馬の文献:手根骨破片骨折(Frisbie et al. 1998)
文献 - 2016年06月09日 (木)

「骨軟骨片と運動による馬の骨関節炎モデルに対する6アルファ・メチルプレドニゾロンの影響」
Frisbie DD, Kawcak CE, Baxter GM, Trotter GW, Powers BE, Lassen ED, McIlwraith CW. Effects of 6alpha-methylprednisolone acetate on an equine osteochondral fragment exercise model. Am J Vet Res. 1998; 59(12): 1619-1628.
この研究論文では、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡的骨片摘出(Arthroscopic fragment removal)において、その予後(Prognosis)に大きく影響する要因である骨関節炎(Osteoarthritis)の予防法および治療法を検討するため、片方の前肢の遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成した十八頭の実験馬のうち、六頭は多イオン溶液の両側関節投与(=対照郡)、六頭は軟骨欠損を作成した関節への6アルファ・メチルプレドニゾロン注射(術後の14日目と28日目)(=治療郡)、残りの六頭は対側肢の正常手根関節への6アルファ・メチルプレドニゾロン注射を行い(=治療対照郡)、トレッドミル運動(術後15日目から)による負荷を与えて、レントゲン検査(Radiography)、滑液検査(Arthrocentesis)、跛行検査(Lameness examination)、および、滑膜(Synovial membrane)と関節軟骨(Articular cartilage)の組織学的検査(Histologic evaluation)が行われました。
結果としては、治療郡の馬の手根関節では、対照郡&治療対照郡の馬の手根関節に比べて、滑液内のプロスタグランディン濃度が有意に低く、また、滑膜における内膜肥厚(Intimal hyperplasia)や血管浸潤(Vascularity)などの組織学的スコアが、有意に低かったことが報告されています。しかし、跛行グレードの減少は、6アルファ・メチルプレドニゾロン投与とは相関しておらず、治療郡の馬の手根関節では、軟骨糜爛(Cartilage erosion)や形態学的病巣(Morphologic lesion)などが認められました。このため、手根骨の破片骨折片が摘出された後に、6アルファ・メチルプレドニゾロンの関節注射が行われると、滑膜炎(Synovitis)の減退などの効能が期待されるものの、疼痛緩和という「臨床症状改善効果」(Clinical-sign modifying effect)は示されず、また、軟骨欠損箇所および周囲の健常軟骨に対しては、「病気改善効果」(Disease-modifying effect)が証明されなかっただけでなく、有害な作用(Detrimental effect)を及ぼす可能性があることが示唆されました。
一般的に、馬の関節疾患に対しては、手術の数週間目からコルチコステロイドを関節注射することで、滑膜の炎症性細胞の活性を抑制(Suppression of inflammatory cell activities)したり、疼痛を緩和(Pain reduction)させることで、早期の運動復帰を達成する“治療”が行われています。このような、コルチコステロイドの局所投与では、関節浮腫(Joint edema)の減退や、滑膜細胞の安定化(Stabilization of synovial cells)などの効能が示されている反面(Owen et al. JAVMA. 1980;177:710)、細胞尾外基質のグリコサミノグリカン含量の減少(Loss of glycosaminoglycan content)や、コラーゲン含量の増加(Increased collagen content)によって、関節軟骨の弾力性(Resilience)が失われます。そして、軽度の関節痛(Mild arthralgia)はステロイドで覆い隠されていることから、正常時以上の負荷が弱体化した関節軟骨に掛けられることになり、関節軟骨の損傷や骨関節炎の発症に至ると仮説されており、他の文献でも、メチルプレドニゾロンの関節注射に起因する、関節組織への有害作用が示されています(Shoemaker et al. AJVR. 1992;53:1446)。
この研究では、治療対照郡の馬の手根関節の手根関節では、治療郡&対照郡の馬の手根関節に比べて、関節軟骨のグリコサミノグリカン含有量が有意に高かったことが示されました。つまり、軟骨欠損が起きた関節に直接的に6アルファ・メチルプレドニゾロンが投与された場合には、有意な治療効果は認められなかったのに対して、対側肢(Contralateral limb)の手根関節に6アルファ・メチルプレドニゾロンが投与されると、軟骨欠損が起きた関節(=関節注射はされていない関節)に対して、軟骨治癒を促す効能が示されたことになります。このような対側治療効果(Contralateral effect)は、他の文献におけるトリアムシノロンの手根関節内投与でも報告されています(Frisbie et al. EVJ. 1997;29:349)。
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