、約二割の症例において、両側性骨折(Bilateral fracture)を呈していましたが、片側性骨折(Unilateral fracture)と両側性骨折のあいだで、レース復帰した馬の割合や、レース復帰して勝利した馬の割合に、有意差は認められませんでした。このため、馬の手根骨骨折における予後は、骨折片の数や、骨折した関節の数ではなく、骨関節炎(Osteoarthritis)などの術後合併症(Post-operative complication)の有無に大きく左右されることが示唆されました。つまり、手根骨骨折に対する治療では、関節鏡によって骨片を摘出することに加えて、適切な術後治療によって骨関節炎の予防に努めることも、予後の改善のために重要な要因であると考えられました。
この研究では、手根骨骨折の発症箇所を見ると、橈側手根骨の破片骨折が四割以上と、最も高い割合を示していました。また、骨折の発症箇所別に見るレース復帰率では、橈側手根骨や遠位橈骨の破片骨折、および第三手根骨の前面盤状骨折(Frontal slab fracture)では90~100%であったのに対して、第三手根骨の破片骨折では73%とやや低く、第三手根骨の正中盤状骨折(Sagittal slab fracture)では67%と最も悪い予後を示していました。さらに、骨折の発症箇所別に見るレース復帰までの平均休養期間では、橈側手根骨や遠位橈骨の破片骨折では六ヶ月未満であったのに対して、第三手根骨の破片骨折では七ヶ月とやや長く、第三手根骨の前面および正中盤状骨折では八~九ヶ月という長期にわたる休養を要したことが報告されています。
この研究では、骨折周辺部における関節軟骨損傷(Articular cartilage damage)の定量的評価(Quantitative evaluation)が試みられており、グレード1:軟骨損傷が骨折縁から3mm未満で対側関節面の軟骨損傷(いわゆるKissing lesion)が殆どない場合、グレード2:軟骨損傷が骨折縁から3~8mmで対側関節面の軟骨損傷がある場合、グレード3:軟骨損傷が骨折縁から8mm以上で対側関節面に重篤な軟骨損傷がある場合、という点数化システムが用いられています。そして、グレード1および2の関節損傷を含む症例と、グレード2および3の関節損傷を含む症例を比べた場合、レース復帰した馬の割合や、レース復帰して勝利した馬の割合に、有意差は認められませんでした。しかし、この研究では、検体数が十分ではないため、各グレード郡における予後は解析されておらず、今後の研究では、よりサンプル数を増やすことで、関節鏡下での関節軟骨損傷のグレード化が、有用な予後判定の指標(Prognostic parameter)になるか否かを、より詳細に評価する必要があると考えられました。
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