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馬の文献:手根骨破片骨折(Hurtig et al. 2001)

「馬の第三手根骨における関節鏡手術によるモザイク関節形成術」
Hurtig M, Pearce S, Warren S, Kalra M, Miniaci A. Arthroscopic mosaic arthroplasty in the equine third carpal bone. Vet Surg. 2001; 30(3): 228-239.

この研究論文では、馬の関節内骨折(Intra-articular fracture)や骨軟骨症(Osteochondrosis)における、骨片摘出(Fragment removal)や病巣清掃術(Debridement)のあとの関節軟骨欠損(Articular cartilage defect)に対する、関節鏡手術によるモザイク関節形成術(Arthroscopic mosaic arthroplasty)の実行可能性(Feasibility)および治療効果を評価するため、六頭の馬に対して、遠位外側大腿滑車(distal aspect of lateral femoral trochlea)から採取した直径4.5cmの骨軟骨移植片(Osteochondral grafts)を、第三手根骨の橈側関節面(Radial facet of third carpal bone)に作成した軟骨欠損部に埋め込んだあと、術後の六ヶ月目から運動負荷を掛けて、術後の九ヶ月目における軟骨治癒の評価が行われました。

結果としては、全頭が術後の三週間目には跛行を示さなかったものの、術後の六ヶ月目においては、移植された骨軟骨片が柔らかく不透明(Soft and opaque appearance)であったことが確認されました。そして、術後の九ヶ月目においては、移植片の骨側部位は受取箇所(Recipient site)の軟骨下骨(Subchondral bone)と堅固に結合していたものの、三分の一の移植片において、軟骨側部位の変性(Cartilage degeneration)が見られました。さらに、軟骨欠損領域への新たな治癒組織の浸潤は殆ど認められず、移植片の軟骨からグリコサミノグリカンが損失していたことが報告されています。このため、第三手根骨の橈側関節面に対するモザイク関節形成術では、限られた治療効果(Limited therapeutic response)しか示されず、長期的な予後改善にはつながらない可能性が高いことが示唆されています。一方で、軟骨変性やグリコサミノグリカン損失は、外科的術式の不備ではなく、運動開始時期が早過ぎたために起こった可能性もある、という考察もなされています。

一般的に、軟骨欠損部に対するモザイク関節形成術では、関節軟骨と軟骨下骨の両方を含む移植片を埋め込むことで、軟骨治癒よりも迅速な骨治癒によって移植片と受取箇所が強固に結合し、関節面の再平坦化(Joint resurfacing)が達成されることから、人間や馬の膝関節に対して応用されています。今回の研究でも、骨同士の癒合は達成されたものの、表層にあった関節軟骨は変性を起こしていたことから、馬の手根骨へのモザイク関節形成術に対しては、軟骨の厚み(Cartilage thickness)、生体力学的構成(Biochemical constituents)、物理的特徴(Physical properties)などが合致する箇所からの移植片を用いる必要がある、という考察がなされています。

この研究では、人間のモザイク関節形成術に用いられる外科器具を、大きな改良(Major modification)なしで馬にも使用できることが示されましたが、遠位外側大腿滑車からの移植片採取の際には、関節面の直角に器具を当てるのが難しい場合もあることが示されました。また、受取箇所への関節面へと直角に器具を当てるため、橈側手根伸筋およびその腱鞘(Extensor carpi radial tendon and sheath)を穿孔するような切開創を要したことが報告されています。

一般的に、モザイク関節形成術の実施に際しては、供与箇所(Donor site)と受取箇所の軟骨の厚さが異なると、関節面の不連続性(Lack of articular surface continuity)が生じることが知られていますが、この問題は、関節軟骨が薄い場合ほど起こり易いと考えられています。つまり、関節軟骨の厚さが人間(約3mm)よりもかなり薄い馬(約0.5mm)においては、関節面の完全な平坦化が出来ない場合が多く、この結果、移植片表層の軟骨へと異常な圧迫&剪断負荷(Abnormal compressive/shear force)が掛かり、軟骨変性を続発したと考察されています。

この研究において、遠位外側大腿滑車が供与箇所に選ばれた理由としては、(1)関節鏡によるアプローチが容易であること、(2)この箇所の直径5mm以下の軟骨欠損は自発的治癒(Spontaneous healing)を示すこと、(3)この箇所の軟骨欠損を呈した若齢馬は一般的に良好な予後を示すこと、などが挙げられています。しかし、馬の手根骨は大きな圧迫負荷が掛かるため、密度の高い軟骨下骨と薄い関節軟骨で構成されているため、比較的に大きな滑走負荷(Gliding force)の掛かる大腿滑車とは、骨&軟骨組織の生体力学的特徴(Biomechanical characteristics)がかなり異なるため、この箇所から採取された移植片は、手根関節面における新たな物理的環境に対応できなかった、という考察がなされています。しかし、馬の手根関節に対するモザイク関節形成術において、どの関節部位が最も適した供与箇所であるかに関しては、明確な考察はなされていません。

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