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馬の文献:手根骨破片骨折(Barr et al. 1994)

「中心部および辺縁部病変の違いおよび術後運動が馬の手根関節の骨軟骨欠損治癒に及ぼす影響」
Barr AR, Wotton SF, Dow SM, Waterman AE, Goodship AE, Duance VC. Effect of central or marginal location and post-operative exercise on the healing of osteochondral defects in the equine carpus. Equine Vet J. 1994; 26(1): 33-39.

この研究論文では、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡的骨片摘出(Arthroscopic fragment removal)において、その予後に影響する要因を検討するため、24頭の実験馬を用いて、橈骨手根骨(Radial carpal bone)および中間手根骨(Intermediate carpal bone)の遠位関節面(Distal articular surface)に中心部または辺縁部の軟骨欠損(Central/Marginal cartilage defects)を作成し、そのうち半分は馬房休養(Stall rest)、残りの半分はトレッドミルでの常歩運動を行い、動力学的歩様解析(Kinetic gait analysis)による跛行検査(Lameness examination)、および術後11週間目における治療関節の組織学的検査(Histologic examination)による、関節軟骨治癒の評価が行われました。

結果としては、中心部病変では線維性軟骨(Fibrocartilage)による治癒が認められたのに対して、辺縁部病変では線維組織(Fibrous tissue)による充填のみが見られ、また、関節面全体に占める病変のサイズは、中心部病変では9.9%にとどまったのに対して、辺縁部病変では10.6%に達していました。このため、馬の関節欠損病変においては、辺縁部病変よりも中心部病変のほうが、より良好な軟骨治癒が期待されることが示唆されました。一般的に、馬の手根骨破片骨折では、その殆どが辺縁部病変の病態を呈しますが、他の関節における骨軟骨症(Osteochondrosis)や関節軟骨糜爛(Articular cartilage erosion)などにおいては、中心部病変および辺縁部病変のいずれかを呈する場合あるため、その病変の発症箇所が予後判定(Prognostication)の指標になりうると考えられました。

この研究では、辺縁部病変よりも中心部病変のほうが良好な軟骨再生(Cartilage degeneration)が起こり易い理由については、詳細には解明されておらず、また、一般的に、欠損部辺縁の軟骨組織(Defect margin)は、軟骨治癒の過程には大きく寄与しないことが知られています。しかし、欠損部内の充填組織と辺縁の軟骨組織のあいだには、堅固な結合(Firm attachment)が見られる場合が多いことから、この二つの組織が何らかの形で影響し合っている可能性もある、という考察がなされています。また、手根骨の辺縁部病変では、その背側箇所は滑膜(Synovial membrane)と接触することになるため、この近接性が欠損部内への線維組織浸潤(Fibrous tissue infiltration)に関与する可能性もあると推測されています。

この研究では、中心部および辺縁部病変の対側関節面(Opposing articular surface)における軟骨損傷(いわゆるKissing lesion)が認められ、馬房休養された馬よりも常歩運動が行われた馬のほうが、より重篤な損傷を呈したことが示されました。このため、馬の手根骨破片骨折における骨片摘出では、手術直後の運動療法は、関節軟骨の治癒を悪化(Exacerbation)させる危険があることが示唆されました。これは、運動時の滑液灌流の亢進(Improved synovial fluid perfusion)による軟骨代謝向上(Increased cartilage metabolism)というメリットよりも、軟骨欠損による不適合関節面(Incongruence of articular surface )に負荷が掛かることによる物理的損傷というデメリットのほうが、より大きく作用したためであると考察されています。

この研究では、中心部病変を持つ馬のほうが、辺縁部病変を持つ馬に比べて、より低い垂直力非対称性(Vertical force asymmetry)を示し(=より重度の跛行)、また、馬房休養された馬に比べた場合にも、術後に常歩運動が行われた馬のほうが、より低い垂直力非対称性(=より重度の跛行)を示しました。これらは、関節軟骨の機能障害(Functional disturbance)および関節疾患による疼痛を、より客観的に評価(Objective assessment)する手法として、動力学的歩様解析が有用であることを示すデータであると言えます。

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