馬の文献:手根骨破片骨折(Foland et al. 1994)
文献 - 2016年06月01日 (水)
「ベタメサゾンおよび運動が馬の手根関節の骨軟骨片に及ぼす影響」
Foland JW, McIlwraith CW, Trotter GW, Powers BE, Lamar CH. Effect of betamethasone and exercise on equine carpal joints with osteochondral fragments. Vet Surg. 1994; 23(5): 369-376.
この研究論文では、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡的骨片摘出(Arthroscopic fragment removal)において、その予後(Prognosis)に大きく影響する要因である骨関節炎(Osteoarthritis)の予防法および治療法を検討するため、両前肢の遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成した十二頭の実験馬を、馬房休養郡またはトレッドミル運動郡(術後17日目から)に分けて、一方の手根関節にはベタメサゾンを関節注射(=治療関節)、もう一方の手根関節には生食を関節注射(=無治療関節)して、手術から56日目にレントゲン検査(Radiography)、滑液検査(Arthrocentesis)、および、滑膜(Synovial membrane)と関節軟骨(Articular cartilage)の組織学的検査(Histologic evaluation)が行われました。
結果としては、レントゲン所見および触診(Palpation)では、治療関節と無治療関節のあいだに顕著な差は見られず、軟骨治癒(Cartilage healing)の状態も治療関節と無治療関節のあいだに有意差はありませんでした。また、滑膜や関節軟骨における組織学上の有害な作用(Detrimental effect)は、治療関節と無治療関節、および、休養郡と運動郡のいずれにも認められませんでした。このため、手根骨の破片骨折片が摘出された後に、ベタメサゾンの関節注射が行われても、軟骨損傷箇所の治癒を妨げることはなく、健常な周囲軟骨組織に対する副作用(Adverse effect)も無いことが示唆されました。
一般的に、馬の関節内骨折においては、コルチコステロイドなどを関節注射することで疼痛や跛行(Pain/Lameness)をやわらげる“治療”によって、早期の運動復帰が図られることが多いものの、このステロイド投与によって、軟骨細胞や細胞外基質(Extra-cellular matrix)に悪影響を及ぼす危険があると指摘されています(Behrens et al. JBJS. 1976;58A:1157)。そして、痛みを隠しながら運動を続けることで、ステロイドによって弱体化した関節軟骨に過剰な負荷が掛かり、二次的な変性関節疾患(Degenerative joint disease)を引き起こす可能性がある、と考えられています。
この研究における、ベタメサゾンの関節注射では、メチルプレドニゾロンの関節注射で見られたような副作用(Shoemaker et al. AJVR. 1992;53:1446)は確認されませんでした。しかし、この研究では、ベタメサゾンは術後の17日目と35日目の二回しか投与されておらず、また、組織学的検査では、治療関節のほうが無治療関節に比べて、関節軟骨のグリコサミノグリカン含有量が低い傾向にありました(統計的な有意差は無し)。このため、この研究のデータのみから、ベタメサゾンの関節注射が常に安全であると結論付けるのは適当ではない、という警鐘が鳴らされており、複数回のベタメサゾン投与が繰り返された場合や、異なる投与濃度が用いられた場合の有害作用については、より長期的な実験および臨床成績に基づいて評価する必要がある、という考察がなされています。また、過去のメチルプレドニゾロンの実験と、今回のベタメサゾンの実験では、関節疾患モデルが微妙に異なることから、二つの文献のデータを合わせることで、ベタメサゾンはメチルプレドニゾロンよりも安全であると推測するのは難しい、と考えられています。
この研究では、運動郡の六頭のうち、56日目に軽度跛行(Mild lameness)を呈したのは五頭で、このうち四頭は無治療肢の跛行でした。一方、休養郡の六頭のうち、跛行を呈したのは五頭で、このうち二頭は無治療肢の跛行、二頭は治療肢の跛行、残りの一頭は両側性跛行(Bilateral lameness)でした。このため、ベタメサゾンの関節注射では、これまで考えられていたよりも長期間にわたって疼痛が緩和される可能性がある、という考察がなされています。
