馬の文献:手根骨破片骨折(Todhunter et al. 1993a)
文献 - 2016年05月28日 (土)
「運動およびPSGAGが馬の手根関節の関節軟骨欠損治癒に及ぼす影響」
Todhunter RJ, Minor RR, Wootton JA, Krook L, Burton-Wurster N, Lust G. Effects of exercise and polysulfated glycosaminoglycan on repair of articular cartilage defects in the equine carpus. J Orthop Res. 1993; 11(6): 782-795.
この研究論文では、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡的骨片摘出(Arthroscopic fragment removal)において、その予後(Prognosis)を大きく左右する要因である骨関節炎(Osteoarthritis)の予防法および治療法を検討するため、遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成した十八頭の実験馬を、馬房休養郡またはトレッドミル運動郡に分け、一方の手根関節にはPSGAG(Polysulfated glycosaminoglycan)を関節注射(=治療関節)、もう一方の手根関節には生食を関節注射(=無治療関節)して、手術から十七週間目に滑膜(Synovial membrane)および関節軟骨(Articular cartilage)の、組織学的検査(Histologic evaluation)および遺伝子活性解析(Gene expression analysis)が行われました。
この研究の運動郡では、術後の二週目から十二週目までは一日二回の常歩(最長60分)、十三週目から十七週目までは一日二回の速歩(最長25分)および常歩(最長15分)のトレッドミル運動が実施されました。そして、運動郡では休養郡に比べて、軟骨欠損部の治癒組織におけるグリコサミノグリカンおよび二型コラーゲンの含有量が、有意に高かったことが示されました。このため、馬の手根骨破片骨折の関節手術後には、適切な管理運動療法(Controlled exercise)を実施することで、より迅速かつ健常な関節軟骨の再生(Rapid/Healthy articular cartilage regeneration)を促す効果が期待されると考えられました。
一般的に、関節軟骨への酸素&栄養供給は軟骨下骨(Subchondral bone)からの血流ではなく滑液(Synovial fluid)に依存しており、関節への負荷と無負荷によって細胞外基質(Extra-cellular matrix)が、スポンジが水を吸い込むように滑液を灌流させることで、より良好な軟骨細胞(Chondrocytes)への栄養補給が達成され、軟骨治癒の促進につながると考えられています。他の文献では、連続性の受動的運動(Continuous passive motion)によって関節軟骨欠損の治癒が促進されたことが報告されており(Salter et al. JBJS. 1980;62:1237)、今回の研究ではこれを裏付けるデータが示されました。しかし、関節軟骨欠損のある馬に対する管理運動療法では、回復期(Convalescent period)に跛行の悪化(Lameness exacerbation)を呈したという知見もあることから、馬の手根骨破片骨折の関節手術後には、常歩のみの運動療法が適している可能性もある、という考察がなされています。
この研究では、運動郡における治療関節は無治療関節に比べて、軟骨欠損部の充填領域(Repair tissue coverage)が有意に狭かったことが示されました。また、治療関節は無治療関節に比べて、ヒドロキシリジンとヒドロキシプロリンの比率が有意に高く、コラーゲンと蛋白質の比率が有意に低かったことが示され、これらの異常所見は、二型コラーゲン含有量の減少と相関していました。このため、馬の手根骨破片骨折の関節手術直後には、PSGAGの関節内投与によって、関節軟骨の治癒に有害な作用(Detrimental effect)を及ぼすことが示唆されました。しかし、他の文献では、PSGAG投与された関節軟骨欠損部では、より血管性および細胞性の高い組織(More cellular and vascular tissue)で充填されることが示されていることから(Yovich et al. AJVR. 1987;48:1407)、PSGAG投与は関節軟骨の治癒を阻害するのではなく、より成熟した軟骨が遅延して生成(Delayed maturation of repair tissue)される可能性もある、という考察がなされています。
他の文献では、PSGAG投与によってグリコサミノグリカンおよびコラーゲンの生成が活性化されたり(Glade et al. AJVR. 1990;51:779)、骨関節炎の発現および悪化を防ぐ作用があることが報告されています(Hannan et al. JOR. 1987;5:47)。一方、今回の研究では、全ての郡の関節において、欠損箇所に接する関節面における軟骨損傷(いわゆるKissing lesion)が形成されており、PSGAGに軟骨保護作用(Chondro-protective effect)があることを裏付けるデータは示されませんでした。しかし、この軟骨保護作用は、PSGAGが継続的に投与されている期間中にのみ発揮されるという知見もあるため(Altman et al. Arth&Rheum. 1989;32:759)、この研究のように、PSGAG投与から長期間が経って検体採取された場合には、その効能が十分には示されなかった可能性もある、と考察されています。
