馬の文献:手根骨破片骨折(Wilke et al. 2001)
文献 - 2016年06月12日 (日)
「馬の手根骨の掌側部骨折:1984~2000年の10症例」
Wilke M, Nixon AJ, Malark J, Myhre G. Fractures of the palmar aspect of the carpal bones in horses: 10 cases (1984-2000). J Am Vet Med Assoc. 2001; 219(6): 801-804.
この症例論文では、手根関節の掌側部(Palmar aspect of carpal joint)に破片骨折(Chip fracture)を生じた十頭の患馬における、症状、診断法、および関節鏡手術(Arthroscopy)による治療成績が報告されています。
結果としては、十頭の患馬のうち、保存性療法(Conservative treatment)が選択された四頭では、不応性の跛行(Recalcitrant lameness)によって三頭が安楽死(Euthanasia)となり(生存率:25%)、残りの一頭も運動復帰はできませんでした。一方、関節鏡手術による骨片摘出(Fragment removal)が応用された六頭では、半数が安楽死となり(生存率:50%)、残りの三頭のうち、二頭は軽度の慢性跛行(Mild chronic lameness)のため、軽度の騎乗使役に復帰し、最後の一頭のみが競技使役に復帰したことが報告されています。このため、馬の手根骨の掌側部骨折では、慢性跛行のため運動復帰できない場合が多いものの、関節鏡手術を介しての骨片摘出によって、ある程度は予後を改善できることが示唆されました。
この研究では、手根骨破片骨折を呈した十頭の患馬は、急性発現性(Acute onset)の軽度~中程度跛行(Mild to moderate lameness)、前腕手根関節の膨満(Effusion of antebrachial-carpal joint)などの症状を示し(中間手根関節の膨満は殆どなし)、関節屈曲時の重篤な疼痛反応(Severe pain at flexion)、前腕手根関節の診断麻酔(Diagnostic anesthesia)による顕著な跛行改善(Marked lameness improvement)などが認められました。そして、全頭の症例において、通常のレントゲン検査(Routine radiography)で手根骨掌側部の骨折片を発見することで、確定診断(Definitive diagnosis)が下され、特殊な撮影法や他の画像診断法は要しませんでした。
この研究では、十頭の患馬のうち、全頭が橈側手根骨の掌側面(Palmar surface of the radial carpal bone)の破片骨折を呈し、これに併発した掌側破片骨折の発生箇所としては、橈骨遠位端(Distal end of radius)が四頭、尺側手根骨(Ulnar carpal bone)が二頭、中間手根骨(Intermediate carpal bone)が二頭などとなっていました。一方、今回の研究では、手根骨間靭帯(Inter-carpal ligament)や側副靭帯(Collateral ligament)などの、手根関節の安定性をになう結合組織の損傷度合いは評価されておらず、馬の手根骨の掌側部骨折において、予後不良を呈することが多い要因が、骨折箇所そのものの問題なのか、他の関節内組織の問題なのかは、詳細には考察されていません。
この研究では、馬の手根骨の掌側部骨折における関節鏡的骨片摘出のため、橈側手根骨の掌側骨端より僅かに掌側に設けた穿刺切開創(Stab incisionから関節鏡を挿入し、骨折片の位置に応じて器具ポータルのための、二つ目の穿刺切開創を設ける術式が選択されました。しかし、尺側手根骨および中間手根骨の掌側面に対しては、アプローチが困難である場合も多いという知見が示されており、完全な骨片摘出および病巣清掃(Debridement)のためには、関節切開術(Arthrotomy)を要する症例もありうることが報告されています。
この研究では、十頭の患馬のうち、七頭は無援助での麻酔覚醒(Unassisted anesthesia recovery)の際に骨折が発症し、残りの三頭のうち、一頭は転倒、二頭は放牧時に骨折を起こしたことが示されました。このため、馬の手根骨の掌側部骨折では、麻酔覚醒の際に馬がフラつくことが、重要な危険因子(Risk factor)になりうると考察されています。
馬の手根骨の掌側部骨折の発症機序は、正確には解明されていませんが、手根関節が屈曲した状態で転倒して、各手根骨の掌側縁(Palmar borders of carpal bones)が橈骨遠位端に衝突したり、馬が前肢をねじった際に、特に橈側手根骨の掌側面に重度の剪断負荷(Shear stress)が掛かることで、手根骨の掌側部骨折に至るという病因論が仮説されています。
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結果としては、十頭の患馬のうち、保存性療法(Conservative treatment)が選択された四頭では、不応性の跛行(Recalcitrant lameness)によって三頭が安楽死(Euthanasia)となり(生存率:25%)、残りの一頭も運動復帰はできませんでした。一方、関節鏡手術による骨片摘出(Fragment removal)が応用された六頭では、半数が安楽死となり(生存率:50%)、残りの三頭のうち、二頭は軽度の慢性跛行(Mild chronic lameness)のため、軽度の騎乗使役に復帰し、最後の一頭のみが競技使役に復帰したことが報告されています。このため、馬の手根骨の掌側部骨折では、慢性跛行のため運動復帰できない場合が多いものの、関節鏡手術を介しての骨片摘出によって、ある程度は予後を改善できることが示唆されました。
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この研究では、十頭の患馬のうち、全頭が橈側手根骨の掌側面(Palmar surface of the radial carpal bone)の破片骨折を呈し、これに併発した掌側破片骨折の発生箇所としては、橈骨遠位端(Distal end of radius)が四頭、尺側手根骨(Ulnar carpal bone)が二頭、中間手根骨(Intermediate carpal bone)が二頭などとなっていました。一方、今回の研究では、手根骨間靭帯(Inter-carpal ligament)や側副靭帯(Collateral ligament)などの、手根関節の安定性をになう結合組織の損傷度合いは評価されておらず、馬の手根骨の掌側部骨折において、予後不良を呈することが多い要因が、骨折箇所そのものの問題なのか、他の関節内組織の問題なのかは、詳細には考察されていません。
この研究では、馬の手根骨の掌側部骨折における関節鏡的骨片摘出のため、橈側手根骨の掌側骨端より僅かに掌側に設けた穿刺切開創(Stab incisionから関節鏡を挿入し、骨折片の位置に応じて器具ポータルのための、二つ目の穿刺切開創を設ける術式が選択されました。しかし、尺側手根骨および中間手根骨の掌側面に対しては、アプローチが困難である場合も多いという知見が示されており、完全な骨片摘出および病巣清掃(Debridement)のためには、関節切開術(Arthrotomy)を要する症例もありうることが報告されています。
この研究では、十頭の患馬のうち、七頭は無援助での麻酔覚醒(Unassisted anesthesia recovery)の際に骨折が発症し、残りの三頭のうち、一頭は転倒、二頭は放牧時に骨折を起こしたことが示されました。このため、馬の手根骨の掌側部骨折では、麻酔覚醒の際に馬がフラつくことが、重要な危険因子(Risk factor)になりうると考察されています。
馬の手根骨の掌側部骨折の発症機序は、正確には解明されていませんが、手根関節が屈曲した状態で転倒して、各手根骨の掌側縁(Palmar borders of carpal bones)が橈骨遠位端に衝突したり、馬が前肢をねじった際に、特に橈側手根骨の掌側面に重度の剪断負荷(Shear stress)が掛かることで、手根骨の掌側部骨折に至るという病因論が仮説されています。
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