この研究では、休養群の治療関節(Treated joints in rested horses)では、休養群の無治療関節(Untreated joints in rested horses)に比べて、組織学的検査における滑膜の炎症性変化(Inflammatory changes)が高い傾向にありました。このように、ステロイド投与された関節のほうが炎症性反応が高いという、やや矛盾する結果(Conflicting result)が示された理由については、この論文内では詳細には特定されていませんが、薬剤が微結晶性組成(Micro-crystalline nature of the preparation)であったことが関与するのではないか、と推測されています。
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この研究論文では、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡的骨片摘出(Arthroscopic fragment removal)において、その予後(Prognosis)に大きく影響する要因である骨関節炎(Osteoarthritis)の予防法および治療法を検討するため、両前肢の遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成した十二頭の実験馬を、馬房休養郡またはトレッドミル運動郡(術後17日目から)に分けて、一方の手根関節にはベタメサゾンを関節注射(=治療関節)、もう一方の手根関節には生食を関節注射(=無治療関節)して、手術から56日目にレントゲン検査(Radiography)、滑液検査(Arthrocentesis)、および、滑膜(Synovial membrane)と関節軟骨(Articular cartilage)の組織学的検査(Histologic evaluation)が行われました。
結果としては、レントゲン所見および触診(Palpation)では、治療関節と無治療関節のあいだに顕著な差は見られず、軟骨治癒(Cartilage healing)の状態も治療関節と無治療関節のあいだに有意差はありませんでした。また、滑膜や関節軟骨における組織学上の有害な作用(Detrimental effect)は、治療関節と無治療関節、および、休養郡と運動郡のいずれにも認められませんでした。このため、手根骨の破片骨折片が摘出された後に、ベタメサゾンの関節注射が行われても、軟骨損傷箇所の治癒を妨げることはなく、健常な周囲軟骨組織に対する副作用(Adverse effect)も無いことが示唆されました。
一般的に、馬の関節内骨折においては、コルチコステロイドなどを関節注射することで疼痛や跛行(Pain/Lameness)をやわらげる“治療”によって、早期の運動復帰が図られることが多いものの、このステロイド投与によって、軟骨細胞や細胞外基質(Extra-cellular matrix)に悪影響を及ぼす危険があると指摘されています(Behrens et al. JBJS. 1976;58A:1157)。そして、痛みを隠しながら運動を続けることで、ステロイドによって弱体化した関節軟骨に過剰な負荷が掛かり、二次的な変性関節疾患(Degenerative joint disease)を引き起こす可能性がある、と考えられています。
この研究における、ベタメサゾンの関節注射では、メチルプレドニゾロンの関節注射で見られたような副作用(Shoemaker et al. AJVR. 1992;53:1446)は確認されませんでした。しかし、この研究では、ベタメサゾンは術後の17日目と35日目の二回しか投与されておらず、また、組織学的検査では、治療関節のほうが無治療関節に比べて、関節軟骨のグリコサミノグリカン含有量が低い傾向にありました(統計的な有意差は無し)。このため、この研究のデータのみから、ベタメサゾンの関節注射が常に安全であると結論付けるのは適当ではない、という警鐘が鳴らされており、複数回のベタメサゾン投与が繰り返された場合や、異なる投与濃度が用いられた場合の有害作用については、より長期的な実験および臨床成績に基づいて評価する必要がある、という考察がなされています。また、過去のメチルプレドニゾロンの実験と、今回のベタメサゾンの実験では、関節疾患モデルが微妙に異なることから、二つの文献のデータを合わせることで、ベタメサゾンはメチルプレドニゾロンよりも安全であると推測するのは難しい、と考えられています。
この研究では、運動郡の六頭のうち、56日目に軽度跛行(Mild lameness)を呈したのは五頭で、このうち四頭は無治療肢の跛行でした。一方、休養郡の六頭のうち、跛行を呈したのは五頭で、このうち二頭は無治療肢の跛行、二頭は治療肢の跛行、残りの一頭は両側性跛行(Bilateral lameness)でした。このため、ベタメサゾンの関節注射では、これまで考えられていたよりも長期間にわたって疼痛が緩和される可能性がある、という考察がなされています。
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