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この研究論文では、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡的骨片摘出(Arthroscopic fragment removal)において、その予後(Prognosis)を大きく左右する要因である骨関節炎(Osteoarthritis)の予防法および治療法を検討するため、遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成した十八頭の実験馬を、馬房休養郡またはトレッドミル運動郡に分け、一方の手根関節にはPSGAG(Polysulfated glycosaminoglycan)を関節注射(=治療関節)、もう一方の手根関節には生食を関節注射(=無治療関節)して、手術から十七週間目に滑膜(Synovial membrane)および関節軟骨(Articular cartilage)の、組織学的検査(Histologic evaluation)および遺伝子活性解析(Gene expression analysis)が行われました。
この研究の運動郡では、術後の二週目から十二週目までは一日二回の常歩(最長60分)、十三週目から十七週目までは一日二回の速歩(最長25分)および常歩(最長15分)のトレッドミル運動が実施されました。そして、運動郡では休養郡に比べて、軟骨欠損部の治癒組織におけるグリコサミノグリカンおよび二型コラーゲンの含有量が、有意に高かったことが示されました。このため、馬の手根骨破片骨折の関節手術後には、適切な管理運動療法(Controlled exercise)を実施することで、より迅速かつ健常な関節軟骨の再生(Rapid/Healthy articular cartilage regeneration)を促す効果が期待されると考えられました。
一般的に、関節軟骨への酸素&栄養供給は軟骨下骨(Subchondral bone)からの血流ではなく滑液(Synovial fluid)に依存しており、関節への負荷と無負荷によって細胞外基質(Extra-cellular matrix)が、スポンジが水を吸い込むように滑液を灌流させることで、より良好な軟骨細胞(Chondrocytes)への栄養補給が達成され、軟骨治癒の促進につながると考えられています。他の文献では、連続性の受動的運動(Continuous passive motion)によって関節軟骨欠損の治癒が促進されたことが報告されており(Salter et al. JBJS. 1980;62:1237)、今回の研究ではこれを裏付けるデータが示されました。しかし、関節軟骨欠損のある馬に対する管理運動療法では、回復期(Convalescent period)に跛行の悪化(Lameness exacerbation)を呈したという知見もあることから、馬の手根骨破片骨折の関節手術後には、常歩のみの運動療法が適している可能性もある、という考察がなされています。
この研究では、運動郡における治療関節は無治療関節に比べて、軟骨欠損部の充填領域(Repair tissue coverage)が有意に狭かったことが示されました。また、治療関節は無治療関節に比べて、ヒドロキシリジンとヒドロキシプロリンの比率が有意に高く、コラーゲンと蛋白質の比率が有意に低かったことが示され、これらの異常所見は、二型コラーゲン含有量の減少と相関していました。このため、馬の手根骨破片骨折の関節手術直後には、PSGAGの関節内投与によって、関節軟骨の治癒に有害な作用(Detrimental effect)を及ぼすことが示唆されました。しかし、他の文献では、PSGAG投与された関節軟骨欠損部では、より血管性および細胞性の高い組織(More cellular and vascular tissue)で充填されることが示されていることから(Yovich et al. AJVR. 1987;48:1407)、PSGAG投与は関節軟骨の治癒を阻害するのではなく、より成熟した軟骨が遅延して生成(Delayed maturation of repair tissue)される可能性もある、という考察がなされています。
他の文献では、PSGAG投与によってグリコサミノグリカンおよびコラーゲンの生成が活性化されたり(Glade et al. AJVR. 1990;51:779)、骨関節炎の発現および悪化を防ぐ作用があることが報告されています(Hannan et al. JOR. 1987;5:47)。一方、今回の研究では、全ての郡の関節において、欠損箇所に接する関節面における軟骨損傷(いわゆるKissing lesion)が形成されており、PSGAGに軟骨保護作用(Chondro-protective effect)があることを裏付けるデータは示されませんでした。しかし、この軟骨保護作用は、PSGAGが継続的に投与されている期間中にのみ発揮されるという知見もあるため(Altman et al. Arth&Rheum. 1989;32:759)、この研究のように、PSGAG投与から長期間が経って検体採取された場合には、その効能が十分には示されなかった可能性もある、と考察されています。
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