馬の文献:手根骨破片骨折(Frisbie et al. 1997)
文献 - 2016年06月08日 (水)
「骨軟骨片と運動による馬の骨関節炎モデルに対するトリアムシノロンの影響」
Frisbie DD, Kawcak CE, Trotter GW, Powers BE, Walton RM, McIlwraith CW. Effects of triamcinolone acetonide on an in vivo equine osteochondral fragment exercise model. Equine Vet J. 1997; 29(5): 349-359.
この研究論文では、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡的骨片摘出(Arthroscopic fragment removal)において、その予後(Prognosis)に大きく影響する要因である骨関節炎(Osteoarthritis)の予防法および治療法を検討するため、片方の前肢の遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成した十八頭の実験馬のうち、六頭は関節注射なし(=無治療対照郡)、六頭は軟骨欠損を作成した関節へのトリアムシノロン注射(術後の13日目と27日目)(=治療郡)、残りの六頭は対側肢の正常手根関節へのトリアムシノロン注射を行い(=治療対照郡)、トレッドミル運動(術後14日目から)による負荷を与えて、手術から56日目にレントゲン検査(Radiography)、滑液検査(Arthrocentesis)、および、手術から72日目に跛行検査(Lameness examination)と、滑膜(Synovial membrane)と関節軟骨(Articular cartilage)の組織学的検査(Histologic evaluation)が行われました。
結果としては、治療郡の馬は、無治療対照郡および治療対照郡の馬に比べて、有意に低い跛行グレードを示し、滑液検査でも、有意に低い蛋白濃度と、有意に高いヒアルロン酸およびグリコサミノグリカン濃度が認められました。また、組織学的検査では、治療郡および治療対照郡の馬は、無治療対照郡の馬に比べて、滑膜の炎症性細胞浸潤(Inflammatory cell infiltration)が有意に少なく、関節軟骨の組織形態学的指標(Histomorphological parameters)が有意に高かったことが報告されています。このため、馬の手根骨破片骨折における骨折片摘出(Fragment removal)では、トリアムシノロンの関節注射によって、疼痛緩和や滑膜炎(Synovitis)の改善、および関節軟骨治癒(Articular cartilage healing)の向上が期待され、このうち、滑膜および関節軟骨への効能は、実際にトリアムシノロンが注射された関節だけでなく、他の関節にも及ぶことが示唆されました。
一般的に、馬の関節性骨折(Articular fracture)では、骨片摘出や内固定(Internal fixation)のあとに、コルチコステロイドを関節内投与することで痛みや跛行(Pain/Lameness)を緩和して、早期に運動復帰させるという“治療”方針が取られることがあります。しかし、ステロイド投与に起因して、軟骨細胞(Chondrocytes)や細胞外基質(Extra-cellular matrix)に悪影響を及ぼしたり(Behrens et al. JBJS. 1976;58A:1157)、疼痛をごまかしながら騎乗し続けることで、弱体化した関節軟骨への過剰負荷による二次性変性関節疾患(Degenerative joint disease)を引き起こす危険がある、と考えられています。今回の研究では、トリアムシノロンが投与された関節において、見た目の跛行が減退するという「臨床症状改善効果」(Clinical sign-modifying effect)が達成されるだけでなく、トリアムシノロンが投与された関節、および対側肢の関節においても、関節軟骨の組織形態学的状態が良化するという「病気改善効果」(Disease-modifying effect)が期待できることが示唆されました。
一般的に、滑液内のグリコサミノグリカン濃度については、相反する解釈(Conflicting interpretation)があり、関節軟骨が変性を起こすことで、軟骨組織中のグリコサミノグリカンが滑液内に漏れ出すという見解がある反面、関節軟骨が治癒する過程で、軟骨組織内での基質合成の度合いを反映する、という見解もあります。また、滑液内のグリコサミノグリカン含有量は、関節内の急性炎症反応(Acute inflammatory process)を示す指標になる、という知見も報告されています(Ratcliffe et al. Ann Rhem Dis. 1988;47:826)。今回の研究では、トリアムシノロンが投与された関節において、滑液のグリコサミノグリカン濃度が緩やかに上昇した後、投与の七日目までに正常値まで戻ったことから、関節注射による軟骨治癒の向上が、グリコサミノグリカン含有量の増加につながった可能性がある、という考察がなされています。
