馬の文献:手根骨破片骨折(Todhunter et al. 1993b)
文献 - 2016年05月30日 (月)

「運動およびPSGAGが馬の手根関節の骨軟骨欠損に起因する骨軟骨炎発症に及ぼす影響」
Todhunter RJ, Freeman KP, Yeager AE, Lust G. Effects of exercise and polysulfated glycosaminoglycan on the development of osteoarthritis in equine carpal joints with osteochondral defects. Vet Surg. 1993; 22(5): 330-342.
この研究論文では、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡的骨片摘出(Arthroscopic fragment removal)において、その予後(Prognosis)を大きく左右する要因である骨関節炎(Osteoarthritis)の予防法および治療法を検討するため、遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成した十八頭の実験馬を、馬房休養郡またはトレッドミル運動郡に分け、一方の手根関節にはPSGAG(Polysulfated glycosaminoglycan)を関節注射(=治療関節)、もう一方の手根関節には生食を関節注射(=無治療関節)して、レントゲン検査(Radiography)、超音波検査(Ultrasonography)、滑液検査(Arthrocentesis)、滑膜(Synovial membrane)および関節軟骨(Articular cartilage)の組織学的検査(Histologic evaluation)によって、PSGAGと運動の効果、および相乗効果(Synergistic effect)の評価が行われました。
この研究では、治療関節は無治療関節に比べて、レントゲン検査における骨関節炎の所見が、有意に少なかったことが示され、超音波検査における関節包(Joint capsule)および滑液貯留(Synovial fluid accumulation)の厚みも、有意に低かったことが報告されています。一方、治療関節は無治療関節に比べて、滑膜の慢性異常所見は有意に軽度であったものの、関節軟骨の治癒組織における二型コラーゲン含有量は有意に低かったことが報告されています。このため、馬の手根骨破片骨折の関節手術後には、PSGAGの関節内投与によって、臨床症状を改善(Ameliorated clinical signs)する効果が期待されることが示唆されました。
この研究の運動郡では、術後の二週目から六週目までは常歩(30~60分)、七週目から十七週目までは常歩(15~25分)および速歩(5~25分)のトレッドミル運動が実施されました。そして、運動郡では休養郡に比べて、跛行グレード、および、屈曲時の疼痛スコア(Pain grade at flexion)が有意に高かったことが示されました。また、運動郡では休養郡に比べて、滑液に含まれる滑膜細胞(Synovial lining cells)の数が有意に多く、滑膜の形態学的異常所見(Morphologic abnormalities)も有意に重度であったことが報告されています。このため、馬の手根骨破片骨折の関節手術後における管理運動療法(Controlled exercise)では、この研究よりも低強度(Lower intensity)の運動、または常歩のみの運動が適している可能性もあると考察されています。
この研究では、滑膜基質(Synovial matrix)の異常所見スコアは、運動郡の治療関節において最も低い値(=最も軽度の滑膜炎)を示し、運動とPSGAG投与による相乗効果が認められました。一般的に、関節疾患においては、運動によって滑液の灌流が向上されて、滑膜の治癒促進につながるものの、関節軟骨には過剰の負荷が掛かり、軟骨欠損部の治癒を妨げたり、欠損部と接触する箇所の異常(いわゆるKissing lesion)を続発する可能性もあります、しかし、運動に併行して、軟骨保護作用(Chondro-protective effect)のあるPSGAGを投与することで、関節軟骨への損傷を予防しながら、運動による滑膜治癒作用が期待できると考えられました。
この研究では、超音波検査における関節包+滑液貯留の厚みは、レントゲン検査における軟部組織の厚さと、良好な相関を示していました。このため、超音波検査による滑膜肥厚(Synovium thickening)もしくは滑液増加(Increased synovial fluid)の判定は、馬の骨関節炎の診断において、有用な指標になることが示唆されました。
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