馬の病気:蟻洞
馬の蹄病 - 2013年06月17日 (月)

蟻洞(Hoof wall separation)について。
白線裂(White line separation)に起因して蹄壁と葉状層が解離して、細菌および真菌感染(Bacterial/Fungal infection)を起こす疾患です。病因としては、不衛生な馬房環境(Poor stall hygiene)、蹄管理不備(Neglected hoof care)、穿孔性外傷(Penetrating wound)、慢性蹄葉炎(Chronic laminitis)に続発する蹄尖部の白線肥厚(White line thickening:いわゆるSeedy toe)などが挙げられています。蟻洞内の上行性感染(Ascending infection)によって、白線膿瘍(White line abscess)を併発した場合には、中程度~重度の跛行(Moderate to severe lameness)を呈し、蹄冠部からの化膿性排液(Purulent discharge on the coronary band)を生じる場合もあります。
蟻洞の診断は蹄底白線部の視診によって下されますが、蹄鉗子検査(Hoof tester examination)による圧痛探知と羅患白線部の削切によって、膿瘍発症部位を発見することが重要です。一般的に、掌側神経麻酔(Palmar nerve block)によって跛行の改善または消失が見られますが、急性の蹄疼痛を呈する他の類似疾患(蹄血班、蹄底膿瘍、蹄骨骨折、etc)を慎重に除外診断(Rule-out)することが大切です。蟻洞の深さは蹄壁の打診によって推測できる場合もありますが、蹄壁のレントゲン検査や瘻孔造影法(Fistulogram)によって正確な深度を確認する手法も有用です。白線膿瘍の症例では、排膿孔(Drainage tract)が蹄冠のすぐ上部に開口している所見で、側副軟骨壊死症(Quittor)(=側副軟骨よりも近位部において排膿する症例が多い)との鑑別が可能な場合もあります。
深部に達していない初期病態の蟻洞では、白線削切による排膿孔の形成と、硫酸マグネシウム(Magnesium sulfate: Epsom salts)の蹄底充填による蹄バンテージが施されますが、一週間前後で跛行改善が見られない場合には、レントゲン検査によって蟻洞の浸潤度や側副軟骨の感染などを確認することが重要です。蹄冠部まで達する深部蟻洞(Deep gravel)では、レントゲン検査によって白線膿瘍の発症部位を確かめ、蹄壁の円鋸術(Hoof wall trephination)によって排液孔を設けることで、速やかな排膿と病巣消毒が行われる症例もあります。この場合には、深部組織への感染の危険を考慮して、全身性の抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)と破傷風ワクチンの接種を実施します。白線膿瘍が広範囲におよぶような重篤な蟻洞においては、羅患部の蹄壁除去(Hoof wall resection)を施し、深部病巣が充分に乾燥および角質化して、細菌や真菌の感染が減退したことが確認されれば、Equiloxなどのアクリル素材(Acrylic material)によって蹄壁被覆が可能な場合もあります。この際、深部の蟻洞病巣は重度の感染性組織であるため、24時間にわたる羅患蹄の消毒剤への浸漬(Antiseptic soak)を行った後で蹄壁被覆を施すことで、アクリル素材下での感染拡大を予防する効果が期待できます。
蟻洞は長期にわたる治療を要し、再発(Recurrence)を起こしやすい疾患であるため、完治のためには羅患蹄の治療に併行して、馬房の衛生化と蹄管理の改善を行うことが重要です。また、蹄壁の強度改善を目的とした、様々な種類の栄養補助飼料(Nutraceutical agents)も市販されています。
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