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この研究論文では、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡的骨片摘出(Arthroscopic fragment removal)において、その予後(Prognosis)に大きく影響する要因である骨関節炎(Osteoarthritis)の予防法および治療法を検討するため、片方の前肢の遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成した十八頭の実験馬のうち、六頭は関節注射なし(=無治療対照郡)、六頭は軟骨欠損を作成した関節へのトリアムシノロン注射(術後の13日目と27日目)(=治療郡)、残りの六頭は対側肢の正常手根関節へのトリアムシノロン注射を行い(=治療対照郡)、トレッドミル運動(術後14日目から)による負荷を与えて、手術から56日目にレントゲン検査(Radiography)、滑液検査(Arthrocentesis)、および、手術から72日目に跛行検査(Lameness examination)と、滑膜(Synovial membrane)と関節軟骨(Articular cartilage)の組織学的検査(Histologic evaluation)が行われました。
結果としては、治療郡の馬は、無治療対照郡および治療対照郡の馬に比べて、有意に低い跛行グレードを示し、滑液検査でも、有意に低い蛋白濃度と、有意に高いヒアルロン酸およびグリコサミノグリカン濃度が認められました。また、組織学的検査では、治療郡および治療対照郡の馬は、無治療対照郡の馬に比べて、滑膜の炎症性細胞浸潤(Inflammatory cell infiltration)が有意に少なく、関節軟骨の組織形態学的指標(Histomorphological parameters)が有意に高かったことが報告されています。このため、馬の手根骨破片骨折における骨折片摘出(Fragment removal)では、トリアムシノロンの関節注射によって、疼痛緩和や滑膜炎(Synovitis)の改善、および関節軟骨治癒(Articular cartilage healing)の向上が期待され、このうち、滑膜および関節軟骨への効能は、実際にトリアムシノロンが注射された関節だけでなく、他の関節にも及ぶことが示唆されました。
一般的に、馬の関節性骨折(Articular fracture)では、骨片摘出や内固定(Internal fixation)のあとに、コルチコステロイドを関節内投与することで痛みや跛行(Pain/Lameness)を緩和して、早期に運動復帰させるという“治療”方針が取られることがあります。しかし、ステロイド投与に起因して、軟骨細胞(Chondrocytes)や細胞外基質(Extra-cellular matrix)に悪影響を及ぼしたり(Behrens et al. JBJS. 1976;58A:1157)、疼痛をごまかしながら騎乗し続けることで、弱体化した関節軟骨への過剰負荷による二次性変性関節疾患(Degenerative joint disease)を引き起こす危険がある、と考えられています。今回の研究では、トリアムシノロンが投与された関節において、見た目の跛行が減退するという「臨床症状改善効果」(Clinical sign-modifying effect)が達成されるだけでなく、トリアムシノロンが投与された関節、および対側肢の関節においても、関節軟骨の組織形態学的状態が良化するという「病気改善効果」(Disease-modifying effect)が期待できることが示唆されました。
一般的に、滑液内のグリコサミノグリカン濃度については、相反する解釈(Conflicting interpretation)があり、関節軟骨が変性を起こすことで、軟骨組織中のグリコサミノグリカンが滑液内に漏れ出すという見解がある反面、関節軟骨が治癒する過程で、軟骨組織内での基質合成の度合いを反映する、という見解もあります。また、滑液内のグリコサミノグリカン含有量は、関節内の急性炎症反応(Acute inflammatory process)を示す指標になる、という知見も報告されています(Ratcliffe et al. Ann Rhem Dis. 1988;47:826)。今回の研究では、トリアムシノロンが投与された関節において、滑液のグリコサミノグリカン濃度が緩やかに上昇した後、投与の七日目までに正常値まで戻ったことから、関節注射による軟骨治癒の向上が、グリコサミノグリカン含有量の増加につながった可能性がある、という考察がなされています。
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