馬の文献:手根骨破片骨折(Shepherd et al. 1993)
文献 - 2016年05月30日 (月)
「前腕手根関節麻酔によって跛行消失できなかった遠位橈骨の破片骨折」
Shepherd MC, Pilsworth RC. Failure of intra-articular anaesthesia of the antebrachiocarpal joint to abolish lameness associated with chip fracture of the distal radius. Equine Vet J. 1993; 25(5): 458-461.
この症例報告では、遠位橈骨の破片骨折(Chip fracture of distal radius)を呈したものの、前腕手根関節(Antebrachio-carpal joint)の関節診断麻酔(Intra-articular diagnostic anesthesia)によって、跛行消失(Abolish lameness)できなかった四頭の患馬が報告されています。
患馬は、二~三歳齢のサラブレッド競走馬で、中程度~重度の片側性前肢跛行(Moderate to severe unilateral forelimb lameness)の病歴で来院しましたが、低四点神経麻酔(Low 4-point nerve block)、中間手根関節麻酔(Mid-carpal joint block)、前腕手根関節麻酔の三種類の診断麻酔では、いずれも跛行の改善や消失は見られませんでした。しかし、レントゲン検査(Radiography)において、遠位橈骨の破片骨折が発見され、また、核医学検査(Nuclear scintigraphy)において、他の箇所の放射医薬性取込の増加(Increased radiopharmaceutical uptake)は認められなかったことから、この破片骨折が跛行原因であるという推定診断(Presumptive diagnosis)が下されました。
治療としては、四頭の患馬のうち二頭に対しては、馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)が選択され、残りの二頭に対しては、関節鏡手術(Arthroscopy)による骨片除去(Fragment removal)が行われました。そして、四頭の患馬のうち、三頭は運動復帰、二頭はレース復帰を果たしたことが報告されています。このため、この論文では、馬の跛行診断に際して、前腕手根関節麻酔への反応には慎重な判定を要すること、診断麻酔に他の画像診断を併用して、より信頼性のある跛行診断に努める必要があること、が強く示唆されました。
一般的に、診断麻酔による跛行症状の改善は、跛行検査(視診、触診、屈曲試験)および画像診断で認められた異常所見が、疼痛の原因であることを確定診断(Definitive diagnosis)するのに必須の手段です。この報告において、前腕手根関節内に破片骨折が存在していたにも関わらず、関節麻酔によって跛行改善が見られなかった潜在的要因(Potential factor)としては、(1)骨折片が橈骨に堅固に付着していて、関節内投与された麻酔薬が骨折箇所の深部まで到達できなかったこと、(2)サイズの小さい他の手根骨と異なり、橈骨遠位端は骨内膜(Endosteum)からの豊富な神経支配を受けているため、関節腔側からの麻酔薬の浸潤のみでは、十分な患部の無痛化(Analgesia)が達成できなかったこと、などが挙げられています。
この論文で示されたように、診断麻酔による陰性反応(Negative response)は、異常の発症箇所によっては、疼痛が存在していないことを証明する手段には必ずしも成りえず、跛行原因の除外診断(Rule-out)の決め手とは言えません。また、診断麻酔が想定外の範囲を無痛化してしまうことで、疼痛の発生箇所を見誤らせる場合もあり、これには、近位繋靭帯炎(Proximal suspensory desmitis)の症例において、中間手根関節麻酔によって跛行改善・消失が見られたり、底部種子骨骨折(Basilar sesamoid bone fracture)の症例において、遠軸神経麻酔(Abaxial nerve block)によって跛行改善・消失が見られる、などの例が含まれます。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:手根骨破片骨折


Shepherd MC, Pilsworth RC. Failure of intra-articular anaesthesia of the antebrachiocarpal joint to abolish lameness associated with chip fracture of the distal radius. Equine Vet J. 1993; 25(5): 458-461.
この症例報告では、遠位橈骨の破片骨折(Chip fracture of distal radius)を呈したものの、前腕手根関節(Antebrachio-carpal joint)の関節診断麻酔(Intra-articular diagnostic anesthesia)によって、跛行消失(Abolish lameness)できなかった四頭の患馬が報告されています。
患馬は、二~三歳齢のサラブレッド競走馬で、中程度~重度の片側性前肢跛行(Moderate to severe unilateral forelimb lameness)の病歴で来院しましたが、低四点神経麻酔(Low 4-point nerve block)、中間手根関節麻酔(Mid-carpal joint block)、前腕手根関節麻酔の三種類の診断麻酔では、いずれも跛行の改善や消失は見られませんでした。しかし、レントゲン検査(Radiography)において、遠位橈骨の破片骨折が発見され、また、核医学検査(Nuclear scintigraphy)において、他の箇所の放射医薬性取込の増加(Increased radiopharmaceutical uptake)は認められなかったことから、この破片骨折が跛行原因であるという推定診断(Presumptive diagnosis)が下されました。
治療としては、四頭の患馬のうち二頭に対しては、馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)が選択され、残りの二頭に対しては、関節鏡手術(Arthroscopy)による骨片除去(Fragment removal)が行われました。そして、四頭の患馬のうち、三頭は運動復帰、二頭はレース復帰を果たしたことが報告されています。このため、この論文では、馬の跛行診断に際して、前腕手根関節麻酔への反応には慎重な判定を要すること、診断麻酔に他の画像診断を併用して、より信頼性のある跛行診断に努める必要があること、が強く示唆されました。
一般的に、診断麻酔による跛行症状の改善は、跛行検査(視診、触診、屈曲試験)および画像診断で認められた異常所見が、疼痛の原因であることを確定診断(Definitive diagnosis)するのに必須の手段です。この報告において、前腕手根関節内に破片骨折が存在していたにも関わらず、関節麻酔によって跛行改善が見られなかった潜在的要因(Potential factor)としては、(1)骨折片が橈骨に堅固に付着していて、関節内投与された麻酔薬が骨折箇所の深部まで到達できなかったこと、(2)サイズの小さい他の手根骨と異なり、橈骨遠位端は骨内膜(Endosteum)からの豊富な神経支配を受けているため、関節腔側からの麻酔薬の浸潤のみでは、十分な患部の無痛化(Analgesia)が達成できなかったこと、などが挙げられています。
この論文で示されたように、診断麻酔による陰性反応(Negative response)は、異常の発症箇所によっては、疼痛が存在していないことを証明する手段には必ずしも成りえず、跛行原因の除外診断(Rule-out)の決め手とは言えません。また、診断麻酔が想定外の範囲を無痛化してしまうことで、疼痛の発生箇所を見誤らせる場合もあり、これには、近位繋靭帯炎(Proximal suspensory desmitis)の症例において、中間手根関節麻酔によって跛行改善・消失が見られたり、底部種子骨骨折(Basilar sesamoid bone fracture)の症例において、遠軸神経麻酔(Abaxial nerve block)によって跛行改善・消失が見られる、などの例が含まれます。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:手根骨破片骨折